第46話:神の領域、時の奔流を超えて
時空を超えた、魂のダイブ。たどり着いたのは、絶望が始まる直前の「過去」。フィンと創造主たちの、邂逅の時です。
魔王城の最深部、炉心の心臓部が黄金色の光に包まれる。
クサナギの放った高周波ブレードが空を裂き、百体のガーディアンが一斉に跳躍する――そのすべてが、フィンの瞳が「虚無の白」に染まった瞬間に静止した。
「――ライブ・リンク、全回路接続完了。マスター、全リソースを『因果律演算』へ移行します。……耐えてください」
脳内に響くサンテスの声は、もはや無機質なAIのものではなく、必死に主人の魂を繋ぎ止めようとする悲鳴に近いものだった。
フィンの背中には、アリシア、ガルド、リッカ、ルミナ、ギバザ、そしてアリアンの手が重なっている。彼らの指先から、熱い、焼けるような「生命の脈動」がフィンの胸の核融合炉へと流れ込んでくる。
「あああああぁぁぁっ!!」
フィンの叫びと共に、停止していた世界が「逆転」を始めた。
爆散した防壁の破片が空へ戻り、吹き出した蒸気がパイプへと吸い込まれていく。だが、これは単なる時間の巻き戻しではない。一千年の時を遡る、神の領域への挑戦だ。
周囲の景色が砂のように崩れ、極彩色の光の帯がフィンの肉体を削り取ろうと襲いかかる。
「フィン、離すんじゃないよ! あんたを一人で消させやしない!」
アリシアの絶叫が聞こえる。彼女の肉体の一部が、時空の圧力に耐えきれず、光の粒子となって剥がれ落ちていく。ガルドの巨躯も、リッカの冷徹な表情も、皆が「すりつぶされる」という言葉通りの激痛に耐えながら、フィンの演算ユニットの一部として己の存在を捧げていた。
一千年、五百年、三百年……。
因果の激流の中で、フィンは見た。
魔素に呑まれながら「すまない、真理子」と泣き崩れる吉川所長の姿。
必死に一族の血を繋ぎ、「いつか来るあの子を待て」と遺言を遺す初代皇帝カインの姿。
そして、暗い研究所の隅で、自分の心臓となる「生体核融合炉」の設計図を血の涙を流しながら描き上げた、佐野宏樹の背中。
「……みんな、繋がっていたんだ。僕を……ここまで連れてくるために」
光が臨界点に達する。
突如、激しい衝撃と共にフィンの意識が真っ白な空間に放り出された。
気がつくと、フィンは冷たいコンクリートの床に倒れていた。
鼻を突くのは魔素の匂いではなく、清潔な消毒液と、稼働を始めたばかりの機械の油の匂い。
「……おい。大丈夫か、君」
頭上から降ってきたのは、聞き覚えのある、けれどずっと若々しい声だった。
フィンが顔を上げると、そこには白衣を纏い、困惑した表情でこちらを覗き込む一人の男がいた。
若き日の、吉川所長。
「え……所長? ここは……」
「ここは第一原子力発電所、中央管制室だが……。君、その格好はなんだ? それに、背後の人たちは……」
吉川の視線の先には、同じように床に倒れ込み、激しく喘ぐアリシアたちの姿があった。彼らの装備はボロボロに焼け焦げ、生命連結の反動で意識を失いかけている。
管制室の窓の外。そこには、エリュシオン大森林に呑まれる前の、転移直後の荒野が広がっていた。空はまだ紫に染まっておらず、空気も汚れていない。
そして、コンソールの前では、一人の青年が驚愕に目を見開いて立ち尽くしていた。
「……サンテス。ログを確認しろ。……ありえない。外部からの侵入形跡なし。なのに、エネルギー計が振り切れている。君たちは……どこから来た?」
眼鏡を直し、鋭い視線を向けてくるその青年――佐野宏樹。
1100年前の、まだ「神」になる前の、ただの技術者としての彼がそこにいた。
「佐野さん……。吉川所長……」
フィンは、血の混じった涙を流しながら笑った。
自分を創り、自分に未来を託し、自分を千年待った「親」たちが、目の前にいる。
「……未来を、変えに来ました。みんなで……生きて、家に帰るために」
フィンの胸の核融合炉が、かつてないほど穏やかに、暖炉の火のように優しく拍動した。
1100年前、すべての悲劇が始まる「あの日」。
運命という名の巨大な歯車を、今度こそ逆回転させるための戦いが、今始まった。
アリシアさんたちが身を挺してフィンを守り抜くシーン、胸が熱くなりました。そして目の前に現れた若き日の吉川所長と佐野宏樹。彼らにとっては「今」起きている出来事ですが、フィンにとっては千年の旅の終着点です。
次回、第47話。草薙の介入、そして過去と未来が混ざり合う廃炉作戦が始まります!
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