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手のひら返し?

宜しくお願いします

「マリリカ…の夢…あっ商店街にある茶菓子店か…」


「え?ご存じですか?」


シュリーデ様が路地裏にある、こぢんまりしたカフェを知っているのも驚いたが、思わず勢いでマリリカの夢で働きたいと叫んでしまったのだが、私にカフェの店員なんて勤まるのだろうか?


まあ、表通りの〈ラクラの木〉のような男性ばかりの接客だったら緊張してしまって、お茶をぶちまけ、ケーキを飛ばしてなんてやってしまうかもだけど、マリリカの夢は女性客の比率が高そうだし、なんとかなる?かも…


「ち、茶菓子店…殿下がですか?」


私は声を震わせているプレミオルテ公爵とシュリーデ様の顔を交互に見てから、手を胸の前で組み合わせた。


「シュリーデ様から叱責や処罰という言葉も出ましたが…それの代わりにお許し頂けるなら、市井で働いてみたいのです。私からの要望はそれのみで、ララベル=ミューデ子爵令嬢の事もそのまま不問にしても構いません」


自分で口に出しておいて、これは一種の脅しだな…と内心苦笑いがおきた。私が好き勝手する為に、ララベル様のことは見逃してやる…ララベル様は私にとって都合の良い所に問題を起こしてくれた、と思ってしまう。


自分の有意義な時間を得る為に、使えるものは美貌でも権力でも人の弱みでも使ってやろうじゃないか!


私は手を組んだまま、プレミオルテ公爵とシュリーデ様を見詰めた。あくまで標的は男性二人だ。


私がジッと見詰めていると、さきにプレミオルテ公爵が折れた。


「殿下のご要望をお聞き入れすることで、ララベルやシュリーデ…そして私達の不遜をお許し下さるということですね」


そうそう!黙っててくれる代わりにこちらも不問にしますよ!


「ち…父上っそれは…殿下が市井で働いてもよいと仰るのですか!?」


シュリーデ様…噛みつかないで下さいな、そこは目を瞑って…


シュリーデ様は唸りながら、暫く難しい顔をして腕を組んでいたが


「では…外に出る場合は護衛は必ず付けること、夕刻の5時までには屋敷に戻ること…これを守って下さいますか?」


と言ってきた。


ぐぬぅ…ここで色々脅しかけても、じゃあ国王陛下に決断を委ねて…とか言い出されたら即、離縁をされて城に連れ戻されてしまう。


例え円滑に離縁をしたとしても、私がこのまま市井で生活出来るなんてことは不可能だ。


ここは申し訳ないけれど、脅しをかけつつ…条件を呑んでシュリーデ様に付かず離れずで、円満別居を押し通してもらうしかない。当初の予定では即、離縁が望ましかったけれど、一度市井の生活を覗き見てしまった後では…城に再び戻りたくない。


接客なんて私に出来るのか…正直不安しかないけれど、これを足掛かりにして…自由を手に入れるのよ!


「はいっ!それでお願いします!」


つい興奮して前のめりに返事をしてしまった。


前のめりになった時に、唖然としているプレミオルテ公爵夫人(一応義母)と目が合った。


何だか、恥ずかしくなって座り直そうとした私の耳に…


「可愛い…」


という小さい声が聞こえた。


んん?


多分…扇子で顔半分を隠しておられるプレミオルテ公爵夫人が声の主だと思うけど…?


公爵夫人は話が終わるまで扇子で顔を覆ってしまってて、目線が合うことは無かった。


そして…これで公爵家の方々は帰られるよね~と思っていたら、メイドや侍従の方々が何だか動き回っている。そして、ソファに座ってキョトンとしている私の前に新しいお茶が入れられた。


え~と誰に聞いたらいいの?


プレミオルテ公爵夫妻はそそくさと帰っちゃったのだけど、何故だかシュリーデ様()()が私の対面のソファに座って優雅にお茶を飲まれている。


あれ?シュリーデ様は帰らないの?


