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魔術師の閉鎖試験  作者: あしべ
1章
17/35

始まりの街―アカプルコ―【9】


大分時間がかかってしまいました。

コンスタントに書ける作家さんは本当にすごいと思います。

そこに痺れる、憧れるぅぅぅ!



「なに? なに? なにっ!? きゃ、あ、ってアレッ?」

「うおおおおおっ! ジソウ、リミカ、手を離す、んな?」

「カ、相良っ! って、二人ともうっさ!」


 光に包まれた彼らはこの異常事態に思い思いの言葉を叫んだのだが、浮遊感は一瞬、すぐに足は地につき、目を焼きそうな光はすぐさま消え去っていた。とんだ拍子抜けだ。叫んだのが恥ずかしいくらいに普通に転移しただけである。

 まあ、転移なんてこれが初めての経験なのだが。


「……ここは、南門?」


 ジソウは周りをきょろきょろ見渡して自分の居る場所がどうやら知っている場所だと気がついた。

 そう、彼らが立つここは、始まりの街の南門である。詳しく言うならば、南門通りの半ばに位置する宿屋トートリの前だ。

 始まりの街にある宿屋はその数七軒。しかし、その中でも宿屋トートリというのは二階建てのシンプルで小奇麗な外装をしているごくありふれた建物だというのに圧倒的に知名度があるのである。

 というのも、βテスター達が悉く外装と一泊の安さに釣られ、酷い目にあったからだ。

 そして付いたキャッチフレーズが「安い・汚い・不味い、もう二度と来ねぇ!」である。

 どこの攻略サイトにも出てくる有名な宿屋なのでジソウはすぐに現在位置が分かったのだ。

 ……しかし、なぜ大通りに店舗を構えていられるのかが不思議である。


「人が多いな。全部俺たちみたいに飛んできたのか?」


 そこかしこにプレイヤーと思しき人たちも先ほどのジソウたちのように叫んでは状況を理解すると、叫んでしまった事の恥ずかしさで苦笑いしたり顔真っ赤にして俯いたりと様々な反応をしていた。

 ちなみに相良は前者、リミカは後者の反応で、ジソウは冷静に状況を把握しようとしている第三勢力であった。

 と、どこかで甲高い悲鳴が上がり、その後気障な台詞が発生した。


「ペッ、リア充が。……転移にラグがあるみたいだな。」


 ジソウは唾を掃き捨てるまね (実際には出ない)をした後、実に冷静にそう分析した。また、ジソウに呼応するかのように周りからも冷静になる者が出てきたようだ。

 そこかしこで何があったのだろうかと、各々趣向が異なる格好をしたプレイヤー達がざわざわしている。


「うーん、いまんとこ、なんも異常は無いみたいだし、なんかのイベントか?」


 ジソウは腕を組み、やや俯きながら状況を整理しようとする。


「いやー、どうだろうね。ウインドウは死んだままだよ。」

「ほんとだ。真っ赤なままだな。さすがにこんな悪趣味な強制イベントなんてありえないかー。」

「そうそう。私もイベントじゃないと思うねー。」


 隣から齎された新しい情報を確認し、うーむと唸ると、ジソウの呟きに同意された。


「だよな! しかし、まさか、いや、いやいや、まさか、これ……って、うおっ、ど、どちらさん?」


 自分の考えに同調され、少しテンションが上がったジソウが隣に視線を移すと、そこには見知らぬ女性が自分と同じポーズをとっているのが目に入る。自分でも驚くほど、驚いた。


