第6話 祈りと誓い ― 鉄の梟と少年
傭兵団《鉄の梟》の簡易キャンプ。
焚き火の赤い光が、夜の闇を揺らしている。
フィンは両手いっぱいに耳飾りを抱えたまま、灰まみれの顔で立ち尽くしていた。
その姿は、今にも消えてしまいそうなほど儚かった。
アリシアは無表情のまま、しかし胸の奥で叫んでいた。
(……かわいい……! なんだこの小動物……! 抱きしめたい……!)
だが、長年の経験で悟っている。
団長が感情を表に出すと、団員たちが混乱する。
そのため、アリシアは必死に平静を装っていた。
しかし、指先がほんのわずかに震えていた。
ネズミ族の参謀・リッカが横目でアリシアを見て、ため息をついた。
「……姉御、いけませんぜ」
「な、何がだ」
「見てみなさいよ、あのか弱そうな体。姉御が抱きしめでもしたら、粉々になっちまいますぜ」
「……ぐっ」
アリシアは喉の奥でうなった。
図星だった。
(……抱きしめたら折れる……! なんて儚いんだ……!)
その後ろで、幹部たちがひそひそと話していた。
「団長、あの子……男の子の服装してますけど、どう見ても可憐な女の子に見えますね」
「顔立ちが整いすぎてる。触角も小さくて……守りたくなるな」
フィンはその声を聞き、震える唇で小さく呟いた。
「……おとこ……こ……」
アリシアたちは一斉に聞き耳を立てた。
「……おとこのこ……ぼく……」
幹部たちは一瞬固まり――
「そ、そうか! やはりな! うん、少年だ! どこからどう見ても少年だ!」
「少年だな! ハハハッ!」
全員が目をそらしながら言った。
(……可憐すぎて信じられねぇ……)
(……団長が抱きしめたがるのも分かる……)
フィンは胸に抱えた耳飾りを見つめ、震える声で言った。
「……みんなを……弔ってあげたい……
このままじゃ……かわいそう……」
アリシアは目を細めた。
「弔う……?」
「これは……お父さんとお母さん……そしてリン……
みんなの形見なの……
せめて……みんなの耳飾りを集めて……お墓を作ってあげたい……」
その言葉に、傭兵団全員が息を呑んだ。
ガルドが静かに言った。
「……よく言った、団長」
その一言は、巨漢の男が絞り出した優しさだった。
アリシアは立ち上がり、団員たちに命じた。
「耳飾りを集めるぞ。
周囲を調査し、敵の痕跡も探れ。
フィンの願いを叶えるんだ」
「「「了解!!!」」」
団員たちは一斉に散っていった。
やがて、耳飾りはすべて集められた。
白い大きな布の上に、一枚一枚丁寧に並べられる。
アリシアは静かに言った。
「……始めるぞ」
団員たちは穴を掘り、布をそっと包み、土をかぶせた。
墓石代わりの大きな石を置き、全員が頭を垂れた。
フィンは墓の前に立ち、震える息を吸い込んだ。
そして、祈りを捧げた。
「お父さん……お母さん……今までありがとうございました……
リン……仲良くしてくれてありがとう……
みんな……優しくしてくれてありがとう……
何にもできない僕だけど……
みんなのことは……一生忘れません……
どうか……安らかに……神様の下で……幸せに過ごしてください……
そして……心は……悲しい時も……楽しい時も……
いつも……みんなと一緒です……」
その祈りは、
あまりにも儚く、
あまりにも美しく、
あまりにも悲しかった。
団員たちは皆、涙をこらえきれなかった。
「……こんな子が……こんな目に……」
「神様……あんまりだろ……」
アリシアは無表情のまま、しかし目の奥が揺れていた。
(……抱きしめたい……! でも……折れる……!)
その瞬間、ハーピィ族の少女・ルミナが駆け寄り、
白く柔らかい翼でフィンを包み込んだ。
「……もう大丈夫だよ……フィン……」
フィンはその温もりに触れた瞬間、
糸が切れたように力を失い――
そのまま眠りについた。
「……眠ったか」
アリシアが呟く。
「ええ、そのようですね」
ガルドが静かに答えた。
「サンテス族は……確か“眠らぬ民”と言われていたはずですが」
「このようなことがあったのだ。
せめて眠りにつくいたわりがなければ……
あまりに神は無慈悲というもの」
「……たしかに。
神が……もしいれば、ですが」
アリシアは眠るフィンを見つめた。
(……守る。絶対に)
その決意は、炎のように強く、揺るぎなかった。




