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魔術師の閉鎖試験  作者: あしべ
1章
10/35

始まりの街―アカプルコ―【5】

遅くなりました。更新です。



 旅団を出た三人は対面にある協会へ向かうため、巨大噴水が中心にある自然公園を横断することにした。

 自然公園はルーデリカという名の広葉樹の並木通りで囲まれることで街と自然公園とで全く別の場所のような空気を持ちえており、しかし、よく管理されている。

 また、この自然公園の中心には巨大な噴水があり、それを囲むように大きな広場が形成されている。

そのどこか清清しい風が吹き抜けるその巨大噴水前の大広場には、既に露天を開く者が存在していた。

 そんな彼らはβテストのプレイヤーだ。

 テスターは通貨(上限は100万H)と初期のフィールドで手に入るアイテムならばストレージに入る分を引き継ぐ事ができた。

 ただし、手に入れたアーツマテリアルはアーツ盤もろとも旅団で換金しなくてはいけなかったので引き継ぐことはできないが、そこまでに至るノウハウは記憶にあるので、掲示板にある情報だけで事情通を自称しているようなプレイヤーとのアドバンテージには事欠かない。VRのゲームだけあって実際に体を使ったものであるため、体感して得た経験がこのゲームでは重要であるのだ。

 また、暗黙のルールと言ってしまえばそれまでなのだが、考えればすぐ分かる事に、テスターは全ての情報を提供していないということである。

 秘匿しておきたいようなレア情報は個人または身内でしか回していないなんてのはよくある話だ。情報は価値が有り、しかし良いものであれば独占できるほうがいいのだ。

 その心理を考慮し、あらかじめ情報開示をテスターの契約として盛り込んではいたが強制はしなかった。全部が全部情報を出すようにと書いてしまうとゲームとして薄っぺらいものになってしまうのである意味公認なのだ。

 そして、それを理解できているものは多く、そんな彼らが自分の利益は残しつつ掲示板に様々な事柄を書き込んでいる。


「そういえば、二人はどんな構成にしたのさ?」


 協会へ向かう道中の雑談でアーツの話題になったので、パーティを組むのだから各個人で何が出来るか把握しなくてはいけないと思いジソウはそう切り出した。


「おいおい、あまり大きな声でアーツ構成を聞くな。」

「いやー、こんな最序盤じゃ誰も気にしてないだろ?」

「そう……か。」

「はっはっは。相良ぁー、ゲームなんだから硬く考えるなよぉー。」

「……ウザイな。」


 その最序盤でいきなり襲われたジソウが言うには若干信憑性が低いのだが、常識的に考えればその通りだ。実際、早く旅団と協会を回ってフィールドに出ようと考えるプレイヤーが大多数なので他人より自分というものが多い。BDは確実に少数派に入る。


「じゃあ、私から公開しますね。ちなみに、コンセプトは彫金補助です。」


 そう言ったあと、そのまんまですねと恥ずかしそうにしながら、リミカはアーツ盤をストレージから出して情報を二人に開示する。


△△△△△


 所有者:リミカ

 アーツマテリアル枠:6


 実験Lv1 調整Lv1 補助魔法Lv1 魔法の心得Lv1 早詠みLv1 ターゲットLv1


△△△△△


「あーあれか。このコリンクが言っていた実験と調整って制限解除系なんだ。」


 ジソウはそれぞれのアーツマテリアルの情報を開きながらそう呟く。


「そうなんです。ちゃんと器用さも上がるんで、二つ取れば器用強化はとらなくても良いかなって思いました。その代わりにターゲットっていう、細かい場所指定が可能になる面白い効果のアーツがあったんでとっちゃいました。」

「ほう。実験は生産したアイテムに素材を足せるんだな。それで調整は形成の段階で変化をつけられるのか。」

「かなりの生産必須アーツじゃね?」

「そうなんですよー。一応ある程度オリジナリティあるもの作れるらしいですけど、そこまで精度が上がらないっていうじゃないですか。多分これがあると出来るようになるかと。あとあと、私気付いちゃいました。」


 もったいぶったように一拍置くリミカ。手招きをして二人を近づけさせる。


「なんだよ一体。」

「コリンクさん、錬金術師にもこのアーツが良いと勧めているんです。名前からして他の人はとらなそうじゃないですか。化学っぽいですし、公式で生産職のテンプレ構成挙げられてましたがそこにこの二つは載ってないんです。じっくり探せば目に付くかもしれないですが、奥のほうにあったこの二つのアーツはあまり目を付けられないはずです。」


