世界会議二日目です。お父様空気になっていてください。
一日目はお昼から開催された世界会議ですが、二日目以降は朝から夜まで開催されます。
勇者様は城の一室に帰ってきて、今日も朝食を食べて疑似神界へ旅立たれました。
「一日で解決はダメでした」
そう嘆くと別世界の人たちが慰めてくれます。
「一日が一番というわけではないでござるよ」
「そうよ。日数よりも皆の納得が大事よ」
「そうだね。皆で考え、皆で納得する。日数はおまけのようなものだよ」
「おまけは言い過ぎ。日数は狙うべき」
様々な声が聞こえてきます。
「七日以内こそ至高!それを目指すべき」
「「「「七日!七日!七日!」」」」
アーガレスト世界の皆も加わり七日コールが巻き上がります。
太陽が昇り、今日の会議も始まります。
「じゃあ、世界会議二日を始めることとする。早速なんだけど司会どうする?我が続投しても良いが、この世界の人にやってもらうのが一番だと思うけど」
「議論に集中したいため、司会をお任せすることは可能ですか?」
ルーベンス王が勇者様に提案します。その提案に皆も勇者様に引き続き司会をして欲しいという声が重なります。
「昨日やってみた感じじゃが、わしらでは国民の声を拾い上げるのが難しいのじゃ。続投を望むのじゃ」
「まあいいよ。そういうことなら今日も我が司会ね。では、議題があるものは挙手を。所属と名前を言った後で発言してね」
特徴的な耳を持った女性が手を挙げます。
「エルフの国サンジェルネの女王、ルーエフィーよ。建国の次は、私たちは奴隷解放を願うわ」
「大事な議題ですね。今の世界は神の教えを無視しています。奴隷などというものが存在してはいけません!」
聖女様が憤慨しています。
「奴隷は確かに人道に則ってはいないでしょう」
「そうじゃな、魔族の奴隷も解放して欲しいのお」
ルーベンス王とリンネさんが続けます。
「奴隷などという人間を家畜に落とすものはなくなればいいんだ!」
部族の長が言いました。この部族に何かあったのでしょうか?
「せやね。まあええやろ。わいも奴隷解放には賛成したる。でも、ただ解放しただけじゃあかんやろ。職がなければ食ってけへん」
「奴隷をまとめて希望者には教育を施す機関が必要ですね」
ルーベンス王がそう提案すると聖女様が頷きます。
「その役目、教会がやりましょう。全ての奴隷を受け入れます。」
「「「聖女様!聖女様!聖女様!」」」
「奴隷も人なのです!奴隷になった人よ。我が協会へ来て共に光の中を進みましょう!」
「おらも救われるだが?」
「食べていけるの?」
「奴隷じゃなくなれるの?」
世界各地のボロボロな服を着た人たちが映ります。皆、喜びというよりは動揺が広がっているようです。
「奴隷の皆さん。今まで奴隷として生きたことにより、奴隷を開放されると言われても困ると感じる人もいるでしょう。しかし、皆さんは変わらなければならないのです。大丈夫です。これは幸せになるためです。共に幸せになりましょう!今こそ自由を手にするのです!」
聖女様が力づく宣言するとポツポツとした呟きが段々大きくなります。
「「「「奴隷解放!奴隷解放!奴隷解放!」」」」
「「「「自由!自由!自由!」」」」
「はい、聖女様は多くの賛同を得たから座布団一枚ね」
聖女様に座布団が渡されます。短く感謝を述べると聖女様が増えた座布団に座ります。これで聖女様は五枚目です。カッサードの王が手を挙げます。
「賢者ドルムンヒストから奴隷問題が議題に挙がった際は、必ず奴隷商についても議論するようにと言っていた。奴隷商はどうなる?奴隷商は救われないのか?」
「せや、奴隷商が食っていけへんくなるわ」
確かにそうです。
「奴隷商という仕事自体が間違っているのです。この期にやめて貰いましょう」
聖女様がそういうと国のあちこちから声があがります。
「酷い!おれらに死ねというのか!」
「これも立派な商売なんだ!」
「せめて次の職につけるようにしてくれ!」
どうしましょう。奴隷商の皆様が困っています。
「そうですね。こういうのはどうでしょう。既存の奴隷を開放するのにあたってその奴隷がいる国が全て奴隷を購入した上で解放するというのは」
「せやね。それやったらまとまったお金が手に入るから次の商売を始めやすいやろ」
「それならば問題ないか」
国が買い上げるのが落としどころとしては丁度いいのかもしれません。皆がその意見に賛同していきます。
「全部買って貰えるならまあ」
「それならばしょうがないか」
「まあ俺もこの仕事が良くないとはわかっていたからな」
「次はドレス屋でもやるかー」
世界中の奴隷商の皆さんも受け入れてくれたようです。
「では、決を取らせて貰うわ。すべての奴隷の解放に賛同するものは挙手を!加えて奴隷はその国が買い上げ、教会がその後の奴隷だった人たちの世話をすることに賛同するものは挙手を!」
