契約書のここどういう意味なんですか?
勇者様に契約書をいただき、内容を確認するため慌てて会議です。
会議の間は勇者様には別室にて待機していただきます。
勇者様に頂いた契約書はこれです。
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世界間召喚業務委託契約書
ファングレス王国(以下、「甲」という。)とピースメイカー(以下、「乙」という。)との間で、世界間召喚における業務委託に関して、以下の通り契約を締結した。
(目的)
甲は乙に対し下記の報酬(以下、「目的物」という。)を譲渡し、乙は、これを世界平和をもたらすことで貰い受ける。
譲渡における期限は本契約締結後から対象世界にて一年(三百六十五日)以内とする。
但し、下記の前金は本契約締結後、七日間の内に譲渡するものとする。前金が期限内に支払われなかった場合は本契約を破棄する。前金受領後、乙は世界平和の実現の為に活動を本格的に開始することとする。また、世界平和をもたらす手段は乙に一任するものとする。
目的物の譲渡とは別に下記の約束事を甲は守ることとする。
(前金)
ファングレス王国の銅貨一枚。
(目的物)
下記(一)から(四)を目的物とする。以下、甲が存在する世界を「対象世界」という。下記(一)と(四)に関しては、甲が選出した候補に対して乙が確認の上受領するものとする。
(一)対象世界にしかない物一つ(生き物不可)。
(二)対象世界で一番綺麗な景色の情報(複数可、甲の主観で決めて良い)。
(三) 対象世界で一番美味なるものと一番不味なるもの(複数可、甲の主観で決めて良い)。
(四)対象世界で一番可愛い生き物の情報(複数可、モフモフであること、人類不可)。
(約束事)
乙の活動期間中、乙が希望した場合、甲は乙に対して寝床の提供と食事の提供と風呂の提供を行う。寝床と食事の質は甲の出来うる限りの最上を目指すものとする。
(罰則)
甲が本契約締結後の一年(三百六十五日)までに、上記目的物を乙に譲渡出来なかった場合、または、上記約束事を甲が守らなかった場合は、以降対象世界において未来永劫ピースメイカーとの契約を行えないものとする。
(免責事項)
本契約期間中の乙の活動は、対象世界以外でも観測され公開される。観測及び公開により甲及び対象世界に損害が発生した場合、乙の責に帰することのできるものを除き、甲及び対象世界はその損害に関して一切の責を問えないものとする。
以上、本契約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ、各一通を保管する。
対象世界人類歴 二千五百五十八年 四月十日
甲 対象世界
ファングレス王国国王
乙 ピースメイカー
ヤマダ
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書類に強いメンバーが集められます。宰相、内務大臣、外務大臣、財務大臣等など。会議室で膝を突き合わせて一枚の紙とにらめっこです。
……。
いくつかの疑問が浮かび上がりました。今日はもう日も沈み結構な時間が経過しているため、明日、勇者様へ質問をぶつけたいと思います。あの場でサインされなくて良かった。
勇者様を招集していざ会議の始まりです。会議室には、勇者様、お父様、私、宰相、内務大臣、外務大臣、財務大臣の七人が集まりました。国王であるお父様は些事ゆえ参加せんとしぶりましたが先日の一件を考えるに参加しないと問題になると強制参加です。七人の前に紅茶が運ばれて来ます。まずは雑談から勇者様に話しかけましょう。
「勇者様、昨晩はゆっくりお休みになられましたか?」
「えぇ、すっきりです。ベッドもフワフワで満足です」
爽やかな笑顔です。ほっとしました。
「それはよかったです。100%カシミールンの産毛を使ったお布団となっていてこの世界で一番のお布団だと自負しております。昨晩と今朝二回ほどお出ししておりますが、お食事の方はどうでしょう?」
「昨晩の牛のスペアリブは美味しかったですね。甘辛なタレが肉によく合っていました。朝食の方は味については問題ないのですが、量が多かったですね。私は朝食と昼食は少なめ派なのでご配慮いただけると助かります」
「わかりました。料理長に伝えておきます」
勇者様は紅茶を一口お飲みになりました。お口に合うでしょうか?
