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魔術師の閉鎖試験  作者: あしべ
1章
19/35

宴【2】



 ふと、急に明後日の方向を見て黙ったままになってしまったクレナイを見て、どこかへ思考がトリップしているのだと気がついたジソウは彼女を現実に戻すべく顔の前で手を大きく振り、呼びかけた。

 何を考えていたのだろうか、ジソウには考えもつかなかったが、結構トリップ度合いは深かったようで、彼女の意識は何度か往復し、指パッチンをして、ようやく戻ってきた。


「ふわっ、な、なに……って、あ、ごめん。ボーとしてたみたい。」


 ビクッと肩を震わせて反射的に頭を引いた彼女は、恥ずかしそうに後頭部に手を当て軽く笑った。


「あはは、大丈夫。気にしてないよ。んー、しかし、身を粉にしてか。まさにそんな感じだったかもなー。あれは……。」


 今度はジソウがどこか遠くに意識を飛ばしそうになるが、寸での所で頭を振るって現実に戻ってきた。


「やってたことは、ポテト潰して混ぜて添えるだけ……、はい、もう当分ポテトは見たくないです。切実に。」


 苦い顔をして呟くジソウは極力、目の前のテーブル上にある自作のポテトサラダを見ないようにしていた。お手軽カンタン良くある食べ物で他と重複しないようにという考えの元、製作を決定したのだが、相良共々、変なトラウマを作ってしまった。


「ただ、唯一の救いは器用強化の熟練度がお陰で大分上がった事か。」


 料理職を持っていないので、特に生産をするといった意識で行っていたわけではなかったのだが、あの時間だけで戦闘時とは比べられないほど器用強化のアーツは熟練度を大幅に上げていた。

 結果分かった事は、どちらかというと、システム的には生産活動、さらに言えば、生産作業の動作に大きくボーナスが付くアーツであったということだ。あまり戦闘で上げるようなものではなかった。


 運がいい事に、というよりそれしか手段が無いのだが、ジソウはすべて手作業でポテトを切り、ひたすら潰し、混ぜを行っていた。それが飛躍的な上昇を得ることに繋がったのである。

 ポテトサラダを作る上で、ポテトを潰すのは必要だが、大変な重労働だ。現実世界だった場合、確実に腱鞘炎になっていたであろう膨大な量を扱った。しかし、ハイローズには疲れはするが、腱鞘炎という状態異常が存在しないので、心置きなく単純作業を行えることを考慮すると、この料理選択はベストだったかもしれない。


 本人にもうポテトサラダを作る気が起きないのは非常に残念である。


「ふーん。」

「ふーんて、ぞんざいな。」

「あはは、ごめんごめん。」


 なんとなしに、二人は笑い合う。

 笑いが収まった後、おもむろにジソウはジョッキを持ち上げると、クイッと揺らす。

 その動作の意図に気がついたクレナイもジョッキを持ち上げた。


「改めまして。お疲れ様でーす。」

「おつでーす。」


 二人はもう一度ジョッキを合わせ、乾杯すると残っていたビールを飲み干した。


「ぷはーっ。うまいっ。……いやー、酒と縁の力は偉大だなぁ。」

「ん?」


 クレナイは小首を傾げ、次を促す。

 ジソウはまあ待てと言って、ビール瓶を取り出し、「いるか?」と聞けば「お願いします!」と返事を貰ったので、二人のジョッキになみなみとビールを注ぎつつ口を開いた。


「俺とクレナイ、さっき出会ったばっかりじゃん?」

「そういえば、そうだねぇー。宴の最中も近辺にはいたけど別々だったし。」

「けど、今なんとなくお酒、一緒に飲んでるじゃないですかー。」

「一人は悲しいしねー。」


 クレナイはそういってフフフと笑う。

 ジソウは、その言葉を待ってましたとばかりに食いついた。


「そう、そうなのだよ! 一人は寂しいと思うのよ俺も!」

「あ、う、うん、そうだね?」


 少し、ジソウのテンションに驚くクレナイ。その反応でジソウは一度気を静め、すまんと謝る。


「でさ、よければ俺のパーティーに入らないか? クレナイとは気が合いそうだし。何が出来るとかまだ全然知らんけど、俺らのとこ、結構適当な集まりだし、気にしないし、それでもいいならさ。」

「え、いいの?」

「気にせんよ、俺も相良もリミカも。リミカとも仲良くなってただろ?」


 別れる前の、リミカの「お姉様! フレンド交換しましょう!」という響きは非常に耳に残っている。そして、あの子が変な道に走らなければいいなぁと切にジソウは思う。

 クレナイは手の中のジョッキをカラカラ鳴らして、うーんと少しの間悩んだが、決心したように一度頷くと顔を上げた。

 ジソウの目を見てニヤリとクレナイにとっての不適な笑顔というやつを作ると、ジョッキを掲げて言った。


「ふふーん。いいよ。おね―さんが君のパーティーに入ってあげようじゃないか!」

「お、マジで! よかった。じゃ、これからよろしくな!」


 ジソウは沈黙の時間に少し焦ったが、すぐに『満面の』という形容詞を付けてもいい程の笑顔と了承の言葉を得られ、誘って良かったと胸を撫で下ろした。お互いに右手を差し出し、シェイクハンドをする。がしかし、これだけは言っておこうと思った。