「シュリーデ様、本邸から取り敢えずの用意出来るものを運び入れる準備が整いました」


澄ました感じでお茶を飲んでいたシュリーデ様の側に侍従の方が静かにやって来て、気になるワードを囁いている。


本邸から運び入れる?何を入れるの?


怪訝な顔をしている私に気が付いたのか、シュリーデ様は何故かドヤ顔を見せてきた。


「今日から、私もこちらに住みますので」


「はぁ!?……失礼」


いきなり何を言い出すのよ?今更手のひら返し?


「……」


まあいいや…最初から無視されるのは想定内だし、今更近付いて来ることはないでしょ?多分、別居状態が外にバレたくないから、急いで越して来て体裁を整えておこうってことだろうし。


「そうですか…」


気の利いたことも言えないので、こんな返ししか出来なかった。


シュリーデ様は、怒っているのか…それとも呆れているのか、半眼で私を見てくる。


な、なによ?根暗で陰キャだけど、いざとなった…いざとなったらっ…逃げるけど、二十歳の小僧には負けないからね!


「本日より宜しくお願いします」


「…お願いします」


シュリーデ様のキラキラした微笑みに負けて、頷いてしまった。何だか最近、陽キャの方々からの圧に屈することが多い気がするけど…


その日の夜は、本邸から大急ぎでやって来たコックが夕食を作ってくれた。


公爵家に来て初めてのまともなディナーだった。


ただ、シュリーデ様とのふたりきりなので、滅茶苦茶緊張するけれど…ルベスとジョナ夫妻と三人でコロッケ食べてた昨日が懐かしい…


行き詰まる夕食を終えて、部屋に移動しようとすると私の後をメイドが二人ついて来ている。


私が立ち止まり振り向くと、メイド二人も立ち止まって静かに目線を落として佇んでいる。


「あの…なにかしら?」


「本日より…ローズベルガ殿下付になりました。メイドのナフラでございます」


「同じくメイドのリサでございます」


そう自己紹介してきてメイド達のにっこりと微笑んだ顔を交互に見た。


いきなり?


おいっちょい待てよ!シュリーデ様いくらなんでも手のひら返しがひどくない!?


…とは声に出しては言えなかった。


根っからの根暗でコミュ障気味なのだから、メイドにだって強く出れる訳がない。そもそももっと強く出れる性格なら、こんなところまで来てウジウジして悩んでいる訳がない。


「はい…分かりました、宜しくお願いします」


何とか笑顔を保つと、メイドの二人に微笑んで見せた。


メイドの二人は何故か目を見開き固まっていた。徹頭徹尾、表情が変わらないので分からないけど驚いているのは確かだった。


私はメイド達にお風呂を沸かしてもらい、寝所を整えてもらって…快適な環境のまま本日は眠ることが出来た。


°˖✧◝ ◜✧˖°°˖✧◝ ◜✧˖°


ローズベルガが寝台に横になったのを確認してから、メイドのナフラとリサは静かに退室して使用人の控室に飛び込んだ。そこには本邸から一緒に来ている、シュリーデ様付きのメイドの先輩、カーシャがいた。二人は先輩に会釈をしてから、控室の給湯室に入った。


