宴【4】
「……いいさいいさ。どーせ、あたしゃ変でさぁ。」
いっそ突き抜けてやろうかといじける22歳の男。
惨めな事この上なかった。
さて、こんな時に役に立つ男が相良だ。
伊達に3年間彼と苦楽をともにした仲ではない。
何度かジソウは相良の実家に訪れてはしごかれ、祖父に気に入られ、妹には懐かれてと、家族ぐるみの付き合いをしている。気の置けない、親友と呼べる関係だ。
なので、こういう面倒な状態のジソウの扱いには慣れている。
「話が逸れてしまったな。実はクレナイ、このブローチは先程リミカが製作したものなんだ。」
「へ、へえー。」
散々弄り倒していた分、ちょっとばかり罪悪感を覚えたクレナイは、完全にスルーを敢行する相良に恐れ戦き、歯切れの悪い返事になった。
しかし、ジソウの言葉を思い出す限り、結構性能が良いものらしいので、それをリミカが製作したものだと聞かされて、純粋に驚きが生じる。
「えっと、あの、先ほどまで居たグループの中に彫金師採っている方が居て、その方がテスターだったんです。色々アドバイス貰いながらやったら、作れたんです。」
ちらちら、おどおどジソウの方を見ながらそう話すリミカ。自分が止めを刺したなんて分かっていないようだ。まあ、彼女の周りにこんな突拍子も無い人間がいなかったのだからしょうがないのである。
しかし、彼女は根っからの天使属性をお持ちであった。
「本当は、ただジソウさんにビックリしてもらおうと思ったんですけど、逆に私がビックリさせられちゃいました。ヤッパリすごい人ですね、ジソウさんは。」
膝を抱えて地面にのの字を書くというテンプレな仕草(システム的な感情表現が適用されている)のジソウに自らもしゃがんで視線を合わせるとニッコリ笑い、そう言った。
はうっ!
その仕草に、ジソウだけでなく、それとなく視線を送っていた周りのプレイヤーまでも胸をキュンとさせた。
末恐ろしい。天使ちゃん、マジ天使。
ジソウはポーズを解除すると、いやーそれほどでも。と、先ほどと打って変わって照れ出した。鮮やかな転身であった。
天岩戸でも彼女が居れば余裕だったろう。間違いない。
しかし、まだ彼女はターンをエンドしていなかった。良かった、元気になったみたいですね。と、微笑む彼女はさらに続ける。
「このゲームはすごいです。普通、ゲームって生産でもスキルでパパッとやっちゃうのが多いじゃないですか。あんなに作業工程が必要なんて知らなかったです。でも、物を作るのってすっごく楽しいですね。これからが楽しみです。」
言ってから、よいしょと立ち上がり、胸の前で拳を作る。
「ジソウさん。私、これからたくさん作るので、鑑定の方、よろしくお願いしますよ!」
一瞬、間が空く。ちょっと恥ずかしそうにするリミカの様子を察し、ジソウも急いで立ち上がった。
「お、おおーっ! よっしゃ、任せとけ!」
リミカの呼びかけに力強く応え復活するジソウを見た相良は、こんな方法もあったのかと素直に感心していた。
どのくらい経っただろうか。ほとんど第二陣も宴もたけなわといった様子。残っているプレイヤーも疎らになってきたところでジソウたちの下に杯がやってきた。
「やあ、お疲れ様。」
「おおー、杯お疲れ。」
ジソウが軽く手を上げてそう挨拶すると、相良たちも口々にお疲れ様と杯に返す。
「これから片づけを始めようと思っているんだが、参加してくれないかな。」
どうやらこれから片付けを始めるらしい。
「ん、いいよ。手伝おうか。」
さして何をするわけでもなく話をしていただけなので気軽に了承する。他のメンバーも特に異論はなさそうだ。
「そうか、ありがたい。VRともなると、自分たちでお祭り後の片づけをする必要があるんだと。しかも、しないとやばいらしいんだ。これだけ大規模な不法投棄をするとカルママークが付くという話だ。」
じゃあ、なんで人が多く居るときにやらんかったんだとジソウは思ったが、何かあるんだろうと考え、口を出すのは控える事にした。
カルママークとは要するに犯罪者の印である。
名前の横に付くドクロマークがそれだ。軽度だと白で、犯罪を重ねる事で段々ドス黒くなっていく。もちろん、何も悪い事をしていなければドクロは付いていない。
これが付いているとそれをNPAは認識できるらしく、街の施設利用が難しくなる他、重度の犯罪者になると衛兵に捕縛され、牢獄に良くて1日、長くて1週間ほど拘束された後罰金を支払うことになる。
また、罰金が払えなかった場合、さらに土木などの強制労働が科せられる。
合意上のプレイヤー同士のPVPでは特にカルママークは発生しないが、強盗や一方的な暴行を行ったり、街に何かしら迷惑行為を働いたりすると付いたりする。
分かりやすい例を挙げるならば、『ログインキラー』を行ったBDはドクロマークが付いた。ただ、返り討ちにあっているので限りなく白に近いドクロなので衛兵も相手にしないが。
また、『通報』というシステムがある。
これを受けたものは、運営側によりログなどの調査を受けることになる。その後、有罪判決が下された場合、カルママークが付くというものだ。