「ブフオッ、き、君、テンプレな反応過ぎでしょ。ふ、普通に会話成立してたのに、今頃?」


 ジソウの間抜けな反応が余程ツボにはまったのだろう、笑いを堪えられずに噴出していた。

 笑われたジソウはあまり面白くは無かったが、堪えた。決して、目の前にいる耳長の女性が美女であったからというわけではない。ではない。

 目の前に泰然と立っている彼女の特徴を挙げるならば、それは真っ赤な火の石、ルビーだろう。身長はリミカより高く、ジソウより少し小さい、160前後といったところだ。髪は炎のような真っ赤でショートカット。顔立ちは日本人というよりは西洋人寄りで、鼻が高く、切れ長の目には髪の毛と同じ色の真紅の瞳があり、洗練されたスタイルに褐色の肌をしている。服装は初期装備の半そで白シャツに黒いパンツをはき、防具はレザーアーマーをシャツの上に着込んでいる。武器は大きなバスターソードを背負っていた。

 キャラクターエディット特有の違和感が無いので天然の美人であるとジソウは推測する。


「――君は遠慮の無い人だねぇ。あまり女性の顔はじろじろ見るもんじゃ、って、だからといって体を見ろと言っているわけじゃないから!」

「いやだな。装備を見ていただけですよー。」


 などと言いつつ、視線は大きく張り出した夢の塊へと向けられている。


「本当に?」

「本当も本当。俺、鑑定デキル。ダカラ大丈夫。」

「片言じゃないか。……まあ、見られて困るような体形してないけどさ。」


 そう言って、艶めかしいポーズをとってニヤッと笑う女性に対して、そのドヤ顔うぜーと笑いながら返すジソウ。双方いい度胸である。


「つーても、君が可愛い顔した年下の男の子じゃなかったらくるくるーの、ズンッ! だけどね。」


 凄みを利かせた笑顔を見せた彼女は武術要素を多分に含んだ、流れるような動作で正拳突きをする。

 それを見てとんでもなく攻撃力が高そうだと感じたジソウは思わず冷や汗を流した。そして、自分が童顔で良かったとこのとき初めて思ったのであった。


「って、先ずは自己紹介をしようか。私はクレナイ。アメリカと日本人のハーフだよ。現在ソロだね。ちなみに、さっきは何を言いかけてたのさ?」

「俺はジソウ。日本人と日本人のハーフだ。現在後ろの二人と組んでる。言いかけた事は、これ、閉じ込められたんじゃね、って。」

「あはは、日本人と日本人のハーフってなんだよ。君いいね。ノリ良いのは好きだ、って、ちょっと待って今なんて?」

「じそ」

「お約束はいいよ!」


 初対面で大分打ち解けている二人。ジソウは悪ふざけに付き合ってくれる彼女に好意的な感情を抱いた。また、これなら自分の予想を言っても取り乱すような人ではなさそうだと信じることにした。


「いや、最近よくあるじゃん。ゲームの世界に閉じ込められるーとか、ここで死んだら本当に死ぬよーって感じの話。展開がまさにドンピシャ。」

「うう、日本にはそういったジャンルがあるけど、まさか。」


 予想通り、まさかとは言いつつもすんなりと言葉を受け入れているところを見るとクレナイも予想がついているようだった。

 それよりも、ハーフだが日本には住んでいないのだろうか。言葉の節でそこに気がついたジソウは、異言語コミュニケーションが気にならないこの世界に今一度感心した。どういう仕組みなのだろうか。


「いや、分からんけどね。とりあえず、何か起こるみたいだし、その後考えるとしようじゃないか。」

 

 徐にジソウは空へと顔を上げると一点を見つめた。

 それに倣ってクレナイもジソウの視線の先を辿ってみると、空の一部の歪みに気がついた。そして、その空のシミのようなモノがじわじわと広がり、やがて歪みがある一定の大きさになり形を整えると人の姿となった。