「ほう、この紅茶変わった香りがしますね。すうっとした香りが駆け抜けた後に柑橘系の香りが仄かにして」
「ドワンドという木の魔物がいまして、その葉を自然乾燥させたものになります」
「ほう魔物のお茶ですかそれは珍しい。それは人を食べたりする魔物ですか?」
「いえいえ、ドワンドは他の植物と同じで人を食べたり、人を襲ったりしません。古くから我国ではドワンドを栽培しておりまして、伝統的に飲まれているお茶なんですよ」
「魔物と人との共生ですか素晴らしい。良い試みだと思います。人を襲わないとお聞きしましたが、どうやって魔物だと分かったのですか?」
「ドワンドの幹の中には魔石が入っているのです。この世界では一般的に魔石を体内に有している生物は魔物、魔物の中で高度な知能を持ち言語を操るものを魔族と呼んでいます」
「そういえば昨日魔王を調べたときに体内に大きな鉱物がありましたね。あれが魔石ですか。ふむ、魔石があるだけで魔物扱いですか、わかりやすいですね」
紅茶のおかわりが運ばれて来ます。さてそろそろ本題にいきましょう。
「そういえば契約書を拝見して気付いたのですが勇者様はヤマダというお名前なんでしょうか?」
「えっあっはい、ヤマダです。ただ近しいものしか呼んではならない名ですので、普段は勇者ないしピースメイカーさんとお呼び頂ければと」
「かしこまりました。勇者様、ピースメイカーとはなんでしょうか?ピースメイカーがわからず、罰則のピースメイカーと契約ができなくなるの影響度が分からないのですが」
「ピースメイカーは、世界に平和をもたらすことを生業にした集団です。形態としては冒険者ギルドと同じ感じです。冒険者ギルドありますよね?」
「あります。つまり依頼を受けて魔物を倒すのではなく、依頼を受けて世界を救うということですか?」
「そうです。もしくは勇者のプロ集団だと思って頂ければ良いかと」
「どれくらいの人が今ピースメイカーとして働いているんですか?」
「本部に登録されている人数は三千人程度ですが、未登録でピースメイカーを名乗る人が沢山いて、正確な数は数えるのを諦めています。ピースメイカーを名乗る人はこの世界にいる生物の数と同じくらいと考えていただければと」
「ではかなりの数の方が働いてらっしゃるのですね」
「そうですね。異世界召喚を実行した際に召喚される人に対して何かしらの条件を付与した場合は昨今だとほぼほぼピースメイカーに当たると思って下さい。つまり異世界召喚で勇者に助けてもらうことが出来なくなると思って頂ければ」
「わかりました。ありがとうございます。契約書の内容について他にも確認したいのですがよろしいですか?」
「構いません。なんでもお気軽にお聞きください」
「ありがとうございます。ではグッド宰相続きをお願いします」
私の役目はここまでです。続きは三十歳で宰相を賜った我国の叡智、グッド宰相に進行をお任せしたいと思います。
「私の名はグッド・フォン・スペシュウムです。ファングレス王国で宰相をしております。以後、お見知りおきを」
「はい、ありがとうございます。ピースメイカーのヤマダです。よろしくお願いします」
「では早速、順に確認を進めさせていただきます。お付き合いの程よろしくお願いします」
「はい」
「まず、世界平和をもたらしたという基準について、具体的に明記されていないのですがこれは後に揉めることとなりませんか?例えば私たちは世界平和がもたらされていないと感じるのに報酬を求められるなど」
「そうですね。私の場合は揉めることはめったにありませんが、一般的に揉めることはありますね。ただ、これはピースメイカーとしての矜持に関わる部分ですので記載はしないことになっているんです。書かなくても揉めない、お客様にご満足いただく、それがピースメイカーの矜持となります」
「なるほど誇り高い集団なのですね。因みにこちらが平和になっていないと感じ報酬の譲渡を渋った場合、罰則は適用されるのでしょうか?」
「適用されます。今後ピースメイカーと契約することはできなくなるでしょう。但し、ピースメイカーの仕事は不正が行われないよう全世界に公開されます。公開された後、ピースメイカーの仕事が不適切であったとされた場合は、代わりのピースメイカーが派遣され契約も罰則も破棄されます」
「全世界公開というのは、免責事項に書かれている事項ですか?」
「そうです。こちらの世界を含め全世界に公開されます。各世界の生命が観ることができるかどうかはその世界の神様次第なのですが、神様に限って言えば、ほぼ全ての世界の神様が閲覧していると思って下さい」
「なるほど」
「はい、元々はピースメイカーの仕事ぶりの宣伝と不正の摘発を目的に作られた制度だったんです。ですが、今では世界の紹介用動画としての需要が伸びて来ていて、ナイスな世界だと異世界からお客さんがワンサカきます。後、単純にピースメイカーの仕事のファンの方が有難いことにいらっしゃって、その方々の娯楽になっていたりします。有名どころのピースメイカーだと映像記録の再生数は一兆を超えます。自分でいうのもなんですが私も有名どころとなります。この世界のためにも良い仕事になるといいですね」
