表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/61

第52話:再会の傭兵団、あるいは不眠の青年の帰還

10年の歳月を経て、少年は青年へ。成長した仲間たちとの、騒がしくも温かい再会の瞬間です。

0年の歳月は、残酷なほどに、そして美しく世界を塗り替えていた。


かつて死の森と呼ばれたエリュシオン大森林。その外縁に位置する、新しい《鉄の梟》の本拠地。そこは、要塞というよりは、巨大な庭園を備えた邸宅のようだった。

 庭では、かつて幼子だった赤竜が、今は家一軒ほどの巨体となり、鼻から火花を散らしながら午睡ごすいに興じている。その横では、銀狼ハクが神々しい毛並みを風に揺らし、庭の手入れをする傭兵たちを見守っていた。


「……マスター。心拍数上昇。緊張を検知しました」

 脳内AIサンテスの声が、少しだけ弾んで聞こえた。


「10年も経ってるんだ。……みんな、僕のこと、分かるかな」


フィンは、自らの手を見つめた。

 かつての丸っこい子供の手ではない。剣を握り、技術を研鑽し、そして「歴史の修正」という重圧に耐え抜いた、18歳の青年の手だ。白銀の髪は肩まで伸び、その瞳にはかつてない理知と、少しの不安が宿っている。


背後には、浮遊型の小型ガーディアンが、カチャカチャと音を立てて付き従っている。

『フィン……心配、ない。……みんな、待って、いる』

 不器用な電子音。だが、その中には父ガイルの優しい響きが確かにあった。


フィンの足が、屋敷の重い扉の前に止まる。

 深呼吸をして、扉を押し開けた。


「――だから言っただろう! その見合い話は、屋根裏のネズミにでも食わせておけってね!」


真っ先に聞こえてきたのは、聞き覚えのある、けれど少しだけ落ち着きを増した、凛とした女性の怒鳴り声だった。


広間の中央。

 そこには、かつてのボロボロの革鎧を脱ぎ捨て、洗練された「伯爵令嬢」のドレスを纏ったアリシアがいた。腰に帯びた『エクスカリバー』だけが、彼女が今もなお《鉄の梟》の団長であることを物語っている。

 彼女の向かいでは、執事のような身なりの男が、困り果てた顔で何枚もの書状を差し出していた。


「ですがアリシア様、伯爵閣下も奥様も、今年こそはと……」


「うるさい! 私はこの傭兵団と……、いつか戻ってくる『あの子』を守るって決めてるんだよ!」


「……アリシアさん」


フィンの声に、広間の空気が凍りついた。

 アリシアが、ゆっくりと振り返る。彼女の瞳が大きく見開かれ、手に持っていた書状がパラパラと床に散らばった。


「……え? フィ……ン……?」


目の前に立つのは、自分が守っていた、あの小さくて柔らかな少年ではない。

 自分よりも背が高く、凛々しい肩幅を持ち、透き通るような美貌を湛えた一人の青年。


「……ただいま。10年も待たせて、ごめんね」


フィンが微笑んだ瞬間、部屋の奥から地響きのような足音が近づいてきた。


「なんだ、この凄まじい熱量は! フィンか! フィンが戻ったのか!」


現れたのは、黄金のたてがみを揺らす巨大なライオン獣人――ガルドだった。

 彼はかつての剣闘士時代の暗い影を微塵も感じさせない、自由で豪放磊落なオーラを放っている。政情不和で中止された伝説の決勝戦。その未練を捨て、今は傭兵団の「柱」として、一族を率いる王のような風格を漂わせていた。


「おいおい……。あのチビ助が、こんな立派な男になりやがって。……これじゃあ、俺たちの出る幕がねえな!」


ガルドが大きな掌でフィンの肩を叩く。その重みは、10年前と変わらない信頼の証だった。


「リッカもルミナも、アリアンも……みんな元気?」


「ああ。リッカは今、帝国の議会に『軍事顧問』として引っ張りだこさ。ルミナは時々、まともになった森の里に帰っちゃあ、お節介を焼いてるよ。アリアンは……まあ、彼女は相変わらず所長の娘として、ここの地下の設備をいじってるさ」


アリシアが、ようやく我に返ったように歩み寄ってきた。

 彼女はフィンの顔をじっと見上げ、それから少しだけ顔を赤らめて、プイと横を向いた。


「……ちっ。生意気にイケメンになりやがって。これじゃあ、お見合いを断る理由に『あの子を育てなきゃいけないから』って言い訳が使えないじゃないか」


「え? アリシアさん、何か言った?」


「何でもないよ! ほら、さっさと入んな! 今日は宴会だ! 虎獣人の連中も呼んで、朝まで踊り明かすよ!」


フィンの隣で、父のガーディアンが『……アリシア……相変わらず、うるさい』と電子音を鳴らした。

「お父さん、それは言っちゃダメだよ」

 フィンは苦笑いしながら、懐かしい温もりに満ちた家の中へと招き入れられた。


書き換えられた世界。

 確かに傷跡はあるけれど、ここには「明日」を笑い合える家族がいる。

 不眠の王の、新しい物語が、ここから静かに動き出した。

美青年になったフィンと、伯爵令嬢ドレスなのに中身が変わらないアリシアさんのやり取り、楽しんでいただけましたか?

そしてガルドさんもライオン獣人としての王者の風格を漂わせ、平和な傭兵団の姿が描けました。

次回、第53話。父の魂が宿るガーディアンと、フィンの「新しい仕事」。

そして帝国の議会で活躍するリッカとの再会です!

応援の【評価】と【ブックマーク】をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