『どうも、プレイヤーの皆様、ご機嫌いかがでしょうか?』


 ご機嫌最悪だよ、ふざけんな。大通りに居たほとんどが心の中で正体不明の人にそう答えた。

 大仰で奇怪な現れ方をしたと思ったら、出てきたのはずいぶんとフランクな言葉遣いの男。

 だが、黒いフードを被って素顔を見せないのだ、とっても怪しい。怪しすぎる。

 ただ、どこかで聞いたことのある声だなとジソウは思った。


『……え、あ、フランクすぎる? そうかな? あーはいはい、ごめんごめん。たださ……。』


 フードの男は突然後ろを向いたかと思うと一人で話を始める。一瞬、頭がイってしまっている系の人なのではと思われたが、何のことは無い、あの男はホログラム映像であり、空中のそこに、実際に存在しているわけではない。

 背後には彼の仲間が控えているのだろう。

 とはいえ、先ほどの何が起こるか分からない不安と緊張に支配された空気は完璧に崩壊している。


『うおっほん、失礼しました。』


 南門通りがざわざわしてきたのを目にしたのか、男は咳払いをして注目を再び引いた。

 しかし、その動作がなんだかとても小者臭のする咳払いであると感じ、ジソウは苦笑いをして考えすぎかと緊張を緩めた。


『えー、このような姿で申し訳ありませんが諸事情によりこれでお願いします。私は、VR部門のハイローズプロジェクト、最高責任者を務めさせていただいております神崎幸平と申します。以後お見知りおきを。えー、この度はハイローズのご購入ありがとうございます。このような状態でありますので堅苦しいご挨拶の方は省略させていただきます。まずは先ほどの強制転移やアラームなどとても困惑したかと思いますので、現状をお伝えしようかと思います。……あ、もう大丈夫? あ、ほんとに。……えーと、すみません。今、ウインドウの復帰が出来たようです。メールでも詳細を送りましたのでそちらもあわせてご確認ください。では説明を始めます――。』


 そうして唐突に現れた最高責任者の神崎の話したことは以下のような内容であった。

 先ほどの転移は緊急時の召集プログラムを起動した際に起きた事だとか、現段階ではログアウトが出来ない状態だとかを正直に伝えられた。

 そして、そのプログラムが起動した原因はサイバーテロリスト集団『アフタヌーン』に襲撃を受け、いくつかのプログラムを書き換えられてしまったからだとも。しかし、ログアウトができなくなった以外には危険性は無いとの事。

 それを聞いたジソウは、実際に、復帰したウインドウを開いた。彼の言う通りそこにはログアウトボタンが消失していた。目の前が暗くなる思いだった。

 これは慌てふためくのもしょうがない。

 もちろん、ジソウと同じ話を聞いていた周囲はもちろん騒然とした。

 ログアウトが出来ない、現実に戻れない、なんていう事態が現実に起こるなぞ正気の沙汰ではない。ショックが大きすぎる。帰れるのか不安で仕方ない。

 上手く悪感情を流す事ができなかった、受け止められなかったリミカはジソウの後ろでフラリとよろけ、難しい顔をした相良に支えられていた。クレナイは何か深刻に悩んだ様子で、声をかけるのは憚れた。

 表面はジソウも落ち着いていたが、内では最悪の事態に備えようと必死に考えを巡らしている。

 

 しかし、その想定は良い面で裏切られた。


 神崎は人々の嘆きを無視するように淡々と話を進めていった。

 そしてそのうちテロリストは既に排除してあることや、これからの保証・処遇に関して等等、説明がされ始めたのだ。

 これには全てのプレイヤーが耳を疑った。

 もう事態は収束に向かっているのだ。

 なんということはない、あとは時間が解決してくれるのだ。

 ジソウはふと何か嫌な感じがしたが、周囲の安堵の声に水をさす事もない。まあいいかと気のせいだとした。

 初めは絶望的な表情になり、ならば私たちはどうなるのかと口々に喚き散らしていた者達も、説明が進んでいくうちに少々専門用語により理解できないところがありつつも死という危機は去っているということが理解でき、安堵の表情を浮かべている。


