第24話:伝説の遺児と、静まり返った森
森の深部でフィンが出会ったのは、自分と同じ「独りぼっち」でした。
「……なんだ、この静けさは」
副団長のガルドが、低く唸るような声を出した。
エリュシオン大森林のさらに深部。いつもなら魔物の咆哮や羽音が絶えないはずの場所が、今は死に絶えたように静まり返っている。
「フィン、私の後ろから離れるなよ。ここは……何かがおかしい」
団長のアリシアが、冗談抜きの真剣な表情で大剣の柄に手をかけた。今回の討伐には、「自分も強くなりたい」と志願したフィンも同行している。だが、周囲に漂うのは、生物の本能を逆撫でするような「無機質な死」の気配だった。
一行が木々の開けた場所に辿り着いた瞬間、その光景に息を呑んだ。
「これは……伝説の魔物、『フィンリル』か……?」
そこには、巨大な銀色の狼が横たわっていた。神話に語られる森の守護獣。それが、抵抗した形跡すらほとんどなく、腹部を「何か」によって正確に貫かれ、息絶えていた。
「クゥ……ン……」
冷え切った親の死体の影から、小さな、本当に小さな銀色の塊が這い出してきた。フィンリルの子供だ。親を失い、恐怖に震えながら、冷たくなった親の体に必死に鼻先を押し付けている。
「……生き残りがいたのか」
リッカが近づこうとしたが、子狼は鋭い牙を剥き、全身の毛を逆立てて威嚇した。その瞳には深い絶望と、世界への拒絶が宿っている。
「僕が行きます」
フィンが静かに歩み出た。
「待てフィン! 弱っているとはいえ伝説の魔物の仔だ、危ない!」
「大丈夫です。この子は、僕と同じだから……」
フィンは、かつて村が焼かれ、父を奪われ、独りきりになった時の自分を重ねていた。
彼は子狼の前に膝をつくと、ゆっくりと手を伸ばす。
「もう、怖がらなくていいよ。……君を独りにはしない」
フィンの手から、温かな『マナ』が溢れ出す。それは傷を癒やす魔法ではなく、ただひたすらに寄り添うための柔らかな波長。量子AI「サンテス」が、子狼の乱れた精神波を解析し、フィンを通じて最も安らぐ周波数を送り届けていた。
「クゥ……?」
子狼の警戒が、ふっと解けた。
自分に向けられたのが「獲物を見る目」でも「利用する目」でもなく、ただ純粋な「共鳴」であることを理解したのだ。子狼は恐るおそるフィンの指先を舐め、やがてその胸に飛び込んで顔を埋めた。
『――対象との精神結合を確認。従魔契約を承認しますか?』
脳内に響くサンテスの声に、フィンは心の中で頷いた。
しかし、再会を喜ぶ暇はなかった。
ガルドがフィンリルの死体を検分し、顔を強張らせる。
「姉御、見てくれ。この傷口……魔物の爪や牙じゃない。……熱線で焼かれたような、極めて滑らかな断面だ。それにこの金属片……見たこともねえ材質だぜ」
アリシアがその破片を手に取り、忌々しそうに北の空を睨んだ。
「フィンリルを子供も守れねえほど一撃で仕留める『何か』が、この先にいやがる。……野郎共、一度撤退だ! フィンとこのチビを連れて、村へ戻るぞ!」
一行は、背後に忍び寄る「未知の脅威」の視線を感じながら、急ぎ森を後にした。
新しい家族(?)が増えましたね!でも、フィンリルを倒した相手は一体……。
次回、子狼とのほのぼの生活。フィンの可愛さが爆発します!
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