番外編 とある国の滅亡
「父様ご武運を!」
父様は私の頭に手を乗せ、ぐしゃぐしゃと撫でてくれると快活に笑った。
「クリス、国のことは頼んだぞ」
そういうと父様は手勢を連れて戦場に旅立った。私にはご無事を祈ることしかできなかった。
キベルタ王国に魔物の大軍勢が攻めてきた。国王自ら戦陣に立ち、この国難を退ける必要があった。
キベルタには強固な都市を囲む外壁がある。しかし、今朝の報告では外壁を囲むようにおびただしい数の魔物が群がっているという話だった。
キベルタはその構造上、外壁を抜かれてしまえば都市の陥落はあっという間である。
だから、父様は出陣したのだ。
残った家臣と私は城で吉報を待った。しかし……。
「……全滅です」
息も絶え絶え玉座の間に報告しにきた兵はそれだけを伝えると倒れた。息が詰まった。上手く空気が吸えなかった。
「クリス様、逃げましょう」
大臣がいう。近衛兵も逃げるべきだという。思い悩んでいると次の報告が来る。外壁を魔物の軍勢が超えるのも時間の問題だと。
息を思い切り吐いた。そして、吸い込む。私は周りを見渡した。王族としてやらねばならないことがある。父様に託された国を守る必要があった。
「皆、逃げてくれ。私は打って出る。国民全員へすぐ逃げるように指示を!」
「姫様!」
止めるものもあったが、私の決意は変わらなかった。甲冑をつけ、剣を握る。
「国民を全員逃がすのだ!動けるものは時を稼ぐぞ!」
近衛兵を中心に残った兵力すべてを連れて、外壁まで走った。
辿り着くと外壁をくぐり、魔物の軍団と対峙する。二足歩行の豚のオークの群れ、その鋭利な鉤爪で上空から舞い降りては我が兵を切り裂いているのはシャリバーンか、そして無数の動く沼の魔物ドローンがいた。
見渡す戦場は吐き気を催すには十分だった。いたるところに人間だったものが転がっている。空は分厚い雲に覆われ、ここには光などなかった。
「私の名はクリストファー・ラン・キベルタ!魔物共よ!ただで我が国を取れると思うな!兵よ!拳を突き上げろ!私たちはまだ生きている!」
「「「うおおおおお!」」」
兵を鼓舞する。まだ士気は死んでいない。
外壁の上から魔法師が攻撃を加えるが多勢に無勢、そして、縦横無尽に飛び回るシャリバーンによって外壁の上にまでおびただしい被害が出ている。
魔物たちを近寄らせないように布陣を作り、私は外壁の上へと走った。
外壁の上に辿り着くと仲間の贓物の中で必死に持ちこたえている兵士たちがいた。
「シャリバーンを落とせ!」
狙いをシャリバーンに絞る。空からの一方的な攻撃さえなくなれば戦況を覆すことも可能だ。
<<ファイヤ>>
私も炎魔王を放つ。シャリバーンを一体落とすことに成功した。
「「「おおおおおお!」」」
士気が上がる。まだ行ける。まだなんとかなるのだ。
<<ファイヤ>>
<<ファイヤ>>
<<ファイヤ>>
外壁にいた弓兵も私たちの魔法に合わせ攻撃を加える。行ける!シャリバーンは大きくうめき声を上げたかと思うと墜落していった。
「姫様!左です!」
シャリバーンがその口を大きく開けけたたましい声を上げながら上空から襲い掛かってくる。剣を抜き、鉤爪の攻撃を防ぎ、返す刀でその首を落とす。
「「「うおおおおおお!」」」
「魔物よ!なにするものぞ!まだ行けるぞ!私たちは負けない!」
「「「うおおおおおお!」」」
シャリバーンに時間を取りすぎてしまった。外壁前の布陣は突破され、オークや沼の魔物に接敵されてしまった。我が国を長い間守り続けていた鉄壁の門が軋む音が鳴る。
「投石だ!一斉に投げ落とせ!」
外壁の上から巨大な石を落とす。一、二、三、沢山その石の下敷きになり魔物を屠った。
残ったわずかなシャリバーンが嫌らしい動きをする。しかし、外壁を破られるわけにはいかない。門に取り付く魔物どもを魔法で蹴散らしていると、外壁の上から悲鳴が上がる。
沼の魔物が外壁を登ってきて、いつ間にか私たちの元へと来ていた。沼の魔物は人を生きたままその沼の体に沈めていく。兵士たちの断末魔が響き渡る。兵士を飲み込んでいることもあり、攻撃を躊躇してしまう。
勇敢な兵士が斬りかかったが、沼をわずかに切り取るだけで効果はなかった。
<<ファイヤ>>
炎は沼を焼くことはできなかった。
「皆のもの氷系の魔法だ!」
<<フリーズ>>
指示を変え、氷魔法に切り替える。狙い通り沼の魔物を凍らすことに成功した。
<<フリーズ>>
<<フリーズ>>
<<フリーズ>>
沼の魔物を次々と屠っていく。行ける!まだなんとかなる!外壁に取り付くオークをどうにかしなければならない。まだ街に入れるわけにはいかない。
外壁の上から魔法を放つ。
オークの群れの中には、剣の先に人間の首をつけたオークがいた。その首と目が合った。
「うああああああああああ!」
優しい父様の顔が頭をよぎった。
<<ファイヤ>>
オークを首ごと焼き払う。止まるわけにはいかない。国民を守らねばならない。
「皆!大丈夫だ!勝てるぞ!」
「「「うおおおおおおおおお!」」」
オークを焼き、シャリバーンを落とし、沼の魔物を凍らす。膨大な数に押されているが、勝機はある!
膨大な軍勢を押し返し、相手の軍の底が見えた。希望が見えたとき、それは起こった。地平を埋め尽くす。オークの群れが現れた。忌々しいことにシャリバーンと沼の魔物もいる。そして、魔族がいた。
「無駄な抵抗を」
そう魔族が呟くと、私たちがいた外壁が足元から崩れ去った。魔族の魔法だったようだが、一瞬のことでわからなかった。
瓦礫の中から立ち上がり、皆を鼓舞する。まだだ!まだだ!
私たちは……魔物の群れに蹂躙された。
「神、アーガレストよ!なぜだ!なぜ!我々にこんな試練を与える!」
歯を食いしばり、一匹でも多く葬り去る。そんな私の気概を挫くように私の体は後ろから来たオークのこん棒の一撃で吹っ飛んだ。
私はオークに捕まってしまった。
薄れいく意識の中、捕まった私を見て魔族がいった。
「女か?生かしておけ」
そんな屈辱的な理由で私は生かされた。