『――とまあ、色々と専門用語が入ってしまい理解しづらいかと思います。なのでもう一度簡単にまとめさせていただきますね。

 一つ、今直ぐにハイローズから出る事は叶いませんが、通常通り、プレイ中にモンスターにやられても復活……所謂、死に戻りが出来る事。

 二つ、皆さんが入ったカプセルは最新式の生命維持装置を積んだデバイスで、動かす事はできませんが、痩せる事は有っても筋力などの低下はほぼ起きないという事。

 三つ、こちらからのサービスは通常通り運営され、しっかりとゲーム内サポートを出来る事。

 四つ、長時間連続でスリープモードに移行せずにいるプレイヤーは、発見しだい強制スリープモードに移行される事。

 五つ、アップデートやその他データの見直し、データの復旧などの関係でログアウトができるようになるまでの見込みがゲーム時間で約二ヵ月後と予想される事です。

 以上、その他何かありましたらその都度お問い合わせください。回答はできる限り迅速に行わせていただきます。』


神崎は一息ついたのか、言い切ると周囲を一瞥した。そして深く頭を下げてから頭を上げると再び口を開いた。


『皆様、ゲーム時間で二ヶ月もの間拘束する事になってしまい誠に申し訳ございません。つきましてはゲーム時間で今日から二週間後に大規模イベントを開催させていただきます。多数の豪華商品をご用意させていただきますので振るってご参加ください。また、この後、明日夜明けより三日間は熟練度のレートを下げて成長しやすくなる特別期間を設け、それに合わせて枠が八つのアーツ盤をメールにて皆様に配布いたしますので後ほどご確認ください。では、これで私は失礼いたします。』


 もう一度深く頭を下げると、長いローブの端を持ち大きく翻し、出現したときのようにじわじわと空中に溶け込むように神崎は消えていった。これで高笑いの一つでもしていったならばまさしく魔王といった去り方だ。意識はしていそうだが……。

 少しの間、最高責任者・神崎のとてつもない独特の雰囲気に飲まれていたプレイヤーではあったが、メール着信の大合唱が始まる事でプレイヤーはビクッと体を震わせ、気を取り戻した。

 そして、先の彼の言葉を反芻し、一瞬間が空いてから、歓喜の大絶叫がそこら中に響き渡った。



「「「「「「「いよっっっっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」」



 屋内にいた街中のNAC達がその大音響に対して何事かと外に飛び出してくる。それほど、地を揺るがすような歓喜であった。

 それはもう、ほとんど全てのプレイヤーがスキップをし、小躍りを始めた。

 そして、はっと閃いた幾人かの専業生産職達はすぐさま行動に移した。

 独自のネットワークを駆使し、料理職人達と手を取り合っては「祭りじゃあ! 宴じゃあ!」と周囲に呼びかけたのだ。

 声をかけられた全ては、それは名案だと一斉に動き出した。


 斯くして、人は集まり、二つ名持ちの有名どころが先導し、即興で噴水前広場を中心にしてお祭り騒ぎが始まった。プレイヤー人数はほぼ五万に上る。それが集まっているのだ。それはそれは盛大である。

 声掛けをしながら、食料素材を持つプレイヤーは次から次へと料理をしているプレイヤーに持ち込む。

 そして、急ピッチで製作された料理は、大道具職人が製作した長机へと、衣装職人によって用意された様々な種類の制服を着た即席ウエイター・ウエイトレス達が並べ、小道具職人はナイフやフォーク、スプーンや箸を大量に製作し、薬剤師が飲み物を作り、酒職人がお酒を用意した。

 この瞬間、ありとあらゆる人々が手を取り合っていた。

 どうすれば良いのか分からず孤立していたものにも声をかけることで余る人材なんていなかった。



 そう、こうして、本当のMMORPGがVRの世界で花開いたのであった。




お祭りお祭りやっほっほーい!


知らない人同士でもコミュニケーションをとり、共に行動する事がMMORPG本来あるべき姿だと私は思います。

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