第23話:神業の幼女、慈愛の奇跡
村での休息。しかし、フィンの力は隠しきれるものではありませんでした。
……よし、これで大丈夫ですよ。おじいさん、ゆっくり動かしてみてください」
フィンの小さな手が、老人のどす黒く腫れ上がった足首から離れる。
《鉄の梟》が滞在する村の広場。そこには、杖を突き、顔を歪めていた老人・トマスが呆然と立ち尽くしていた。
「あ……ああ……?」
トマスは恐るおそる足を地につける。数年前、魔物の襲撃から逃げる際に挫き、以来「一生治らない」と村の医者に匙を投げられていた古傷だ。それが今、フィンの『双極駆動』による細胞活性と魔素の分解によって、痛みはおろか、重だるさすら消え去っていた。
「痛くない……痛くないぞ! 走れる、わしはまた自分の足で畑に行けるんだ!」
トマスは杖を放り出すと、子供のようにその場で足踏みをし、やがてボロボロと涙をこぼしながらフィンの前に跪いた。
「フィン様……あんたは神様だ。わしらのような見捨てられた開拓民に、こんな慈悲を……。この足は、あんたに拾ってもらった命だ。一生、この恩は忘れませぬ」
「様なんて、やめてください。僕はただ、皆さんに美味しい野菜を分けてもらったお礼をしただけですから」
フィンは困ったように微笑む。その笑顔はあまりに無垢で、けれどどこか寂しげだった。
その後もフィンの「神業」は続いた。
村を囲む頼りない柵を、土の原子構造を組み替えることで一晩にして岩石並みの硬度を持つ「防壁」へと変貌させ、さらには魔素に汚染されて痩せ細っていた土壌を、現代科学の窒素固定の概念を応用した魔法で肥沃な大地へと蘇らせた。
「賢いのに、なんて可愛い子なんだ……」
「まるで聖女様……いや、聖子様だわ」
村の女たちが、作業を終えてふらつくフィンに競うように果物や焼き立てのパンを差し出す。フィンがそれを両手で持ち、一生懸命に頬張るたびに、「可愛い!」という悲鳴のような歓声が上がった。
その夜、宴の喧騒から少し離れた場所で、フィンは一人、夜空を見上げていた。
胸元には、亡き幼馴染・リンの形見である耳飾りが月光を反射して光っている。
(……お父さん)
フィンの脳裏に、最期の父の姿が浮かぶ。
名匠と呼ばれた父・ガイル。村が襲撃されたあの日、自爆すら許されず、帝国の将軍ゾルザルによって無慈悲に殺害された。その遺体は、今も帝国の実験施設で「サンプル」として弄ばれている。
復讐。そして奪還。
その想いは、村人の優しさに触れれば触れるほど、鋭い棘となってフィンの胸を刺した。
その時、フィンの視界の端に、ノイズのような違和感が走る。
同期している量子AI「サンテス」が、微弱な警告信号を発した。
『――未確認の観測波形を検知。発信源、北方約40キロメートル』
「サンテス? 何か来るの?」
『……消失しました。ですが、既存の魔導文明とは異なる波形です。注意を推奨します』
フィンは北の暗闇を凝視した。そこにあるのは、エリュシオン大森林のさらに奥。
誰もいないはずの闇の中で、何かが「起動」する音が、風に乗って聞こえた気がした。
トマスさんの足が治って本当に良かったです。でも、フィンの心にある傷は、魔法でも簡単には治らないのかもしれません。
物語の裏で動き出した「影」の正体とは……?
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