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第59話:統一通貨と「盾」の誓約

リッカの提言する「統一通貨」と「専守防衛憲法」。常識を覆すフィンの防衛技術が、小国家連合を一つの巨大な「盾」へと変えていきます。

小国家連合の最高会議は、最高潮の熱気と困惑に包まれていた。

 円卓の中心に、リッカが一枚の分厚い羊皮紙を叩きつける。そこに記されていたのは、各国の紋章ではなく、共通のデザインが施された「新しい硬貨」の図案だった。


「――通貨の統一だ。各都市国家の独自通貨を廃止し、連合共通の経済圏を構築する」


その大胆な提言に、いくつかの領主が席を蹴って立ち上がった。

「馬鹿な! 通貨の発行権を失えば、我々の独立性は形骸化するぞ!」

「時期尚早だ! 経済の混乱をどうするつもりだ!」


怒号が飛び交う中、リッカは眼鏡の奥の冷徹な瞳を動かさず、静かに告げた。


「アイゼンを見ろ。かつて軍事で睨みを利かせていたあの国家は、領主の失踪により今や脆弱の極致にある。東の『神聖教国』がその空白地帯を狙い、軍を進めてくるのは時間の問題だ。経済の一体性がなければ、我々は物資の融通すらままならず、各個撃破される。……独立を守るために、今、財布を一つにする勇気を持て」


静まり返る会場。リッカは間を置かず、次の「一手」を打つ。


「そして、軍事だ。アイゼンの穴を埋めるため、アークステリアの領主には、傭兵団団長アリシア・アークスハイムを正式な軍事領主の座に据えるよう提言したい。彼女の武勇とカリスマこそ、連合の軍事的支柱にふさわしい」


視線が、末席で退屈そうに大剣の柄を弄っていたアリシアに集まる。

 彼女は一瞬驚いた顔をしたが、リッカの冷徹な計画を察し、不敵に笑って応じた。

「……へぇ、面白いじゃないか。私の大剣を、連合全体の盾にしろって言うんだね」


さらにリッカは、傍らに控えるフィンと、その後ろに立つ2メートルの鋼鉄の巨人――父ガイルを見やった。


「今回、我々が目指す軍事体制は『防衛特化』だ。世界を滅亡から救い、魔王城を無力化したフィンの功績を評価し、彼に軍事増強の新技術研究を全権委任する。……ただし、作るのは『攻撃兵器』ではない」


どよめきが起きる。

「防御だけで防ぎきるなど不可能だ! コストも攻撃側の数倍かかるのが戦の常識だろう!」


「その常識を、フィンの技術がひっくり返す」

 リッカは断言した。


「攻撃力を持てば、国同士は疑心暗鬼になり、また戦争が始まる。だが、いかなる侵攻も無効化する圧倒的な『拒絶の盾』があれば、戦意そのものを削ぐことができる。……フィン、説明を」


美青年へと成長したフィンが、一歩前に出る。

「……はい。僕の生体核融合エネルギーと、父さんのガーディアンが持つ技術を組み合わせれば、都市全体を覆う『因果干渉型防衛障壁』が構築可能です。これは物理的な壁ではなく、空間そのものを固定する。攻撃にかかるエネルギーをそのまま防御に変換するため、理論上、コストは攻撃側の数分の一で済みます」


フィンの隣で、ガイルが重厚な駆動音を響かせる。

『……我々、は、……もう、……誰も、傷つけたく、ない。……守る、ため、だけの、……力を、……。それが、……佐野、と、……吉川、の、……願いだ』


激しい議論は数時間に及んだ。

 しかし、リッカが仕掛けたインテリジェンス工作――帝国の民主化と鈍足化、そして東の脅威という「現実」を前に、領主たちはついに折れた。


最終的に、各国は了承した。

 連合憲法には「専守防衛戦力以外を保有しない」という一文が刻まれ、軍備は共有財産として格好が平等に配備することが取り決められた。信頼を言葉ではなく「技術的な制約」によって裏付けるという、リッカならではの、そしてフィンにしか成し得ない平和の形。


「……よし、これで第一段階は完了だ」


会議を終えた廊下で、リッカが小さく呟く。

「お疲れ様、リッカさん。……でも、本当に良かったの? アリシアさんに領主なんて」


「彼女には、表舞台で『力』の象徴になってもらわねば困る。……それに、伯爵令嬢がドレスを脱いで領主の執務服に着替えるのは、メイドたちも大賛成らしいぞ」


フィンの問いに、リッカは少しだけ口角を上げた。

 かつての戦士たちは、今や一国の、そして世界の形を変える「公人」へと変わりつつある。


「さあ、フィン。帰って研究の続きだ。……『拒絶の盾』が完成するまで、私は一秒たりともお前に眠る暇を与えないからな」


「……うーん、やっぱりリッカさんは、10年前より少しだけ厳しくなった気がするよ」


笑い合う二人の背後を、2メートルの鋼鉄の父が、誇らしげな音を立てて守っていた。

 

 歴史は、今度こそ正しい「平和の演算」を開始した。

「攻撃こそ最大の防御」という軍事常識を、フィンのオーバーテクノロジーでひっくり返す展開。リッカさんの冷徹な計算と、フィンの「誰も傷つけたくない」という想いが一致した、美しい着地点です。

アリシアさんの「軍事領主」就任も、彼女の豪胆さにぴったりですね。

次回、第60話。最終回。

星降る夜の約束。完成した「盾」の下で、フィンたちが手にした本当の安らぎ。

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