宴【1】
時系列構成って難しい!
分かりにくかったら申し訳ないです
光魔法がそこかしこに打ち上げられ、白く輝く光は噴水前広場にて街灯の代わりを果たし、周囲を照らしている。
その光の下では楽しそうな音楽や人々の話し声、時折怒鳴り声が響き、お祭り騒ぎを彩っていた。
閉じ込められて急遽始まった宴の準備は急ピッチも急ピッチ、噴水前広場には様々な姿をしたプレイヤー達が今までリアルな人付き合いに尻込みしていた事なんか無かったかのように協力し合い、それぞれ出来ることを実行している。
そのおかげで、二時間と経たずに急拵えながらも各所屋台が立ち並び、粗末だが大人数をまかなえるほどのテーブルが出来上がった。
各種職人たちはここで熟練度を稼がずにどこで稼ぐの? とばかりに、素材提供が無償で行われる奇跡のようなこの瞬間に、全精力を注いだ。
一方で、料理職持ちの人々は地獄を見ていた。五万人近くのプレイヤーを賄えるだけの量というのは半端ではない試練であったのだ。
だが、急激な熟練度の上昇と周囲の熱気は職人たちの精神を昂らせ、馬車馬のごとく働き、また立候補していっただけのこともあり、プライドが許さないため一定の品質を常に保ち続けるという意地を貫いていた。
そして、驚異的なことに一通り目処が立つまでそれは持続することに成功。端から見ていた他の職人達はその凄まじさに、できうる限り最大限の支援を行った。
後日談だが、この宴以降、デスマーチを乗り越えた者達には『炎の鉄人』という称号が公式に与えられ、それを持つものは職人中でも一目置かれた存在になった。
閑話休題。
そうして、宴が始まり三時間は経っただろうか。酔い潰れたり、激動の一日に疲れた一般プレイヤーたちは職人たちを残し、そろそろとあらかじめ取っていた宿屋に帰りだした。
こうして職人の戦争は終わったのだ。
真っ白に燃え尽きた。もう何もしたくない。俺たちは勝ったんだ。ふはははは。
……なんてことはなかった。恐ろしい事に。
俄かに活気づく職人たち。
そう、彼らの宴はまだ終わってなかったのだ。
いうなれば、食材提供を行ってくれた戦闘一色の一般プレイヤー達の宴は第一陣。
第二陣は職人たちと、彼らの手伝いを買って出た者達の打ち上げパーティーが始まろうとしていた。
彼らは自分たちがはしゃぎ倒すための予備タンクをきっちり残しておいたのであった。
そして、ちゃっかり、質のいい食材を炎の鉄人たちは残していたのである。これも後の評価に繋がっていたりする。
第一陣が終息してきたのを見て取ると、終わりだ閉めるよと追い出し作業にかかった。未練がましく残ろうとする一般プレイヤーを広場から叩き出し、それが終わると今度は自分達の、自分達による、自分達のための準備を始め、それぞれ親交が厚くなったプレイヤー同士で集まり、何十かのグループに分かれた。
そしてその一角に、ジソウたちの姿があった。
「おっしゃー、グラスは持ったか皆の者! 不肖ながら私、ジソウが乾杯の音頭を取らせていただきまっすっ!」
彼らは幾つかのグループに分かれてはいるのだが、それでも一つのグループに男女合わせて約六十名となる大所帯となった。そして、なぜかそこでジソウは木製のジョッキを片手にして、そう宣言していた。
ちなみに、相良から大声のアーツを一時借り受け、臨時拡声器とした。
広場に彼の声が響き渡る。
周囲はこれまたなぜかジソウの言葉にボルテージを上げて、「イエーイ!」やら「よっ、待ってました!」や「キャー、ジソウく―ん、かっこいー。(野太い声)」などの合いの手を入れている。
それにつられるようにジソウのテンションも上がった。
「おらぁ、元気は残ってっか、馬鹿野郎共ぉ!」
『ぅイエーーーイ!』
「先のバカ騒ぎ、我々は乗り遅れてしまったがそれがどうした!」
