始まりの街―アカプルコ―【6】
「おぉ! ここが協会か。やー。着いたなぁ!」
わざとらしくそう言うジソウの目の前にあるのは協会アカプルコ支部である。
旅団が西部劇で良く出てくる酒場のような木造の建築物であるのに対して、協会の建物は立派なレンガ造りで、倉庫のような見た目をしている。
倉庫とは言っても、頑丈な基礎の上にシンプルな赤茶色のレンガを組んでおり、高くても二階建てが多いなか一際目立つ四階建てで、横に広く、上から見ると北から南へと長い長方形になっているという規格外のものだが。
周辺都市の商業・職人の中心地であるため、格段に巨大な建築物になっていったという話である。
ジソウは、今度はしっかりと「協会・アカプルコ支部」の名称が表示されてから両開き扉を開き中に入っていった。
「ほー。中はどっかの役所みたいだな。」
自分の町の役所を想像してもらえば分かりやすいだろう。いくつもの窓口が用意されていて、そこに担当者が座り、その後ろでは職員が慌しく仕事をしていた。
ジソウらは天井から釣り下がっている案内板に従い、登録受付へと向かう。
そこには赤・黄・緑などなど極彩色の髪の色で溢れたファンタジーな世界観には珍しい長く美しい黒髪を持ち、眼鏡を掛けたどこか幸薄そうな印象を受ける美女が受付に佇んでいる。
「すみません、よろしいですか?」
「はいどうぞ。こちらでは職業などの各種登録を行う事が出来ます。本日はどのような用件でしょうか?」
「は「とりあえず、お姉さんの名前をっ、って、イッタタタタっ!」」
耳に心地よいソプラノボイスとその容貌はジソウの好み直球ど真ん中だったようだ。しかし、話しかけたリミカを遮る形で割り込んだジソウは、相良がジソウの耳を無言で引っ張ることで防ぎ、そのまま後ろへと退場させた。
「掴み、万能すぎないかっ?! イタタ、すんません。調子乗りましたっ。」
退場先で待っていたのは、入れ替わりのリミカによるお説教で、タイプだったんだよ。や、普段しないことをしてみたくて。などと言い訳をすると、今ナンパが必要かと詰め寄られては、冷ややかな視線をしたリミカに油を注いだり注がなかったり。
「……うちのがすまない。」
そんなやりとりを背に相良は短く謝罪をするが、一方で受付の女性は大人の余裕というのだろうか、気にしないで下さいと微笑む。
「いえ、面白い方ですね。あまり用件以外で話しかけて下さる方がいらっしゃらないので新鮮でした。」
「そ、そうか。気分を害していないならよかった。……では、早速ですまないが生産職の登録をお願いしたい。」
マテリアルショップのコリンクといい、目の前の彼女といい、今更ではあるが、相対してみて、彼らがNPAだということは分かっているのだが、ここまで普通に話が通じてしまうと、相良はゲームをやっているように感じられず、調子が狂ってしまうと思った。
さらに、声も一昔前の合成機械音声のようなちぐはぐさが無くなり流暢な言葉遣いのため、本物の人と相対している感覚に拍車がかかってしまう。
これならばβテストで起きた人付き合いに積極的ではない者がパーティを上手く組めず、その結果、魔法職が流行らなかったという現象の一端が理解できた気がした。
しかし、内心の相良のそんな思考は知る由もなく、彼女は己の仕事を全うするのみである。
「はい、職業の登録ですね。ご説明は必要ですか?」
「いや、大丈夫だ。それぞれ把握している。」
相良の頷きに続き、いつの間にか彼の両隣に付いていた二人はコクコクと頭を縦に振っている。
どこかジソウはソワソワしているがあえて無視した。
「かしこまりました。」
彼女はそう言うと、三人の手元にそれぞれ羊皮紙を用意した。
すると生産職のリストが目の前に現れた。
「では、こちらの羊皮紙に手を乗せて、何に就くのかが決まりましたらそのままの状態で仰って下さい。」
羊皮紙には魔方陣が描かれていて、各自手を乗せるとそれは淡く光りだした。
「じゃあ、私は彫金職人でお願いします。」
「俺は小道具職人だ。」
「したらば、俺は投擲武器職人で。」
三人は迷うことなくそれぞれ職業を伝える。
リミカと同じく、リストを見ることなく告げたジソウと相良の二人のそれはもう何日も前からどうしようかと顔をつき合わせて、あらかじめ考え抜いていた生産職である。
三人の言葉が引き金になり、羊皮紙の魔方陣がひときわ光を強めたかと思うと魔方陣に描かれている文字が浮かび上がった。
それは一条の文字列の帯になると乗せていた手の人差し指の付け根に巻きつき、次の瞬間、指輪へと変化した。
「おおー。ファンタジー。」
ちょっとした感動がジソウの口から漏れる。銀製のそれは丁度良いフィット感だ。
「フフッ。これであなた方はこの世界で職業を得ました。その指輪は証であり、それぞれの生産活動を補助する魔法具です。はずす事はできますが他人への譲渡はできません。腕を磨き、仲間と切磋琢磨する者に技巧神ガーランドゥーは道を照らしてくれるでしょう。」
「これでフィールドに出られますか?」
「この指輪と旅団証の二つがあれば大丈夫ですよ。」
「やったぁ!」
「ぷっ。そんなにか?」
「そんなにですっ!」
大きく喜ぶリミカに思わず噴いてしまうジソウ。少しむっとした様子で抗議されてしまった。
ごめんごめんと言いながらジソウはリミカの肩をポンポンと叩くと、リミカはやれやれ全くといった風に呆れてため息を吐いた。
「では、俺たちはこれで失礼させてもらおうか。」
「そうだなー。早くフィールドに出ようー。」
「何故棒読みですか。」
登録作業が終わりようやくフィールドに出られるようになった三人は、そんなやり取りをした後、彼女にありがとうございましたと感謝を述べると、出口へと向かう。
と、ここで背を向け歩き出したジソウに声がかかった。
「あ、ジソウさん。」
「はい?」
「お答えし忘れていました。私の名前は、ラーファです。またのお越しお待ちしてますね。」
「えっ?!」
「では、良い冒険を!」
丁寧なお辞儀をした後、何か祝福がかかっていてもおかしくない、そんな良い笑顔で見送ってくれる受付女性のラーファ。
彼女に向き直ったジソウはその笑顔に驚いて顔を赤くしつつ、少し悩んで、いってきますと締まらない顔で言って手を振ると協会を後にした。
途中、徐に隣に目をやると相良と目が合った。
そして相良がニヤリと笑うと顔がさらに熱くなったのが分かった。
また、奥に居るリミカがしているであろう表情も容易に想像できてしまった。
「……相良。次も彼女の窓口で。」
「ほほーう。別にいいが、残念な事に登録するような事はこの先当分無いと思うぞ。」
「利用するといっても、恐らく担当が違いますもんね。」
ささやかに抵抗をしようとあえてそんなことを言ったジソウだが、相手の方が一枚上手だったようだ。
「神よ、何故私にそんな仕打ちを……。」
大げさにがっくりと膝を落とすジソウを相良とリミカの二人は無視して、フィールドへ出るための装備を整えるべく、東街区の商店通りへと足を向けたのだった。