そして気をつけなければならないのが、ハイローズでは進化したAIの為、彼らNPAもこの機能を使えるようになっているということだ。
横暴な態度はゲームだからといって慎まなければならない。
今回、これだけ馬鹿騒ぎをしたのだ、それがお咎めを受けなかったのは僥倖であった。まあ、実は運営側が認めたという面があるのだが。しかし、これで片付けをしなかった場合は確実にマークが付くだろう。それも重度のやつが。大量のプレイヤーに。
ジソウは初め、まあ手伝ってやるかー程度だったが、カルママークが付くと聞いてはやる気を出さざるをえない。
せっかく潜りっぱなしが出来るのに何日も捕まってしまうのは絶対に嫌だ。もちろん手伝わせていただきます。
「幸い、ストレージに大抵収納できるし、残った料理もそのままの状態で保存できる。ゴミ漁りみたいで嫌かもしれないが、回収したものは各自好きにしていいと製作者も言っていた。」
「っそれは、太っ腹だな。」
俄然やる気が沸きました。それなら人が多いと取り分が減るもんな。フハハ。お主も悪よのぉ。さらに、私には鑑定眼があるのですよ。ウハウハじゃないですか、やだー。そこら辺の凡庸とは一緒にしてもらいたくないものですぞ。
そう考えてはニヤリと口を歪めるジソウ。ふっふっふっとしのび笑う彼はとてもじゃないが善人には見えない。
それを見ても今更彼に何だかんだと言わなくなったパーティーメンバーは偉いが、初見の杯はドン引いている。
「あ、ああ。……さらに、道具を分解して素材に戻せば買い取りもしてくれると言っていたな。それほど高く買い取りはないだろうが、剛毅な事だ。よほど今回ので良い目を見たのだろう。」
「気持ちは分かるかなー。」
「ふむ、善は急げ、か。」
なんという好条件。クレナイは同意し、相良も頷く。
「よーし、今宵は我がストレージが唸っておるぞな。あっ、そうだ。杯も仲間がいるなら、後で回収したもの俺んとこ持ってきなよ。鑑定しますぜ。」
「……へえ、鑑定系のアーツ持っているのか。分かった、フレンド登録をしよう。連絡をする。」
「ギブ&テイクだよ。ギブ&テイク。経験地待ってまーす。」
「ハハッ。ちゃっかりした奴だな、全く。」
笑いながら杯はジソウの差し出した手を握る。それに対して、まいどーと笑うジソウ。
だからこそこの男を捜したんだけどな。俺の目に狂いは無かったか。と杯は嬉しそうに思う。好ましい性格だからというのもあったが、同時に、何かしそうだと直感が言っていたのだ。
「これから長い付き合いになりそうだな。よろしく頼むよ、ジソウ。」
「こちらこそよろしく。」
「ああ、そうだった。言い忘れていたが、一度説明があるからパーティーの誰かを噴水前に寄こしてくれるか。それでは俺はこれで失礼する。」
爽やかな笑顔を残して杯は来た道を戻っていった。
なんと、スタートダッシュをさせてくれるのか。
ジソウは彼の言葉からそう悟った。では、それに乗ることにしよう。
「じゃー。とりあえず分かれたほうが良いか。俺は屋台行ってくるわ。料理器材確保してくる。今後使えるしな。そうだなー。後は相良も来てくれ。リミカとクレナイは噴水前で。」
「え、えええっ、それ、大丈夫でしょうか?」
「ん? ああ、あくまでも片づけをしている体だから。なにかしら開始宣言みたいなモノが噴水前であるだろうから、そのときはメッセージ飛ばしてくれ。」
「え、あ、はい。」
「よくもまあ、思いつくねぇー。君も彼も。」
リミカの疑問に堂々とそう答えるジソウに、感心したような呆れたような表情のクレナイ。
「はっはっは。」
「褒めていないだろ。」
「なんとでも言うがよいのだー。では、行動開始なのだー!」
そう気の抜けるような口調で宣言すると、なんやかんや言いながらも行動しだすメンバー。
それを見て嬉しそうな笑みを浮かべるジソウは相良を連れ立って先ほどまで居た屋台に向かった。
目的地にたどり着いてみるとそこには既に何人かのプレイヤーが片づけをしていた。
しかし、よく見てみると分かる。彼らは片付けを装って一カ所に物をまとめている。これはジソウと同じ考えの者達で合っているはずだ。
何食わぬ顔でジソウもそれに参加する。皆、これみよがしに鼻歌を歌っていたりするので内心で、笑ってしまった。
「いやー、相良さんや。夜はまだまだ長いですなー。」
「そうだな。まだまだやることがたくさんある、長い夜だ。」
カチャカチャ手元を鳴らしながら凸凹コンビが作業をしている。すると一通のフレンドメッセージが飛んできた。
『屋台自体以外でしたら全部回収オッケーだそうです。』
どうやら第三陣の始まりのようだ。
『了解。こっちが終わり次第合流するからよろしく。』
ジソウはそう返事をすると目の前の器材をストレージへ収納。
「よっしゃー。やってやんぜーっ!」
彼がそう叫ぶとそこかしこからヒャッハーやらイエーだの世紀末な声が上がる。
こうして彼らの長い夜が始まり、一日は終わっていったのであった。




