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第27話:ドラゴンの誕生、勘違いの赤面

深夜、フィンは己の内に眠る声と対話します。そして、ついに新しい命が産声を上げます。

深夜の静寂が村を包む中、フィンは一人、ドラゴンの卵を安置した防壁近くの小屋にいた。

不眠の種族であるサンテス族にとって、夜は思索と孤独の時間だ。フィンは膝の上で丸まって眠るハクの銀色の毛を撫でながら、意識を内側へと沈めていった。


(……サンテス。聞こえる?)


脳内に、馴染み深い、けれど実体のない電子の声が響く。


『はい、マスター。何をお望みですか』


(君はどうして、僕を助けてくれるの? ……思い返せば、あの村が焼かれた日、初めて眠りの中で君に会ってから、ずっと不思議だったんだ)


フィンの意識の海に、断片的な記憶が浮かび上がる。

夢の中で見た、巨大な円筒形の装置が並ぶ施設。そこには、白衣を着て複雑な機械を操作する一人の男の姿があった。――佐野宏樹。彼はフィンを優しく見つめ、何かを託すように微笑んでいた。


(あの人は、誰? 君に僕を守れって言ったのは、あの人なの?)


『……マスター。私の使命は、いずれ訪れる「世界の改変」と、それに伴う「救済」のために貴方を守り抜くことにあります。佐野宏樹氏より託された最優先プログラムです』


(改変……救済……。それは、帝国の言っていることと同じなの? 僕の一族が消された理由と関係があるの?)


『……回答不能。該当データは現在、高次セキュリティによってロックされています。現段階の貴方の精神的、肉体的負荷を考慮し、禁則事項として処理されました。解放には、特定の条件を満たす必要があります』


冷徹なまでのシステムメッセージ。だが、フィンにはその無機質な声の奥に、微かな「慈しみ」が含まれているような気がした。


(わかったよ。今はまだ、僕が弱いからだね……)


思考を打ち切った時、目の前の卵が大きく震えた。


「――っ! 生まれる……!」


卵の殻にひびが入り、中から熱を帯びた魔力が溢れ出す。フィンは夢中になって卵に歩み寄った。サンテスの解析によれば、この孵化には膨大な魔力の安定供給が必要だ。


「頑張れ……あと少しだよ、お願い……っ、出てきて……!」


フィンは卵に両手を添え、必死に『マナ』を注ぎ込む。孵化を助けるための魔力同調は、肉体的にも精神的にも大きな負担を強いる。フィンの呼吸は荒くなり、その唇からは、必死さのあまりに艶めいた吐息が漏れた。


「あ……く、うぅ……お願い、負けないで……っ! ああ、もうすぐ……もうすぐだから……!」


その頃、小屋の外では。

異変を察知して駆けつけた《鉄の梟》の面々が、入り口の前で石のように固まっていた。


「……っ!?」

団長アリシアが、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。

「お、おいリッカ……中から聞こえる、あの声は……その、なんだ」

副団長のガルドが、顔を覆いながら指の隙間から中を伺おうとしている。耳まで赤くなったライオン獣人の姿は、どこか滑稽ですらあった。


「……あんななまめかしい声を出すなんて。フィンくん、実は僕たちが思っている以上に……」

リッカもまた、愛用の眼鏡を曇らせながら、悟りを開いたような顔で天を仰いだ。


「ち、違うよ! きっと魔力操作の反動だよ! でも……でも、あの声は……っ、私の心臓に悪いっ!」

アリシアが自分の胸を強く押さえ、悶絶する。最強の傭兵たちが、一人の少年の「必死な応援」の声に翻弄され、小屋の外で赤面しながら右往左往していた。


その時、小屋の中から眩い光が溢れ出し、すべてを飲み込んだ。


パキィィィン!


快い音とともに殻が弾け飛び、中から手のひらサイズの深紅のトカゲ――ドラゴンの幼体が姿を現した。


「……よかった。無事で、本当によかった……」


光が収まった部屋の中で、フィンは汗だくになりながら、生まれたばかりの小さな命を優しく抱き上げ、慈しむように微笑んでいた。小屋の外で大人たちがどんな「勘違い」で悶えていたかなど、彼は知る由もなかった。


『――確認。レッドドラゴンの孵化を完了。従魔契約……自動承認されました』


フィンの腕の中で、赤い小竜が「キュイッ!」と短く鳴いた。

……小屋の外の大人たちの反応、ひどかったですね(笑)。フィンくんはあんなに必死だったのに!

さて、無事にハク(フィンリル)に続き、新しい仲間が増えましたが、次話ではついにあの「不気味な駆動音」の正体が明らかになります。

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