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第53話:約束の場所、帰郷の弔い

父ガイルの埋葬。機械の身体となった父と、成長した息子が、過去の傷跡を乗り越えるための静かな弔いの刻。

10年前、帝都ヴァルガルドの地下で「生きた部品」として扱われていた父ガイルの肉体。

 歴史が書き換えられたこの世界でも、その非道な事実は消えていなかった。フィンは、帝国の民主化に伴う戦後処理の一環として、保管されていた父の遺体を引き取った。


青年となったフィンは、背後に浮かぶ小型ガーディアン――父の魂が宿るその機械と共に、懐かしきサンテス村へと向かった。


かつて地獄の炎に包まれた村は、今は穏やかな草原に飲み込まれ、名もなき花々が風に揺れている。魔素が浄化されたこの場所は、かつての凄惨な事件を忘れ去ったかのように静まり返っていた。


「……ここだね、お父さん」


フィンは、村の外れにある古びた墓標の前に立った。そこには、10年前にフィン自身が、絶望の中で作った母の墓があった。


『……フィン。……私、は、……ここに、いるのに……不思議な、気分だ』


ガーディアンのスピーカーから、父の戸惑うような電子音が漏れる。

 自分の「抜け殻」を、自分が見守る中で埋葬する。それは、理の外側に立つサンテス族にしか理解できない、奇妙で厳かな光景だった。


フィンは無言で地面を掘り、帝国の呪縛から解放された父の遺体を、母の隣へと丁寧に納めた。

 一千年の宿命に翻弄され、機械の部品にまで貶められた父の肉体。それがようやく、愛した妻の傍らという、あるべき場所へと還されたのだ。


土を被せ、一輪の花を供えたフィンが手を合わせる。

 すると、隣に浮かんでいたガーディアンが、金属の脚を折り曲げるようにして、墓標の前に降り立った。


『……すまなかった、二人とも。……長く、待たせたな』


その言葉には、ただのノイズではない、生身の人間としての震えがあった。

 父ガイルにも、あの時の記憶は鮮明に残っていたのだ。

 意識を剥ぎ取られ、冷たい演算の海に沈められながらも、遠くで泣いているフィンの声を聞いていたこと。自分を助けに来てくれた仲間の温もり。そして、過去を書き換えるためにすべてを背負った息子の覚悟。


「お父さん。……もう、いいんだよ。お父さんの身体は、今度こそ自由になったんだから」


『……ああ。……ありがとう、フィン。……立派に、なったな』


ガーディアンのカメラアイが、優しく点滅する。

 かつての「凶悪な防衛兵器」の面影は、そこには微塵もなかった。

 母の墓に寄り添うように座るその機械の姿は、この村に生きた、一人の実直な魔道具師そのものだった。


フィンは立ち上がり、静かに村の全景を見渡した。

 この世界では、リンも、他の村人たちも、確かに一度は死んでいる。

 けれど、フィンの胸の核融合炉が刻む鼓動は、彼らの命を無駄にしないための「新しい未来」を照らしていた。


「――おーい! フィン! 湿っぽい顔はそこまでだよ!」


丘の向こうから、アリシアとガルド、そしてルミナたちが手を振りながら走ってくる。

 彼らはフィンが一人で悲しみに暮れないよう、宴の準備を整えて追いかけてきたのだ。


「お父さん、行こう。みんなが待ってる」


『……ふむ。……アリシアの、酒は、……相変わらず、……激しそうだ』


カチャカチャと音を立てて浮上する父。

 フィンは、かつての不眠の王ではなく、愛する家族に囲まれた一人の青年として、夕日に照らされた草原を歩き出した。

「自分の肉体を自分で埋葬する」という、切なくもサンテス族らしいシーンでした。ガイルさんの中に記憶がしっかり残っているからこそ、母の墓前で見せた電子の涙が胸を打ちます。

悲しい弔いではなく、前を向くための儀式。

次回、第54話。アリシア団長、ついに本格的なお見合い攻勢に!? フィンを盾にするアリシアと、困惑する美青年フィンのドタバタ日常回!

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