第55話:森の再会、あるいは「戦友」の休息
ルミナの里帰りと、森の今。2メートルを超えるガーディアンとなった父ガイルと共に、平和を噛み締める旅路です。
アークスハイム伯爵邸での騒がしい見合い騒動をどうにか抜け出したフィンたちは、休息を兼ねてルミナの故郷であるエリュシオン大森林へと向かっていた。
かつては魔素に汚染され、入る者すべてを拒絶した「死の森」も、10年の歳月を経て、本来の瑞々しい生命力を取り戻している。
一行の中で一際異彩を放っていたのは、フィンの傍らを歩く巨大な鋼鉄の巨人だった。
それは、かつて魔王城でフィンたちの前に立ちふさがった「最高機密ガーディアン」そのものの姿だ。全高2メートルを超え、重厚な複合装甲に覆われたその巨躯は、歩くたびに地響きを立てる。かつては冷酷な殺戮兵器だったその腕には、今はルミナの村への土産物が入った大きな袋が下げられていた。
「お父さん、足元気をつけてね。この先の根っこ、結構滑るから」
『……フィン。……私を、……子供扱い、するな。……この、機体、の、……姿勢制御システム、を、……侮る、なかれ』
無骨な電子音。だが、その中には確かな父ガイルの矜持が混じっている。
フィンのエネルギー供給を受け、父の意識は今やこの鋼鉄の身体を、自らの肉体のように自由に操っていた。帝国の技術の結晶であったガーディアンは、今や「フィンの相棒兼父親」という、世界で最も平和な用途に使われている。
森の奥にあるルミナの村に到着すると、村人たちは驚愕と、それ以上の喜びをもって一行を迎え入れた。
「ルミナ! おかえりなさい!」
「お父さん、お母さん! ただいま!」
ルミナの両親は、魔素が薄まったこの村で健やかに暮らしていた。
ルミナが時折こうして里帰りをするたびに、村ではささやかな宴が開かれる。彼女が《鉄の梟》で、フィンやアリシアと共に世界を救ったという事実は、この村では伝説のように語り継がれていた。
「……あら、フィン君。本当に立派になって。これじゃあ、うちのルミナじゃ釣り合わないかしらねぇ」
ルミナの母親が茶目っ気たっぷりに笑うと、ルミナは顔を真っ赤にして慌てふためいた。
「ちょっと、お母さん! 余計なこと言わないでよ!」
そんな賑やかな再会を見守るように、2メートルのガーディアンは家屋の横にどっしりと腰を下ろした。
普通の村人なら腰を抜かすような異形だが、10年の月日は、この「心優しき鋼鉄の巨人」を村の守護神として受け入れさせていた。
『……ルミナの、……母親。……相変わらず、……賑やか、だ。……吉川所長、の、……奥方に、……少し、似ている』
「……お父さん、所長さんの奥さんを知ってるの?」
『……ああ。……転移の、……前。……よく、差し入れを、……持ってきて、くれた。……私の、……大切な、……記憶だ』
ガーディアンの重厚な指先が、村の子供たちが差し出した野花を、壊さないように、そっと優しく摘み取った。
かつては世界を滅ぼすための力の一部だった。けれど今、この手は子供に花を渡し、家族を守るためにある。
アリシアもまた、ドレスからいつもの軽装(もちろん、中には例のギガントレッドコブラの「封印」を施しているが、今日の彼女は何故か少しだけ締め付けを緩めていた)に戻り、村の酒を煽っていた。
「……ふぅ。やっぱり、ここの空気は落ち着くね。ねえ、フィン」
「そうだね、アリシアさん。……僕たちが1100年前に戻って、あの日あの時、みんなで頑張ったから、この景色があるんだ」
フィンは、青年らしい逞しい腕を組み、木漏れ日の差す森の空を見上げた。
確かに歴史は書き換えられた。戦争も、痛みも、失ったものも、完全に消えたわけではない。
けれど、こうして「10年後」を笑って過ごせていること。
父が、形を変えてでも隣にいてくれること。
不眠の王としての宿命は、今やこの穏やかな日常を守るための誇りへと変わっていた。
「……ねえ、フィン。もし、明日からまた世界がヤバくなったら、あんたはどうする?」
アリシアが、少しだけ真剣な瞳で問いかけてくる。
フィンは少しだけ考えて、隣に座る2メートルの鋼鉄の父と、そして愛すべき仲間たちを見て、迷いなく答えた。
「また、みんなでご飯を食べるために、全力で戦うよ。……僕たちは、《鉄の梟》なんだから」
ガーディアンパパが、同意するように重厚な駆動音を鳴らした。
エリュシオンの森に、平和な笑い声がいつまでも響き渡っていた。
2メートル級の戦闘ロボットが、お土産を持って森を歩く……。シュールですが、ガイルさんの優しさが際立つシーンになりました。
ルミナさんのご両親も健在で、かつての死の森が「家族の場所」に戻ったことが、フィンたちの勝利の証ですね。
次回、第56話。ガルドとライオン獣人たち。中止された「決勝戦」の真実と、彼が掴んだ真の自由。
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