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第12話:鉄の梟の心臓 ― ダウアとマダル、そして特攻隊長ギバザ

 夜明け前の森に、獣の気配が走る

まだ深い夜の闇の中に沈んでいた。

 焚き火はほとんど消えかけ、

 団員たちは見張り以外、皆眠っている。


その静寂の中で――

 ひとつだけ、異様な存在感を放つ影があった。


オオカミ獣人、ギバザ。


鋭い耳が風を裂き、

 灰色の毛並みは夜明けの光を受けて銀色に輝く。

 その体はしなやかで、無駄な肉が一切ない。

 まるで“戦うためだけに生まれた獣”のようだった。


ギバザは特攻隊長。

 敵陣に最初に飛び込み、

 敵が気づく前に戦線を切り裂く。


その戦いぶりは――

 まるで嵐。


突撃すれば、敵陣は一瞬で崩壊し、

 跳躍すれば、敵の頭上に影が落ち、

 爪が閃けば、鉄兜が紙のように裂ける。


彼が走れば、

 風が吠える。


彼が吠えれば、

 敵が震える。

彼の兄弟含め率いる団員は50名、兄弟と言っても母であるバウアが拾ってきた養子が大半である。


それが《鉄の梟》の特攻隊長、ギバザだった。


だが今は、

 焚き火のそばで眠るフィンをじっと見つめていた。


(……なんだ、この気配……嫌な感じとは違うが)