「あのさ、俺、一応、これでも二十二なんだが。」


 あまりにも唐突ではあったが、彼はただ単に、仲間相手にわざわざ年下キャラをやらされるのが今までの経験、もう散々なのでここで言って釘をさそうと思ったのである。今修正しておかなくては……と、考えたのだ。必死である。

 一方、やはりというか、突然の告白に何の事だろうかと、クレナイは理解できなかったので、先と同じように小首を傾げ、その後に、おずおずと控えめに両手でブイサインを作ってみた。


「違うわっ。ピースピ―スじゃないからっ!」


 思わず突っ込みを入れつつも、その時のクレナイの表情を見てブフッと噴いてしまった。が、仕切り直しと、一度ため息を吐いてジソウは続けた。


「俺の年。二十二歳。大学四年生。酒飲んでるし、未成年じゃないのよ、おねーさん?」

「えっ、うっそマジで? 同い年とか……うっそだーっ!」

 

 素っ頓狂な声を上げて大きく驚いたクレナイは、周囲から注目を浴びてしまい、それに気がつくと、「ヒウッ」という謎の悲鳴を上げて小さくなった。

 一方、ジソウは一度、この女、驚きすぎだろ……とは思ったが、ここまでドヤ顔で言ってから出会ったときの言葉をふと思い出して青い顔をした。あれ、もしかしてくるくるーのずん、喰らうんじゃねえか、これ? と。


 思い出すなーと天に願っていたジソウではあったが、天というよりは目の前のお酒様が偉大だった。 酔いで感情の幅が大きくなっていた彼女はそんなことはどっかにいってしまっていた。むしろ、恥ずかしい。それが今の彼女を占めていた。


 とはいっても、クレナイ自身は、あの時の思いつきの言葉であって、実際にぶん殴る気は無かったので、言ってしまえば単なるジソウの一人相撲であった。

 これは後々判明した。

 その割には、インパクトのある正拳突きだったが……。


「合法ショタ……。」

「オイマテコラ。」


 俯いているクレナイからどんだけ恥ずかしがってんだよと思っていたジソウだったが、聞き捨てなら無い言葉が聞こえてきた。


「おいっ、俺はそこまで年下に見えるんカ? エ?」

「あ、いや、その、ナニモイッテマセンヨ?」


 急に片言の日本語に変更してとぼけようとするクレナイに、頭痛を覚えるジソウ。眉間を指で押さえた。そして問い詰めるべく口を開いた。


「おいこら、お前本当にハーフなのか? いや、ハーフなのは百歩譲って認めても、あれか、本当にアメリカ国籍なのか?」

「ナニヲイイマスカ。私ハ、えーと、ノース、カロライナ地方? の出身デス!」


 語るに落ちている。ジソウは大きくため息を吐くと可哀想なモノを見る目で追求を諦めてあげた。


「……もうそれでいいや。キャラ設定って重要だよな、クレナイさん。」

「イヤーッ、引かないで、ごめんなさい! 生粋の彩の国生まれの彩の国育ちですごめんなさい! ただのアメリカに憧れを持ったハーフなんですごめんなさい! ただのオタク女子ですごめんなさいー。」


 ジソウの憐れみの目に耐えられなかったクレナイは簡単に吐いた。そしてその後も、全てを洗いざらい自分で語ってくれた。それも含めて、面白い子だなーと思いながら憐憫の視線を保つ彼は、酷い男である。

 この懺悔の様な一方的な告白大会は、別グループにいた相良とリミカが来るまで行われた。

 というより、他の近隣グループのプレイヤーが相良とリミカをそこに派遣したというのが正解だ。

 それまでは、その懺悔空間が異様な雰囲気のため近寄り難く、今回の功労者であるジソウや見目だけは麗しいクレナイに、話しかけたくも話しかけられないジレンマを起こした同グループの人々の窺いの視線を向ける様子がまた異様で、負のスパイラルを起こしていたのである。


 原因の元へ到着したリミカと相良は、一瞬、状況に尻込みをしたが、意を決し、声をかけ、悪いのがジソウだと分かっていたので、彼を怒った。

 反論しようとしたが、リミカに痛いところを突かれ黙ったところを相良に正論で詰められたジソウは為す術も無くしゅんとした。


 それを見たクレナイは、今度は注意して、口に出さずに心中で、やっぱりショタっ気があるわねーと舌なめずりをしたとかしないとか。



ジソウたちは新しい仲間が出来た!


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