全ての参加者が手を挙げます。光が天に向かい伸び集まり弾けます。全会一致です。
「これでまた世界が一つ神の御心に近づきました」
聖女様が祈りを捧げます。
「まあ、奴隷解放は定番だよな」
「昨今、奴隷を継続している世界の方がレアだからな」
「まあ、奴隷にされる側の気持ちまで考えられるようになると、どうしたって存続できない制度よね」
皆さまが奴隷解放は必須であると口々に言っています。良かったです。私たちの世界も平和になりました。
「次の議題ある人いる?」
一人の勝気そうな顔の女性が手を挙げ発言をします。
「今は亡きキベルタ王国の第一王女、クリストファー・ラン・キベルタだ。同じく亡国となったアルバスタ王国とも話し合った。我々は失われた国を元通りにし、戦争による死者の復活を希望する!」
亡国の姫と王子が厳しい表情で問いかけます。国は復活させてあげたいです。死者も生き返って欲しいです。
「「「アルバスタ!アルバスタ!アルバスタ!」」」
「「「キベルタ!キベルタ!キベルタ!」」」
国民の皆さんの声が響き渡ります。
「おっとうを生き返られせてくれ!」
「おかあちゃんを!」
「恋人を返して!」
悲痛な声で溢れます。
「ライメイレン帝国のグラファルーン・ラン・ライメイレンだ。正式に謝罪をしたいと思う。此度の戦争を始めたのは我が国だ。我が国は昨日決定した通り、領土を大きく世界平和のため譲渡することにした。そこで落としどころにして欲しい。勿論、失われた国の復興や死者の復活に大賛成だ」
「魔王、カッサンドラ・アルマーニだ。我もこの提案に賛成にする。亡くなった我が同胞たちの復活も望む」
勇者様が問います。
「魔王よ、人族の王たちよ、死した人々は戦いの戦果、その戦果がなくなることについて否はないか」
「戦果などではない!人の死は戦果などと誇るものでは断じてない!私は願う。此度の戦争で死したものたちの復活を!そして、今なお負傷しているものたちの傷も癒して欲しい!」
「誘導されたなど魔族の恥だ、戦果がなくなることについて何もない。ましてや我が国の民も生き返るのだろう。賛同の意しかない。そして、そやつがいったように戦争で怪我を負ったものたちも癒して欲しい」
良かったです。皆さんの考えが一致し、死者が生き返って、怪我人も回復できそうです!
「お母さん、お父さん生き返るの?」
「そうよ。きっと生き返ってくれるわ」
抱き合う親子が画面に映ります。各地で同じような光景が繰り広げられます。我が国ファングレス民も喜んでいます。我が国も多くの血が流れました。生き返るのならばそれ以上に良いことはないでしょう。
「皆さん、落ち着いてください。それは世界の理を乱す行為です」
聖女様の厳かな声が響きます。
「怪我の回復はいいですが、死者の復活はそこの悪魔ができると言ってもダメです。命は巡るのです。もう次の生への旅路へ渡ったものを呼び戻してはいけないのです」
「くそ聖女!」
「お前にはわからないだ!」
「そうだ!親しいものを亡くしていないから言えるんだ!」
「傍観者は黙ってろ!」
「はい、反感が半数を超えたため座布団一枚没収です。」
聖女マリアンヌ様の五枚あった座布団が四枚になります。勇者様が素早く引き抜いたとき、聖女様がバランスを崩します。バランスを崩し、前に手をついた状態でなおも声を上げます。
「皆さん、聞いてください。死からの復活を許してはいけないのです。一度それを許してしまえば、また何かあれば復活をして欲しいと願うでしょう!できないことはできないこととしておく必要があるのです!」
ぐぬぬ、言っている意味はわかります。わかりますが、感情が理解を拒みます。
「まあ、お主の言葉も正しいじゃろうな。生き返るという前例を作ってはいけないというのは頷けれる話じゃ」
「そうでしょ!リンネさん生き返りはダメなんです!」
「しかし、戦時はどうかの?イレギュラーな事態として処理することはできないかの?」
「ダメです!戦争も人の歴史です。なかったことにはできません!」
「相変わらず頭が固いの~」
「「「頑固!頑固!頑固!」」」
「聖女様!お父さんを返して!」
「聖女様!お願いします!」
「「「聖女様!聖女様!聖女様!」」」
聖女様は表情を崩しました。
「これではまるで私が悪者のようではないですか……」
お父様が立ち上がります。お父様!ハラハラします。お父様は聖女様の肩を叩きながら声をかけます。
「聖女よ。こうは考えられんか。此度の死者の復活も神によってもたらされた奇跡であると。我が国が召喚した勇者ではあるが、これは神のお導きだったのだ。ゆえに、神の奇跡なのだよ」
お父様は我が国が召喚したとさり気なく強調していました。グッド宰相は胃に手を当てながらいい笑顔です。聖女様は決意した顔をすると言いました。
「皆さん一つこれだけは覚えておいてください。人は死ぬものです。すべての生き物は死ぬのです。その理は全てのものに与えられます。それこそが神の慈悲なのです。」
