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第32話:厨房の再会と、微笑みの破壊力

懐かしい再会と、新しい家族の絆。そして、従魔たちの「笑顔」が引き起こす未曾有の惨劇(?)。

領主との謁見を終えたフィンが次に向かったのは、城内の一画にある巨大な調理場だった。

 扉を開けた瞬間、懐かしい出汁の香りと、慌ただしく立ち働く人々の熱気がフィンの鼻をくすぐる。


「……あ、あの。失礼します」


その小さな声に、巨大な寸胴鍋をかき混ぜていた白衣の巨漢が動きを止めた。振り返ったのは、アークスハイムの胃袋を支える総料理長、ボルドだ。かつてフィンの父・ガイルと共に、新開発の魔道冷蔵庫をこの場所へ設置した時、誰よりも熱く技術を語り合った男。


「……フィン? フィンじゃないか!」


ボルドの目から、大粒の涙が溢れ出した。彼は汚れたエプロンも気にせず駆け寄り、フィンをその太い腕で力いっぱい抱きしめた。


「生きていてくれたのか……! サンテス族の村が、帝国に襲われたと聞いて……夜も眠れんかった。ガイルの旦那はどうした? ……そうか、そうだったのか……。すまねえ、辛いことを思い出させたな」


ボルドの号泣に誘われるように、かつてフィンを「耳の生えたガキ」と差別していた若い衆や給仕のメイドたちも集まってくる。彼らは帝国のあまりに非道な行いを知り、かつての自分たちの無知を恥じ、涙ながらにフィンに謝罪した。


「フィン、これを受け取ってくれ! お前の大好物だった特製パイだ!」

「こっちのスープも飲んで! 元気になるから!」


騒がしくも温かな歓迎の中、フィンはサンテスを通じて構築した『新型魔道冷蔵庫』をその場に展開した。

 領主の執務室にあるものと同じ、太陽光と魔石のハイブリッド式。その洗練されたフォルムと、触れただけで伝わる次元の違う「冷気」に、職人たちは涙を拭うのも忘れて驚愕した。


「……相変わらず神業だな。だが、フィン」


ボルドが、フィンの後ろに控える《鉄の梟》の面々を、鋭い眼差しで見つめた。


「……傭兵団の皆さん、あんたたちがフィンの恩人であり、味方なのは分かっている。だがな、こんな幼い子が血生臭い戦場に身を置くなんて、俺はどうしても納得いかねえ。この子は、包丁より重いものを持つべきじゃない。……フィンは、俺がこの厨房で引き取りたい。命に代えても、平和な暮らしをさせてやる」


料理長の提言に、アリシアたちは沈黙した。

 確かに一理ある。自分たちは戦場を渡り歩く死神だ。いくらフィンにチート級の力があるとはいえ、精神はまだ幼い子供。敵は帝国とアイゼン。平穏な暮らしを提案するのが、大人としての正解かもしれない。


「……フィン、あんたはどうしたい?」


アリシアが、少しだけ寂しげに、けれど彼の意志を尊重する瞳で問いかけた。

 フィンはボルドの手を優しく握り、そしてアリシアたちを振り返った。


「ボルドさん、ありがとうございます。でも……僕は、みんなと一緒に行きます」


フィンの言葉は、迷いがなかった。


「村を焼かれて、一人ぼっちになった僕を救ってくれたのはアリシアさんたちでした。一緒にご飯を食べて、一緒に歩いて……いつの間にか、皆さんは僕の『新しい家族』になったんです。守られるだけじゃなくて、僕も、僕の大切な家族を守りたい」


その告白に、アリシアは顔を背け、ガルドは照れくさそうに盾を磨き、リッカは静かに眼鏡を拭った。ボルドも、フィンの決然とした瞳を見て、ようやく「分かったよ……」と力強く頷いた。


「よし! 決まりだ! おい野郎共、フィンとその家族に最高のご馳走を振る舞うぞ! メイドたち、給仕の準備だ!」


一気に明るくなる厨房。メイドたちは、フィンの足元にいるハクと、肩に乗った赤竜の幼子に目を輝かせた。

 フィンが「美味しいですね」と微笑みながら、ハクの方を振り返る。すると、学習能力の高いハクと赤竜が、フィンの仕草を鏡のように真似した。


「きゃあああ! 可愛い! 首を傾げる仕草がたまらないわ!」

「見て、あの小さな前足! メロメロになっちゃう!」


メイドたちが黄色い悲鳴を上げる。しかし、フィンがデザートの甘さに、心からの満面の笑みを浮かべた時だった。


「ハクも、美味しい?」


フィンがハクたちに微笑むと、従魔たちも「お父さんの真似」をして、最大級の笑顔を返した。

 だが、彼らは最強の魔物の末裔である。

 ハクは剥き出しの牙を見せつけ、瞳を捕食者の赤に染めて「ギュギギ……」と喉を鳴らし、赤竜は口角を裂けんばかりに広げ、喉の奥から小さな火炎を漏らしながら笑った。


「「「「…………ひぃっ!?」」」」


さっきまでメロメロだったメイドたちが、一瞬で顔を真っ青にして数メートル後退する。


「あ、あれ……? 二人とも、どうしたの?」


フィンだけが首を傾げ、背後で本能的な恐怖を撒き散らす「笑顔の凶悪な怪物たち」に気づかないまま、平和な厨房に戦慄の沈黙が流れるのだった。

フィンくんの笑顔は天使なのに、それを真似したハクたちの笑顔は完全に「今から捕食します」のサインでしたね……。

次回、アークスハイムの経済制裁が発動! 帝国の食卓が修羅場と化します。

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