「有名なんですか?」
「はい、一応現行の制度を作りプロとして勇者をやり始めたのが私なんです。この業界の第一人者であり、世界で五人しかいないS級のピースメイカーとなります。ですので、期待していただいて構いません。きっちり仕事は行います」
「第一人者ですか凄いですね。もしかして組織の中でもかなり偉い立場だったりしますか?」
「そうですね。ただ私は生涯現役を掲げていますので立場的にはそこそこです」
「……報酬はこの程度でよろしかったのですか?」
「そうですね、他のピースメイカーが来ることもあるかもしれませんので一応ご説明しますと、今回金銭的な報酬等は皆様の神様から直接受け取る手はずとなっているのです。ですので、現地の皆様からは受け取る報酬はささやかなものになっています」
「なるほど神からですか。報酬についてですが、この世界にしかない物というのは、例えば絵画など人の手によって作成されたものでもよろしいのでしょうか?」
「構いませんよ。同じ絵は異世界にはありませんからね。あー厳密にいうと他世界の絵を転写する魔法具があるので世界間で同じ絵があったりもするのですが、この世界は他の世界とのパスを異世界召喚以外は切っている状態なので大丈夫です。ただ報酬の各品は他の世界の方々に紹介したりするのでこの世界を自慢できるような素晴らしいものの方がいいですね。絵画など美術品は評価が人によりけりになるところがありますから難しいところです。この世界にしかない鉱石などが定番でしょうか」
「希少な鉱石ですとオリハルコン、アダマンタイト、ミスリルですね」
「同名のものは他世界にもありますね。ただ組成が違う可能性があるので持ってきてください。確認します。意外と川原にある何気ないただの石がレアだったりするんですよね。なので、色んな産地のものをじゃんじゃん持って来てください」
「他の報酬ですが、一番可愛いもののモフモフとは?」
「モフモフの定義ですね。抱いたときに魂がモフモフや~と感じることです。私の生まれた世界の可愛いモフモフ代表格としては猫ちゃんがいます。あっ猫知っていますか?」
「勇者様の生まれの世界の猫と同じかは分かりませんが私たちの世界にも猫はいます」
「ちょっと待って下さいね」
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勇者様の手元に銀の板が現れました。指を滑らせています。
「ふむふむ……いますね。短毛種、長毛種共に。私の生まれの世界にいた猫ちゃんたちと差はないように見えます。ただこの世界には貴方達の神様いわく猫よりモッフモッフがいるとのことでしたので、是非猫以外でお願いしたいです」
「わかりました。他に景色、美味なるもの、不味なるものは私たちの主観で構わないと?」
「はい、契約書に記載通りです」
「わかりました用意します」
「不味なるものは、貧しくて食べるものがなければ食べるっていうレベルのものじゃなくて、魔物も食べると死ぬと言い伝えられているマズイ食べ物レベルでお願いします。悪食というスキルを持っているので、なんでも食べられるので気にせず出してください。ただし、毒物は出来るだけ止めてくださいね。まあ、私に毒は効かないのですが、知り合いに紹介しづらくなるので」
「承りました。次に世界平和をもたらすことができなかった場合のそちらの罰則はないのでしょうか?」
「貴方がたが私を罰することはできないでしょう。物理的に。でもご安心ください。仕事内容は全世界に放映されているので私の仕事ぶりが悪ければ私はこの業界で飯を食べて行くことが出来なくなるという罰を受けることになります。それでいかがでしょう?」
「名誉を担保にされていると」
「名誉と職ですね。ひどい場合は神々からお叱りを受けます。勘違いしないでいただきたいのが我々ピースメイカーは報酬をいただき仕事として従事しますが、契約で我々ピースメイカーを縛ることはできないということです。なぜなら、本来は業務を受ける義務など一切ないからです。ピースメイカーの行為は飽くまで良心から来るサービスに基づいているのです。自分たちの世界は自分たちで守るが大原則なんです。それが守れず泣きついて、泣きついた先で結果に不満をいうのは恥ずかしい行為だと思われませんか?」
「厳しいお言葉ですね」
「皆様はお客様ですが、お客様にどれだけ敬意を払うかはピースメイカーの気分次第なんですよ。これは勇者召喚が誘拐事件であった名残なんです。勝手に召喚した奴らになぜ従わなければならない、ふざけんな馬鹿野郎!というわけです。最近の若い子たちは自力で帰れるようにマジックアイテムが渡されるのでそんな理不尽な思いをすることがなくなって、この風潮も古くなってきたのですが、私は古い世代なので古き良き伝統として免責事項にピースメイカーの罰則は記載しない主義なんです。ご理解いただけますでしょうか?」