ギバザの獣の本能が、フィンの周囲に漂う“異質な気配”を感じ取っていた。


ダウアとマダル ― 城塞国家の片隅で生まれた恋


ギバザがまだ生まれていなかった頃。


 ある城塞国家の兵舎には、いつも温かい匂いが漂っていた。


スープの香り、焼きたてのパンの匂い、


 そして、明るい笑い声。


その中心にいたのが――犬獣人の女性 ダウア。


彼女は兵舎の食堂で働き、

 兵士たちの胃袋と心を支えていた。


「ダウア、今日のスープ最高だ!」


「ありがとうね」


気立ては良くて、優しくて、

 誰からも愛される存在だった。


その食堂の隅に、

 いつも静かに座っている男がいた。


大柄で、無口で、

 どこか不器用な門兵――

 マダル。


彼は毎日、

 ダウアの作る料理を黙々と食べていた。


だが、誰も知らなかった。


マダルは、ひとめ惚れだった。ダウアを初めてみた日電気が走った。


ただ、不器用すぎて言えなかった。


 不器用な告白 ― それでも伝わった想い

ある日の夕暮れ。

 マダルは勇気を振り絞って言った。


「……ダウア。その……」


「ん?」


「……いつもメシ……

 美味い……」


「?」


「……これからも飯を……

 作ってほしい」


ダウアは一瞬ぽかんとした後、

 大笑いした。


「はい、毎日作りますよ、いっぱい食べてください」


この鈍感なマダルにこの意味は違うと奇跡的に分かった。マダルの必死な思いがどんな斥候よりも感覚が研ぎ澄まされたのだ。


「……すまん」


「でも、嬉しいよ。

 ありがとうございます」


その瞬間、

 マダルの世界は光に包まれ、そして何かがはじけ飛んだ。恋とはバカになる事である。

「……そうじゃ……なくて…俺だけに作ってほしいんだ

い、いや、そうじゃなくて、食堂でみんなに作ってもいいんだ

いつも通り作っていいんだ

でも他の時でも作ってほしいんだ

だから、一緒になって毎日作ってほしいんだ

家で好きな人の飯を食べていたいんだ

い、いや、食べたいんだから一緒にっていう訳じゃないんだ

好きだから一緒に食べたいんだ

だからだから

結婚したいんだ

うわ~~言いたい事が何も言えない

大事なことが何も伝えられない~

なんで俺はこんなに口下手なんだ~」


頭を抱えるマダルに、俯きながらダウアは頷いた。


「は??」


「はい」


バウアはマダルの目を見て


「マダルさんが思ってる事、大事なことは全部今聞きました。全然口下手じゃありません」


「じゃ……」


「結婚の事、お受けします」


「ほ…んとに」


「はい、ここの兵舎で、いえ…私があった人の中でいちばんやさしい人に好きって言ってもらってうれしいです」


「ふわわ~~!!」


「でも、私は…獣人です」


「良いです、俺で良いならそれだけで、全然いいです、幸せです~!!」


「はい、わたしも」


それから数日で二人は結婚、いに獣人は子だくさんだ、すぐに子供が生まれた。

かわいくて、

嬉しくて

マダルは毎日が雲の上のようだった。


◆4 差別と追放 ―

ダウアに対して好意的な雰囲気はマダルとの人間との結婚という禁忌とされる行動で一変した。


兵舎では陰口が増え、

 街では嫌がらせが続いた。


ある日、

 マダルは濡れ衣を着せられた。


「獣人の女に入れ込んで、

 任務を怠ったらしいぞ」


「やっぱりな。

 あんなのと関わるからだ」


マダルは無実だった。

 だが、誰も信じなかった。


結局、

 マダルは街を追われることになった。


その時、

 ダウアは迷わず言った。


「行こう、マダル。

 あたしはあんたと一緒に行くよ」


子供が生まれてから間もなくダウアは自分でも驚いたが、肝っ玉母さんになっていた。男を引っ張る女に


なっていた。マダルも最初は驚いたが、すぐに心地良くなった。黙っていても引っ張ってくれる女性、し


かも最愛の女性、マダルに言わせれば二度おいしい、こんな幸せがあって良いのだろうかと思った。


一方バウアは結婚する前もしてからも子供が出来ても何も変わらないマダルに幸せを感じていた。


「……すまない」


「謝るんじゃないよ。

 あたしは、あんたを選んだんだ」


その言葉は、マダルの心を救った。


森での生活 ― そして“拾う”という運命

街を追われた二人は、

 森で暮らし始めた。


すでに8人の幼い子どもがいた。

 食料も少なく、

 雨風をしのぐ場所もない。


それでもダウアは笑っていた。


「大丈夫だよ。

 あたしがなんとかするさ!」


そんなある日――

 森の奥で、

 小さな影が震えていた。


オオカミ獣人の幼子。

 両親を魔物に奪われ、

 ひとりぼっちで泣いていた。


「おやまぁ……

 こんな小さな子が……」


ダウアは迷わず抱きしめた。


「大丈夫だよ。

 もう怖くないよ」


その子が――

 ギバザ だった。


 ギバザの涙 ― 初めての“家族”

ギバザは最初、

 牙をむいて抵抗した。

「ほ~ら、ほらほら、かわいいねぇ、照れちゃってさぁ」


「う……うぅ…… はなせ……!」


「怖かったねぇ……

 もう大丈夫だよ……」


ダウアの胸に顔を埋めた瞬間――

 ギバザは意地でも泣きたくないのに目に一杯のこぼれんばかりの涙が溜まる。


「……っ……

 わおぉおおおおーーーー!!」


その遠吠えは、

 森に響き渡った。


マダルはそっとギバザの頭を撫でた。


「……もう一人じゃない。」


「そうだよ。

 今日からあたしがあんたのお母さんだよ」


その瞬間、

 ギバザは家族を得た。


今でさえ、当てのないその日暮らし、生活は困窮していたがバウアの母性本能はそれらの事情で妨げられるものではないほど深く広かった。


◆7 鉄の梟との出会い ― 運命の交差


だが、森での生活は厳しかった。


食料は尽き、

 雨風は容赦なく、

 子どもたちは疲れ果てていた。


そんな時――

 アリシア率いる《鉄の梟》が通りかかった。


「……なんだ、この家族は」


アリシアは驚いた。


幼子が11人。

 大人はダウアとマダルだけ。

 しかも、さらに3人の孤児を抱えている。

清潔にしているが、着ているものは継ぎ接ぎで、ダウアとマダルには疲労の色がありありと出ていた。


(こんな大所帯でこの森の中、しかも幼子ばかり、人種も違う)


