【第5話】最強の傭兵団
村の跡地で、フィンは耳飾りを抱えたまま歩き続けていた。
涙はもう出なかった。
泣きすぎて、涙が枯れてしまったのだ。
焼け落ちた家々の間を、灰が舞う。
風が吹くたび、耳飾りが触れ合って小さな音を立てた。
フィンはその音だけを頼りに歩いていた。
(……どこに行けばいいの……)
答えてくれる人は、もういない。
◆ 重い足音
そのときだった。
――ドン……ドン……ドン……
地面がわずかに震えた。
重い足音が、ゆっくりと近づいてくる。
フィンは顔を上げた。
村の入口に、巨大な影が立っていた。
いや、影ではない。
人だ。
だが、その存在感は人の域を超えていた。
◆ 最強の傭兵団
村に入ってきたのは、十数名の集団だった。
全員が武装し、全員がただ者ではない雰囲気をまとっている。
その中心に――
ひときわ目立つ人物がいた。
長い金髪を後ろで束ね、鋭い目をした女性。
背中には、常識では考えられないほど巨大な大剣を背負っている。
大の男が五人がかりでも持ち上げられないというその剣を、
彼女は片手で軽々と扱っていた。
彼女こそ――
最強の傭兵団《鉄の梟》の団長、アリシア・ヴァルト。
元は某国の伯爵令嬢。
敵国の皇太子との縁組を破棄し、相手を殴り飛ばして出奔したという逸話の持ち主。
美しく、引き締まった体を持ち、
その胸元は豊かだが――
団員たちは誰一人として彼女に欲情しない。
理由は簡単だった。
ある戦闘で、アリシアが鉄の城門に体当たりした際、
胸の形に鉄がへこんだ のだ。
団員たちはそれを見て悟った。
――あれは岩だ、と。
以来、彼女の胸は“岩石級の残念おっぱい”と密かに呼ばれている。
もちろん、本人には絶対に言えない。
◆ 副団長
アリシアの隣には、巨大な獣人がいた。
ライオンのようなたてがみを持つ、筋骨隆々の男。
その体はアリシアよりもさらに大きく、まるで山のようだった。
彼の名は――
ガルド。
元帝国の奴隷剣闘士。
幼いころから戦い続け、頂点に立ってもなお解放されず、
怒りのままに飼い主の屋敷を破壊して脱走した。
逃亡中にアリシアに拾われ、
今では傭兵団唯一の“団長に意見できる男”となっている。
普段は寡黙だが、
アリシアが暴走しそうになると、唯一止められる存在だった。
◆ アリシア、村を見る
アリシアは村の惨状を見渡し、眉をひそめた。
「……ひどいな。ここまで徹底的にやるか」
ガルドが低い声で言う。
「痕跡が少なすぎる。正規軍の仕事だろう」
「だろうな。夜盗の仕業に見せかけてるが……雑だ」
アリシアは地面に落ちている耳飾りを拾い上げた。
「サンテス族か。……胸が痛むな」
その声は、意外にも優しかった。
◆ フィンとの遭遇
そのとき、ガルドが何かに気づいたように顔を上げた。
「……団長。子どもだ」
アリシアも視線を向ける。
焼け跡の影から、
小さな影がふらふらと歩いてきた。
フィンだった。
耳飾りを抱え、灰まみれの顔で、
ただ歩いていた。
アリシアはゆっくりと近づいた。
「おい、坊主。大丈夫か?」
フィンは顔を上げた。
涙の跡が乾き、
目は真っ赤に腫れていた。
「……みんな……いないの……」
その声は、かすれていた。
アリシアは息を呑んだ。
ガルドが静かに言う。
「生き残り……か」
◆ アリシアの決断
アリシアはしゃがみ込み、フィンの目線に合わせた。
「名前は?」
「……フィン……」
「そうか。フィン。よく生きてたな」
アリシアは優しく頭を撫でた。
その手は大剣を振るうとは思えないほど、温かかった。
「ここにいても、もう誰も帰ってこない。……つらいが、事実だ」
フィンは唇を噛んだ。
「……どうすれば……いいの……」
アリシアは少しだけ考え、
そして迷いなく言った。
「うちに来い。フィン」
フィンは目を見開いた。
「……え……?」
「お前は一人だ。だが、うちは違う。曲者ぞろいだが、家族みたいなもんだ」
ガルドが腕を組んで言う。
「団長が言うなら、俺も異論はない」
アリシアは微笑んだ。
「フィン。お前が望むなら、私たちが守る。……どうする?」
フィンは震える手で、胸に抱えた耳飾りをぎゅっと握った。
そして――
「……いく……」
小さな声で、そう言った。
アリシアは頷いた。
「よし。今日からお前は《鉄の梟》の一員だ」
その瞬間、
フィンの運命は大きく動き出した。