ご理解するしかありませんね、これは。選択肢がありません。
「わかりました。罰則事項は不要です。続いて、約束事に関してこちらが最上のもてなしをしたとして、そちらの主観で最上でないと言われた場合も罰則に引っかかるのでしょうか?」
「そうですね、努力していただきたいです。ただ理不尽な行使は公開されているため職を失うことになるので基本的にはできません。粛々とただもてなされるだけです」
「罰則の対象世界においてピースメイカーと契約できなくなるとありますが、我が国以外の人々も対象ということでよろしいでしょうか?」
「そうですね。国単位だと後々なくなったりしてややこしい事になるのでこうなっています」
責任重大ですね。
「わかりました。免責事項にある公開することによってもたらされる私たちや世界に対する損害とはどういったものを想定しているのでしょう?」
「ピースメイカーに対して不当な扱いをすることによって、この世界の人々が周りの世界の人々に嫌われたりすることでしょうか。公開するのでそういったことはよくあります。嫌われた場合、最悪攻めて来られたりするんですが、その場合は貴方達の神様が守ってくれると思うのでそんなに怖がることはないと思います。神様には今回の仕事が公開されることに関して既に同意を貰っています」
「また神様ですか……私たちの神様とはどういった方なのでしょう?」
「詳しくはお答えできませんが、私の印象ではお優しい方ですね」
「そうなんですね。後、免責事項にある『乙の責に帰することのできるものを除き』とありますが、例えばどういったものがありますか?」
「ピースメイカーによっては売名行為として、わざと現地の人達を悪者に仕立て上げて炎上によって再生回数を伸ばそう輩がいまして、その場合は責任を問うことができます。皆さんが直接相手に訴えるのは難しいと思うので、放送を通して全世界の人々に助けを求めるといった形になるかと思います。もしくは、神様へお願いしてどうにかしてもらうでしょうか」
「公開先で故意に悪印象を持たれるように細工するということですか、わかりました。契約の途中破棄に関して記載がないのですがどうなっていますか?」
「基本できません。例外としては、契約を盾にピースメイカーが不正な行為を行った場合ですね。係りの者が乗り込んで契約を破棄します。一度締結すると皆さんが自主的に破棄することはできません。ですので、契約は納得がいくまでよくご確認を」
「ピースメイカーによる不正な行為とはなんでしょう?」
「私のような本部所属のピースメイカーにはあります。内容はお伝えできません。ピースメイカーの矜持に関わるとだけ」
「対象世界人類歴というのはなんでしょう?」
「人類が生まれたときから何年というものです。貴方達の神様からお聞きしました」
「なるほど、次に報酬の受け取り期限が世界平和をもたらした後からではなく、本契約の締結後から数えて一年となっている件についてですが、これは一年以内に世界平和がもたらされなかった場合にも支払い義務が生じるということでしょうか?」
「生じます。契約を続行したいと思えば報酬をお渡しください。もういいと思えば支払いをせず罰則の適用を待って下さい」
「解約が罰則の適用というのは少々きつ過ぎませんか?」
「私が要求している報酬はほんの些細なことです。一年働いた結果、些細な報酬も受け取れないのでは支払い能力が疑われ、ピースメイカーとの契約者足る資格なしと判断されます」
「わかりました。つまり本契約は実質一年の期限つき契約というわけですね」
「その通りです。一年経っても解決しておらず、再契約が必要となりましたらまたそのときご相談させていただければと思います」
「その旨契約書に明記いただくことは?」
「不可です。再契約をするかどうかの決定権はこちらにあります。ピースメイカーの活動を制限することはできないです」
「そうですか残念です。最後に世界平和ですが、どういった手段で実行するおつもりですか?」
「秘密です。仕事が始まればすぐに分かります」
「そうですか。手段は一任するとのことなのでお任せします。我が国をよろしくお願いします」
「国という単位ではないですね。世界です。世界をなんとかします。ただ勘違いがあるといけないので明言しておきますが、世界を救うのは私がやるわけではありません。皆さんです。自分の世界は自分で守れるようにしよう!が私の仕事のポリシーです。ですので、私はちょっとしたお手伝いをするだけです」
「はい、わかりました」
朝から始まった会議も途中で昼食休憩を挟み、夜まで続きましたがようやく終わりました。お父様が途中でウトウトしていたので蹴飛ばしましたが、その他は特に問題なく終わってよかったです。今日の結果を受けてまた明日会議をして、明後日には調印式を迎えたいと思います。




