第31話:憤怒の城塞、再臨の灯火
ゴールデンウィーク期間も頑張ったのですが、あまりPVも上がらず、この作品へのモチベーションが下がり気味で投稿に間が空いてしまいました。これからが盛り上がる所なにで、最後まで書こうと思います。
アークスハイムに到着。領主の抱える驚愕と怒りが、反撃の火蓋を切ります。
エリュシオン大森林を抜け、幾多の死線を越えた一行の前に、重厚な石造りの城壁が姿を現した。貿易立国、城塞都市アークスハイム。
かつて父ガイルと共に訪れた際、活気に満ちていたはずの正門は、今や厳戒態勢の下で沈黙している。
「……フィン。もしもの時は、私たちが無理やりにでも道を作る。安心しな」
アリシアが、新調された『光子駆動剣・エクスカリバー』の柄に手をかけ、低く囁いた。フィンは小さく頷き、胸元のハクと、肩に乗った赤竜の幼子をそっと撫でる。
一行が門へ近づくと、数機のドローンと重武装の衛兵が立ち塞がった。だが、フィンの顔と《鉄の梟》の紋章を確認するや否や、現場の指揮官は驚愕に目を見開いた。
「――っ、まさか、《鉄の梟》か! それに、その子は……。すぐに領主閣下へ繋げ! 最優先だ!」
疑念を抱く暇もなかった。一行はそのまま厳重な警護に囲まれ、都市の中枢である「アークスの塔」へと導かれた。
領主執務室。そこにいたのは、以前よりも数段やつれ、けれどその瞳に凍てつくような怒りを宿した初老の男、アークスハイム領主・ヘンドリックだった。
「……よくぞ、よくぞ生きていてくれた、フィン。サンテス族の生き残りがいたこと、それだけで私は、この都市の主として救われる思いだ」
ヘンドリックは椅子から立ち上がり、フィンの肩を震える手で掴んだ。
「閣下……僕たちの村がどうなったか、ご存知なのですか?」
フィンの問いに、ヘンドリックは苦渋に満ちた表情で頷き、数枚の報告書を机に叩きつけた。
「調査は済んでいる。自治区とはいえ、我が領内に軍を差し向け、無辜の民を虐殺したのはヴァルガルド帝国の『騎士団』だ。これは明白な主権侵害であり、宣戦布告に等しい野蛮な戦争行為だ。私は……決して奴らを許さん」
領主の怒りは、それだけでは止まらなかった。フィンは、さらに「都市アイゼン」が帝国側に付いた事実を伝えた。その瞬間、ヘンドリックの顔貌が劇的に歪んだ。
「……なっ!? アイゼンが……あのクサナギが、帝国に屈しただと……!?」
ヘンドリックの目玉が零れ落ちんばかりに見開かれ、顔中の血管が浮き上がる。顎は外れたかのようにガクガクと震え、手にした羊皮紙を無意識に引き千切るその形相は、もはや恐怖を通り越して鬼気迫るものがあった。
「あ、ありえん! ありえんぞ! 小国家連合の同盟規約は絶対だ! 軍事の中枢を担うべきアイゼンが裏切るなど……それは連合の心臓を、自ら抉り出すも同然ではないかぁぁッ!!」
絶叫に近い慟哭。領主のその「顔芸」とも呼べるほどの凄まじい驚愕の表情が、事態の絶望的な深刻さを物語っていた。だが、彼はそこから無理やりに理性を引き戻し、自身の顔を両手で叩いた。
「……ふぅ、ふぅ。軍事力ではアイゼンに分がある。だが、経済においてはこのアークスハイムこそが大陸の心臓だ。大陸の流通の七割を握る我が国の力を、帝国と裏切り者のアイゼンに思い知らせてやる。……全加盟国に対し、両国への全面的な経済制裁を呼びかける。物資一つ、魔石一つ、奴らの手には渡さん」
そして、領主はアリシアたちに向き直った。
「軍事の要を失った我が国にとって、少数規模でアイゼンの最新兵器を退けた《鉄の梟》の名は希望そのものだ。アリシア団長、改めて依頼したい。アークスハイムの軍事顧問、そして特権部隊として、我々に力を貸してくれないか」
「……断る理由なんて、どこにもないね」
アリシアが不敵に笑い、フィンの顔を見た。フィンもまた、静かに頷く。
ひとまずの合意が成された後、ヘンドリックが少しだけ表情を緩め、執務室の隅を指差した。
「ところで、フィン。……これを見てくれ」
そこにあったのは、かつて父ガイルが丹精込めて作り上げ、厨房に納品したはずの「魔道冷蔵庫」だった。
「……え、これ、厨房にあったはずじゃ」
「あまりの性能に、私が独占したくなってな。執務室へ移動させたのだ。おかげで冷えた酒がいつでも飲める」
領主の茶目っ気のある言葉に、フィンは少しだけ心が温かくなるのを感じた。父の遺した作品が、こうして今も誰かに愛されている。
「それなら、閣下。最新のものに作り直させてください」
フィンはサンテスと同期し、空間から取り出したパーツを瞬く間に組み上げていく。
太陽光からエネルギーを吸収する高効率パネルと、魔石の波動を動力に変換するハイブリッド式。理論上のエネルギー減衰を極限まで抑えた『半永久機関・零式魔道冷蔵庫』。
「……フィン、君は本当に、ガイルの息子だ。いや、それ以上の怪物だよ」
完成した最新機を前に、ヘンドリックは驚嘆し、そして改めて誓った。
この天才的な少年を、そして彼の故郷を奪った者たちに、相応の報いを受けさせることを。
領主さまの驚愕っぷり、伝わりましたでしょうか? アイゼンの裏切りはそれほどまでにこの世界を揺るがす出来事だったのです。
次回、いよいよ懐かしの厨房へ。そこで待っていたのは、涙と怒りの再会でした。
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