 自信満々にリミカはそう話す。

 

「なるほどね。錬金術で成功していた奴らはこの二つをもっていた可能性があるな。錬金術に実験とかの科学要素は順当だし。」


 それに同意するジソウに、しかしと相良は続ける。


「それも期間限定のβテストだけだろう。正式版になったんだ、じっくりと構成を考える者も出来てくる。」

「ただ、多分ですけど二つは合成圧縮できますよ。容量取っちゃうんで後回しにする人は多いかと。これも立派なアドバンテージになります。」


 少し食いつくようにリミカはそう反論してみる。

 相良はそれに同意を示すが、問題点に気がつく。


「コリンクのヒントがあったからそうかもしれないと気がついた。だが、あいつはキャラクターなんだし、俺たちだけではなく色々な奴に言っているかも知れんぞ?」

「うー。私は特殊イベントだって信じてます!」


 信じるって言ったってなぁと思い苦笑いするが、それを言っては可哀想だと考え軽く笑うだけに止める相良であった。


「まあまあ。誰がこうとかいいじゃん。俺たちのやり方で楽しもうぜ。支援当てにしてるからな。」

「はい。任せてください!」


 少々強引にジソウは話をまとめてしまうがリミカは特に気にする事は無かったようだった。


「じゃ、次は相良だな。」

「ああ。分かった。」


△△△△△


 所有者:相良

 アーツマテリアル枠:6


 腕力強化Lv1 脚力強化Lv1 掴みLv1 脚捌きLv1 睨み付けるLv1 大声Lv1


△△△△△


「おっまえも特殊な選び方をしたな。腕力と脚力の部分強化か。あと、掴みに足捌きは相良の接近戦には必要だもんな。……睨み付けと大声で威圧にしたいのも分かった。」

「あれ、えっと、心得系統が無いですけど、どうやって戦うんですか?」


 心得系統とは、動作アシストのアーツと考えれば良いだろう。初心者が武器を振ったり魔法を詠唱したりなんてできるはずが無いのでそれを補うために有る。


「ああ、こいつね、剣術道場の息子で剣の扱い、それも真剣のほうの使い方マスターしてるのよ。」

「おい、何リアルの話を……ってまあいい。剣の扱いは少々理解しているつもりだ。だからとらなかった。ちなみに、前衛だな。」

「タンクやって、回避して、ダメージディーラーもこなす前衛って実現出来たら壊れ性能だよな。」

「出来る自信はある。」

「期待してんぜぃ。」

「な、なるほど。私も支援特化ですので、ジソウさん含めて本当に色物な三人になっちゃいましたね……。」


 一人は支援特化。一人は万能前衛。一人は斥候特化攻撃手段投擲のみ。


「ジソウは完全にネタだろう。投擲一本でやっていこうなど。」

「いやいやいや、枠が少ないからこうなっただけだから。何か良いものがあれば取り入れるし。」

「それでも序盤でここまで攻撃手段捨てないですよ?」

「勘のアーツはどうしたんだ。」

「ああ、普段は鑑定眼をつけておいてフィールドに出たら付け替える。今のところはな。」

「もしかして、さっきから色々拾っていますけど、鑑定してたりします?」

「おお。その通り。実は石とか葉っぱとかを拾っては観察してる。でも鑑定結果の表示は出ても無視してるかな。コリンクが言ってた通りだよ。観察している時間だけ熟練度のバーが溜まってくみたいだ。」


 結果ではなく行為が必要なのがこの熟練度システムなのだと理解したジソウは街中でも意味があるのかと検証するために密かに遠くを見たり、周りに注意を向けながら歩いていた。その結果、考えはあっていて、いくつか熟練度のレベルが上がっていた。

 ただ、まだそのことは二人に言わない。後で教えるつもりでは有るが……。


「でさ、さっき、万年筆拾って観察してたのよ。そしたら途中で熟練度のレベルがあがったみたいで、表示にココーロイズの万年筆って固有名詞が出てきたから、イベントかもしれないな。」

「って、おい。本当に色々見つけるなお前は。」

「イベントより私は早く外いってみたいですよぉ。」

「ままま、これは別に後回しでも良い。うん大丈夫。協会行って準備したらそのまま外に行こう。そうしよう。」


 美少女と親しい友のジト目に、後ろめたさもあったのでウッとたじろぐジソウ。

だがジソウにとって丁度良いところで、目的地の協会アカプルコ支部に辿り着けた。これ幸いとテンションを上げて誤魔化した。



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