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第2話 城内の調理場と市場、そして迫る影

城門をくぐると、石畳の道がまっすぐに伸びていた。


 人々の声、荷車の軋む音、香辛料の匂い――城壁外とはまるで別世界だ。


フィンは父の後ろにぴたりとつき、上着の裾をぎゅっと握った。


 背中の羽が緊張で縮こまり、イヤリングの奥で触角が小さく震える。


「大丈夫だよ、フィン。すぐ終わる」


父の声は優しい。

それだけで、少しだけ胸のざわつきが和らいだ。


案内されたのは、城内の調理場だった。


 扉を開けると、温かな湯気と香ばしい匂いが一気に押し寄せてくる。


「おお、来たか!」


たくましいひげを生やした大柄の料理長が、満面の笑みで迎えてくれた。


「フィンも一緒か。えらいぞ!」


大きな手で頭を撫でられ、フィンは思わず目を細めた。


「覚えているか、今でも小さいが、もっと小さかったころ、赤子のお前を抱いてお前のおかあさんと家族でここに来たとき一度会ってるんだぞ」


幼過ぎて覚えていないフィンはきょとんとしていると

料理長は奥から小さな包みを取り出し、フィンに渡す。


「ほれ、クッキーだ。お前のために焼いたんだぞ」


「……ありがとう、ございます」


フィンは端の椅子に座り、嬉しそうにクッキーをかじった。


 甘い味が口いっぱいに広がり、思わず触角がピクッと動く。


カシャ、カシャ……


 イヤリングが小さく鳴った。


耳の触角を隠す意味合いもある耳飾りだが幼いフィンは感情の変化で触角が動き、隠す意味合いが無くなってしまう。


気を付けるように普段から言われているのだがこの癖は治らないままだ。


その音に気づいた若い厨房の男たちが、怪訝そうにこちらを見た。


「……サンテス族かよ」


「なんで城に入れてんだ?」


「料理長、あいつら相手にしてんのかよ」


「どっかの魔物とまぐわって生まれたって話もあるしな」


「だとしたら、魔物じゃねえか」


フィンの手が止まった。


 胸がぎゅっと縮む。


 触角が震え、イヤリングがかすかに鳴った。


その瞬間――


ゴツンッ!


「いってぇ!」


料理長の拳骨が若い衆の頭に落ちた。


「バカ野郎! 口を慎め! フィンは大事な取引先の子供だ。文句があるなら俺が相手になるぞ!」


若い衆は頭を押さえながら、慌てて視線をそらした。


フィンは小さく息を吸った。


 胸の痛みが、ほんの少しだけ和らぐ。


「まったく今どきの若い奴は礼儀ってものを知りやがらねぇ、お前ら、この箱を運ぶのを手伝え!」


料理長の号令で、若い衆が黒い鉄の箱――魔道冷蔵庫を調理場に運び込む。


「料理長、これって何なんです?」


「これは冷蔵魔道庫だ。サンテス族の魔道具は全部手作りの一品ものだぞ。

市場に出したら十倍以上の値がつく」


料理長は父に代金を渡し、深く頭を下げた。


「いつも助かる。これで食材が長持ちする」


「こちらこそ、いつも良くしていただいて」


父が頭を下げると、料理長は照れくさそうに鼻を鳴らした。


若い衆が冷蔵庫のドアを開け、顔を近づけている。


「冷え冷え~~気持ちいい~」


「遊んでないで仕事しろ!」


また拳骨を食らっている。


調理場を出ると、父がフィンに言った。


「さあ、市場に行くか」


「うん!」


フィンの触角が嬉しさでピクピク動き、イヤリングが小さく鳴った。


市場は活気に満ちていた。


 色とりどりの布、香辛料、果物、アクセサリーにフィンの目はきらきらと輝いた。


「リンに似合うエプロン、どれがいいかな……」


布屋の店主が笑顔で声をかける。


「おや、かわいい子だね。妹に買っていくのかい?」


「えっと……友達に……」


フィンは頬を赤らめ、触角がピクッと動いた。


 イヤリングがカチャリと鳴る。


「この白いのなんてどうだい? 刺繍も入ってるよ」


「これ……かわいい……」


フィンは迷わずそれを選んだ。


 さらに、こっそりとリンに似合いそうなペンダントも買った。


(これ、喜んでくれるかな……)



そのころ。


 サンテス族の村を一望できる、遠く離れた丘の上。


鎧を着た大規模な軍勢が、村を見下ろしていた。


風が吹き、旗が揺れる。


 兵士たちは無言で、ただ村を見つめている。


「……目標はあの村だ」


指揮官の低い声が、冷たく響いた。


「殲滅せよ」


その言葉は、風に乗って静かに消えていった。


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