状況を一瞬で悟りアリシアは言った。


「……お前たち、うちに来ないか」


「でも……迷惑じゃ……」


「迷惑なもんか。

どういう事情で

これだけの子供たちを育てているのか知らないが、

困ってる奴を見捨てるほど、

 私は薄情じゃない」


その言葉に、気丈にしていた

 ダウアは涙を流した。


「……ありがとう……

 本当に……ありがとう……!」


こうして、

 ダウア一家は《鉄の梟》の一員となった。

正直アリシアはダウアたちを引き入れたものの、曲者ぞろいのいつも血なまぐさい戦場を駆け回る傭兵団だ。傭兵団に子どもが増えすぎて、

 アリシアは最初困惑した。


「……どうすればいいんだ、これ」


だが、この決断が正しいとすぐに分かった。


ダウアたちがいるだけで、団の生活が劇的に改善した。


食事は美味しく、

 拠点は清潔になり、

 団員の士気は上がり、

 怪我人の回復も早くなった。

そして、戦場に出て拠点に帰ると、帰りを心底喜んで迎えてくれる子供たちに歴戦の猛者が涙を目に溜め満たされて子供たちを抱き上げた。


この時、鉄の梟は家族になったと言って良い。


そして――

 獣人の成長は早い。


ギバザは2〜3年で立派な戦士になった。


さらにダウアは、

 鉄の梟という“居場所”を得たことで

 母性本能が爆発した。


孤児や捨て子を次々に拾い、

 実子13人+養子47人=総勢60人の大家族 に。


団内最大勢力である。


一方マダルは意外な才能を見せた。


門兵としての経験である。


門番兵はいわゆる税関職員と同じである。


人を見抜く目を持っていなければ、街にどんな犯罪者が入ってくるかわからない。


因みに、マダルが待ちを追い出され、門兵が変わってから、治安は一気に悪化した。他国のスパイ、盗賊、麻薬の売人、詐欺師など、検問をすり抜け荒廃していった。一部のものはそれらをマダルが防いでいたのだと知っていたが、嫌がらせをして理不尽に追い出した多くのものは、それを知らず、嘆きながら住み慣れた街を出て行った。


この観察眼が物資の買い入れに役に立った。


値段を吹っかけてくるもの、不良品を売りつけてくる者を見抜くのだ。


そしてマダルの見た目が温和で無口だ。


その性格がマダルを聴き上手にしていた。


相手は話していると気分が良くなり、聞かなくても言わなくて良い事をゲロしてしまう。


適正なレベルのものを適正な価格で買い取る。


品物の知識などなくても人を見て判断できるのだ。


そしてどんな時でも買い叩くことはしなかった。


相手が在庫を抱えるとか、普通は足元を見られるような時でも


どんなに不利でも適正な品を適正な価格で買った。


相手の事情を分かっていても適正価格で買い取り信頼を築き、マダルのネットワークは広がっていった。


そして強面の傭兵団だが、窓口は温和で誠実なマダルなので取引相手は安心するという利点もあった。


現在 ― フィンの覚醒を見たのは“団の心の母”だった


夜明け前。


いつものようにダウアは前掛けをして仁王立ち、


両手でパン!と腹を叩き


いつものように娘たちを起こし、


 朝の準備を始めていた。


ふと焚き火を見ると――


 フィンが静かに座っていた。


その全身から、

 黄金のオーラが立ち上っていた。


風が渦を巻き、

 空気が震え、

 世界が息を呑む。


「……なんなんだい……

 一体、この子に……」


ダウアは立ち尽くした。


世界を揺るがす“運命の子”の覚醒。


その瞬間を最初に見たのは――


 鉄の梟のおふくろ、ダウアだった。

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