『どーしたーっ!』
「俺たちが居たから成功した! 俺たちがいなけりゃあ、誰がやった?」
『だれもいなーい!』
「一陣は去ったよっ。じゃあ、次は誰が騒ぐの?」
『俺らでしょうっ!』
「お疲れ様です皆の衆。やりきった我々と、閉じ込められ記念を祝しましては――」
そこかしこでジョッキやコップが夜空に上がる。
「カンパーイ!」
『カンパーイ!』
気持ちの良い、揃った、乾杯の言葉とジョッキなどを打ち合わせる音が辺りに響き渡った。
総勢八百人を越える乾杯の大音声は一生、心に残るものとなるだろう。
それはもう、宴の始まりとしては最高のスタートを切っていたのではないだろうか。
本より、横の繋がり、仲間意識が強い性質を持つ者は多い。そんな生産を専門とする彼らにとって、今回の出来事は大いに親交を深める出来事となったことだろう。
老若男女問わず、一同、充足感によって疲れなんて何のその、皆が皆、満面の笑顔で盛り上がっている。
「んぐっ。んぐ。ぷはーっ、働いた後はビールが、美味いっ!」
乾杯の音頭の後、ジソウはジョッキを利き手に、もう片方の手は腰に当ててビールを一気に飲み干すとそんな仕事上がりのおっちゃんのような事を言う。それは、とても充実した顔だった。
「なにおっさんみたいな事を言ってるのよ。」
「いやー、でもこれって真実なのさ。」
クレナイは彼の一気飲みに若干呆れてそんなツッコミを入れるが、自分も同じようにキンキンに冷えたビールに達成感を得ていたので、同意せざるを得ない。
「まあ、とりあえず、お互いお疲れ様ってところかしら。君と、えーと、相良君だっけ? 身を粉にして働くって言葉、まさにふさわしかったよねぇ。」
クレナイはそう言って遠い目をする。
それほど二人は目を見張る働きをしていたのである。その結果、人柄と周りの推薦もあって、乾杯の音頭を取るようなことにもなった。
ちなみに彼ら二人の働きというのは、『料理』にあった。
ジソウたちは初め、職人たちの指示によってカタイガニ討伐で手に入った食材アイテム『蟹肉』を提供している一般プレイヤー側だったのだが、食材を手渡すときそこで目にしたものは、屋台の混乱であった。
料理職持ちプレイヤーの人手が足りないのと彼らが料理大量生産の経験がほとんど無いことが重なり、酷い有様となっていたのだ。
それを目にしてしまったジソウと相良は顔を見合わせ、苦笑いし「これも適材適所って奴か、しゃあねぇ」とばかりに頷く。
そうと決めるとリミカとクレナイにジソウは、一旦各自別行動にしようと言い出し、自分は職人たちを手伝うという旨を伝えるのであった。
察しの良いことで定評のあるリミカさん(当社比)は、突然の提案だったが快く分かりましたと頷く。その言葉を受けたジソウは、ではと相良を連れて女性陣から離れると、既にその場から離れていた先ほどのプレイヤーを探し、捕まえた。
何事かと驚く男を無視して、ジソウは、このままじゃ埒があかないということを伝え、また、提案があるので一度料理関係の人々を集めることに協力して欲しいと話した。
すると、その男も薄々それに気がついていたのか、二つ返事で頷き、噴水前に集合しようと決めると触れて回った。
ジソウの運が良かったのは、彼はその時気がつかなかったが、この男が二つ名持ちの有名プレイヤーであったことだ。名前を杯といった。中々の発言権を持っていたのであろう。彼のおかげですぐさま人は集まった。
そして、ぽっと出のジソウの提案が皆に伝わるように繋ぎを入れてもくれたのも彼である。全くもって素晴らしいイケメンであった。
こうして、お膳立てしてもらったジソウの出した提案は、実に簡単。シンプルに二つの事だった。
食材の集約と作業の分担化である。