聖女様は両手を重ね合わせ祈りのポーズをします。
「……わかりました。同意しましょう。」
「「「うああああぁぁぁぁーーーーー!」」」
「「「聖女!聖女!聖女!」」」
「皆さまゆめゆめお忘れなきよう。今回が特例であることを」
勇者様が周りをぐるっと見渡します。
「では決を取りたいと思います。亡国の復活と戦死者の死者蘇生、戦争で傷ついたものの回復に賛同するものは挙手を」
皆の手が一斉に挙がります。光が空へ打ちあがり弾けました。全会一致です。
「ありがとうございます!」
「ありがとう!感謝する!」
亡国の姫と王子が感謝の言葉を紡ぎます。良かったです。これで亡くなったファングレス民も帰ってきます。泣きながら抱き合う国民たちがモニターに映ります。少し涙が出てしまいました。誇らしげなお父様の表情が映るとグッド宰相が全力で拍手を贈っています。まあ、お父様にしては悪くない活躍です。
「次の議題はどうするかな?何かある人」
勇者様が問うとライメイレン帝国皇帝グラファルーン王が挙手をします。
「流されてしまったが、我が国の賠償問題を可決したい。大幅な領土の譲渡で手を打って貰えないだろうか」
「死を!」
亡国の姫であるクリストファー様が過激に答えました。
「せやね。領土の割譲はいい線やと思うが、あんたがやったことの償いとしては足らんやろ」
「「「死!死!死!」」」
「そうです!人とは憎しみ合い殺し合うものです!さあ、この者を殺すのです!」
エビフト団団長が煽ります。この人は今の状況を楽しんでいる節があります。厄介です。一同が黙ります。それを破ったのはエセベンサイカンの王でした。
「わいは足らんと言ったが、ほんまに一人の人間の死で償えるものやろか?例えばこの件に関わったライメイレン帝国の多くのものの死でもほんまに償えるものやろか?気持ちはスッキリするやろ。でもそれだけや。なんも生産性があらへん。なにも得るものがないんや」
「そうです。皆のものよ。憎しみ合い殺し合うのではなく、許すべきです。」
聖女様が続けます。
「罪に罰は必要でしょう。しかし、今回はこの悪魔との契約で命は帰ってくるのです。それなのに罰を過剰に求めるのは人の理に外れるとは思いませんか?」
「せやね。今回の場合はそこまで罰を強いる必要はないもしれないわ」
「そうじゃの。落としどころとして領土の大幅割譲。後は迷惑をかけた国への賠償金あたりでいいんじゃないかの?」
「賛成や!金や!金をくれ!」
「「「「金!金!金!」」」
「わかった。できる限りの金銭的な補填をしよう。此度の件、本当にすまなかった」
「亡国の民や王よ。許してあげられますか?」
聖女様が優しく問いかけます。亡国の王子が立ち上がります。
「僕はこれでいいと思う。しかし、二度とこんなことが起こらないように世界的に戦争を禁止したい」
「いいぞー!」
「よく言ったー!」
「「「戦争撲滅!戦争撲滅!戦争撲滅!」」」
「「「戦争反対!戦争反対!戦争反対!」」」
「クダルフォン君座布団一枚ね」
「あ、ありがとうございます」
亡国の王子に赤い座布団が追加されます。
「もう戦争はいらんじゃろ?」
リンネさんが続けます。
「そうですね。戦争はもうおしまいにしましょう」
ルーベンス王も加勢します。
「この中にまだ戦争がしたいという国はある?」
勇者様が問えば誰一人声を上げるものはいません。いや、一人いました。魔王カッサンドラです。
「我は戦争がしたい。しかし、この世界である必要もない。私は配下のものを連れ別の世界で戦争をしようと思う。」
「ええんやない?戦争したい人は他の世界でやってや」
「迷惑をかけんかの?」
リンネさんの問いに勇者様が答えます。
「いいんじゃない?戦争万歳!戦ってなんぼの世界もあるもんだよ」
「なるほどの。そういった世界もあるのじゃな?ならばそこに行けば解決じゃな」
「ああ、我もそういった戦意溢れる世の中で腕を振るいたい」
「話が逸れましたが、戦争がやりたいものは戦争がやれる世界で戦争をやる。この世界はもう戦争はやらないでいいでしょうか?」
ルーベンス王がまとめます。
「「「賛成!賛成!賛成!」」」
「では決を取ろうか。此度の戦争の賠償は領土の割譲と賠償金で、この世界では二度と戦争を起こしてはならない。魔王とその配下は戦争ができる世界へ送り届ける。でいいかな?賛同するものは挙手を」
勇者様の呼びかけに皆が手を挙げます。光が空へ舞い上がり集まると弾けます。良かった。全会一致です。これで私たちの世界から戦争はなくなりました。また一つ世界が平和になったことを実感します。
「良かったでござるな」
「戦争廃止おめでとー!」
「ありがとうございます!」
各地で皆がモニターの前の他世界の人々から祝福を受けます。各地から陽気な音楽が聞こえてきます。この日は私たちにとって歴史的な日になったのかもしれません。




