第11話:聖女の微笑み、魔族の舌 ― 魔法使いマリアン
◆1 夜明けの光と、白いローブの影
夜が明け始め、森の端に淡い光が差し込む。
焚き火は小さくなり、団員たちが少しずつ動き始める。
その中で――
ひときわ異質な存在が、静かに祈るように手を組んでいた。
白いローブ。
金糸の刺繍。
清らかな雰囲気をまとい、
まるで神殿の聖女のような佇まい。
だが、その正体は――
魔族の魔法使い、マリアン。
彼女は焚き火のそばに座り、
眠るフィンの額にそっと手をかざした。
「……大丈夫。
あなたの心は、まだ壊れていないわ」
その声は、
聖女のように優しく、
魔族とは思えないほど温かかった。
◆2 マリアンの“神聖魔法” ― 魔族なのに癒し手
マリアンは魔族でありながら、
神聖魔法を扱う。
これは本来、魔族には絶対に使えない魔法だ。
だが、マリアンは平然と使う。
傷を癒し、
毒を浄化し、
疲労を取り除き、
心の痛みさえ和らげる。
団員たちは最初、
彼女を“聖女”と呼んだ。
しかし――
それだけではなかった。
◆3 全属性魔法の使い手 ― “魔法の化け物”
マリアンは神聖魔法だけでなく、
すべての魔法属性を扱う。
火。
水。
風。
土。
雷。
重力。
精神。
闇。
光。
その全てを、
“最高位”で使う。
戦場では――
● 火球魔法
地上に太陽が落ちたかと思うほどの巨大火球を放つ。
● 重力魔法
敵部隊をまとめて押し潰す。
● 水性魔法
複数の敵を水球に閉じ込め、動きを封じる。
● 風魔法
敵の矢を全て吹き飛ばす。
● 土魔法
地面を隆起させ、敵陣を分断する。
その力は、
魔族の中でも“異端”と呼ばれるほどだった。
◆4 微笑む聖女、蛇の舌
マリアンはいつも微笑んでいる。
穏やかで、優しく、
誰に対しても慈愛を向ける。
だが――
時々、笑ったときに見える。
蛇のように二つに割れた舌。
それは魔族の証。
その瞬間だけ、
彼女の微笑みは“聖女”ではなく、
“魔族の本性”を覗かせる。
団員たちは最初驚いたが、
今では慣れてしまった。
「マリアンさん、舌……出てますよ」
「あら、ごめんなさい。癖なの」
そんな会話が日常だ。
◆5 なぜ魔族が人間界に? ― 誰も知らない理由
マリアンは魔族の領域から出て、
人間界に来ている。
だが――
その理由を誰にも語らない。
アリシアが聞いても、
ガルドが聞いても、
リッカが探っても、
マリアンは微笑むだけ。
「理由なんて、どうでもいいでしょう?
私は今、ここにいる。それで十分よ」
その言葉の裏に、
どれほどの過去が隠れているのか――
誰も知らない。
そして、今はマリアンも知らないフィンとの深い奥底にある因果に惹かれ合っていることを
◆6 《鉄の梟》との出会い ― 魔物の群れの中で
マリアンが《鉄の梟》に入ったのは、
偶然だった。
森で魔物の群れに囲まれたアリシアたち。
数が多すぎて、さすがのガルドも苦戦していた。
その時――
森の奥から光が差した。
白いローブの少女が歩いてきた。
「みなさん、怪我はありませんか?」
次の瞬間、
魔物の群れが一斉に崩れ落ちた。
重力魔法で押し潰され、
火球で焼かれ、
水球で動きを封じられたのだ。
アリシアは目を見開いた。
「……お前、何者だ?」
「通りすがりの魔法使いです」
その笑顔は、
あまりにも無垢だった。
◆7 アリシアの勧誘 ― そして入団
戦いが終わった後、
アリシアはマリアンに言った。
「お前、強いな。
うちに来ないか?」
「え? 私が?」
「そうだ。
お前みたいな奴がいれば、百人力だ」
ガルドも頷く。
「団長の言う通りだ。
お前は……強すぎる」
リッカはひげを撫でながら言った。
「姉御、こいつ……
戦略兵器だぜ?」
マリアンは少しだけ考え、
そして微笑んだ。
「……いいですよ。
あなたたち、面白そうですから」
こうして、
魔族の魔法使いマリアンは
《鉄の梟》の幹部となった。
◆8 現在 ― フィンのそばで祈る聖女
マリアンはフィンの額に手を置き、
静かに魔力を流し込む。
「……大丈夫。
あなたの心は、まだ折れていないわ」
その声は、
まるで母のように優しかった。
アリシアが近づく。
「マリアン、どうだ?」
「心は深く傷ついているけれど……
壊れてはいません。
この子は強い子です」
ガルドが腕を組む。
「そうか……よかった」
リッカがひげを撫でる。
「やっぱり、あの子……
ただのガキじゃねぇな」
マリアンは微笑んだ。
「ええ。
あの子には……
“風が集まっている”」
「風?」
「運命の風よ。
あの子は、きっと――
世界を変える」
その言葉に、
アリシアもガルドもリッカも黙った。
焚き火の炎が揺れ、
フィンの寝息が静かに響く。
そして――
夜明けの光が、
新しい一日を照らし始めた。