青天の霹靂、とまではいかないが、大多数のプレイヤーが苦い顔をした。なぜそんな簡単な事に気付かなかったのかと。
それぞれが、『祭りだ、宴だ』という呼びかけに集まったはいいが、まとめるものが少ないが場所は提供されるので、個人で思い思いの行動をしていたことと、手伝って欲しいと要請する事が気恥ずかしくて言い出せない者が多かったのが原因とはなんとも単純で呆れてしまうような内容である。が、突発的で大人数で協力することに慣れていない人種が多いのだ。得てしてそのようなものである。
さて、話は戻るが、食材の集約は字面の通り、ある一箇所に食材を集める事である。
何人かが倉庫の役割をして一手に持ち込み食材を受け入れ、ソート機能を使う事で整理し、さらに種別毎で管理をするのである。
そして、運搬係を決めて、各食材を必要なところに必要な分を納品する。それだけだが大分混乱が防げ、且つ、余分に食材が浮かないで行き渡る。
次の提案、作業分担も簡単なことである。が、これは少々、ハイローズ、延いてはVRだからこそ可能にした特有のものであるため、現実世界では当たり前だが、ゲームとしては盲点でもあった。
というのも、ハイローズの製作の扱いは少々他のゲームと異なり、製作物に該当する職業を持っていないプレイヤーでも、ある程度の技術があれば作ることが可能だというところだ。
ただし、該当の職持ちが作った品物にしか一定以上の品質は付かないし、特別な効果を持たせる事は出来ないというところは絶対不可侵であり、さらに、職持ちのように製作途中にアシストなんてものは受けられず、純粋に己の力量だけで作らなくてはいけないのも特筆すべきだが……ジソウは盲点の隙を付いた。
これは料理だから出来たとも、それに特別な効果がこの場では必要ではなく、ある程度美味しく食べられるものが必要だったということが言える。
料理は何工程も必要である。だが、本当に必要な事柄は何なのか。
それは分量と時間である。
ラーメンを例に挙げよう。
ハイローズでは麺を作ることから始まるのだが、これは職持ちが全力を挙げて行わなければならない。
分量から捏ねて切る作業まで技術が問われるからだ。麺の品質を保つには長年の経験か、それが無ければシステムのアシストが必要だ。
では、汁についてはどうだろうか?
どれをどれだけ入れて、どのくらい煮込み、灰汁を取り除いて……などは一度体系化してしまえばどうということはない。
さらに、茹でについては、時間を決め、しっかりと湯切りをすることなどを伝えれば多少の誤差は出ようが一定のものが出来るし、盛り付けも決められた動作を行うだけで技術は必要が無い。
そう、つまりは一人ではなくとも作れるのだ。
ジソウの提案を受け、それを気付かせて貰ってからの職人は早かった。
料理職持ちは各々何を作るのかを公表し、どこに何人が必要かをそれぞれが示し、人員を振り分けてもらう。
バラバラに持ち込まれていた食材は一度、倉庫役に集められ、整理され、必要な分を聞き、分配した。
ジソウと相良は動き出した人々を見て、これで後は彼らで折り合いをつけて上手くやっていくだろうという手応えを感じると、隣にいた杯とがっしりと手を握った。
そして、アシストは無くとも厨房で培った経験より、料理を作れるジソウと相良は杯に後を任せ、戦争へと身を躍らせていった。
ちなみに、彼らが製作した料理は、相談の結果、ポテトサラダである。
一方、残されたリミカとクレナイではあったが、偶然杯の呼び込みを受けており、彼女らも噴水前に来ていた。
そんな二人は当然、皆に説明をするジソウに当てられた。そして、私たちも何か手伝う事はありませんかと戦争にまぎれていった。
その結果、彼女らに用意されたのは料理の運搬係だった。