ナフラが先に口を開いた。


「ねえっ見た?ローズベルガ殿下の笑顔!?」


「見た見た!綺麗だし可愛いし破壊力あるわぁ…ねえ、それにしても噂で聞いていたローズベルガ殿下とはなんだか違くない?」


「あ、それね!私も思ったわ…クローゼットの中のドレス見た?仕立てや布地は最高級のモノだと思うけど…色が地味!デザインも可愛いのに…地味!」


ナフラの言葉にリサが大きく頷き返した。


「もっと華やかな色がお似合いだと思うのに~勿体ないわ!それに宝石類が全然無いのよ?おかしくない?王女殿下なのに…」


リサがハッと顔色を変えた。


「ちょっと待って…もしかしてこちらに越して来る時に取り上げられたとか?」


「誰に?」


「……シュリーデ様に?」


リサの言葉にナフラが悲鳴を上げた。


「やだぁ!?ちょーーっと女性にモテるからってぇ…」


「これだから顔が良いことで自尊心の高い男性は嫌なのよねぇぇ」


「ゴホンゲホン……」


給湯室でシュリーデ様に対して吠えまくっていたリサとナフラは先輩メイドのカーシャの咳払いに、慌てて声を潜めた。


いけない…声が大きくなってしまったわ…と二人は目配せを同時にして、頷き合った。


「ぶっ…くしゅん!!」


シュリーデは寝室で派手にくしゃみをしていた。まさか自分が給湯室でメイド達に下げに下げられているなんて夢にも思っていなかったのだ。


°˖✧◝ ◜✧˖°°˖✧◝ ◜✧˖°


翌朝の目覚めは気持ち良かった…昨日メイドのナフラが浴槽に入れてくれた入浴剤の香りも良かったし、それに心なしか疲労感が取れている気がする。


まだ起きるには早い時間だが、ベッドから出ると窓を開けて外の空気を吸ってみた。


「…よしっ」


気合いを入れるとメイドの呼び出しベルを鳴らした。


メイドのナフラとリサは、入室してにこやかに挨拶をした後にすごい勢いで私のドレス選びを始めた。


そして、私の持っているドレスの中で比較的色の明るい布地のドレスを選ぶと、髪をハーフアップに纏めてくれた。


しかし、鏡の中から私を見詰めるナフラとリサは何だか溜め息ばかりを吐いている。どうしたんだろう?


「ローズベルガ殿下お可哀相に…」


「本当ですわ…女性なのに着飾る事も出来ないなんて…」


んん?何それ?


ナフラとリサの顔をジッと見詰めていると二人は一斉に


「宝飾品をシュリーデ様に取り上げられたのですよねっ!?」


と、叫んだ。


「なんじゃそ……失礼、それはどういうこと?」


「え?」


「え?」


私は、恥を忍んでトイレットペーパーの奥に隠してあった宝石箱を取って来た。


「ここに…持ってます…どこに置いておいたらいいのか分からなくて…ごめんなさい」


メイド二人は顔を真っ赤にした後に俯いたり、顔を手で覆ったりしてからいつものポーカーフェイスに戻していた。でもまだ耳が真っ赤だ…


「こちらこそ申し訳ございません。装飾品は魔法鍵付きの戸棚が御座いますので…こちらで保管して下さい」


そう言って案内してくれたクローゼットの奥に戸棚があった、これが魔法鍵つき戸棚か…つまり魔法鍵に私の魔力を入れて契約すると、私以外は戸棚を開けることが出来なくなるのだ。魔法鍵は無理に壊そうとすると、色々罠が発動するものがある。


ナフラが差し出してくれた鍵を見ると、結構えげつない魔法返しの術がかけてある。この鍵は強力だね。使える…よし。


私は魔法鍵に魔力を入れて鍵と契約をした。


そしてナフラに宝石箱を渡した。ナフラとリサは宝石箱を開けて喜んでいる。


「まああっ!素敵ですわ…実は昨日、お部屋に入らせて頂いた時に宝飾品の類が全然見当たらないので、てっきりシュリーデ様に没収されているのだと…」


ナフラはショボン…と項垂れていた。するとリサも同じくショボンとした顔で俯いている。


「そうですわ…うっかりとシュリーデ様に罪を擦り付けてしまいました…」


何ていうかさ~シュリーデ様の日頃の行いが悪いからぁメイド二人に有らぬ嫌疑をかけられちゃうんじゃないでしょうかね~


「ぶっ……くしゅん!」


廊下から変なクシャミの音が聞こえてきた。誰かいるんだろうか?



更新滞っておりましたが、少し時間を取れるようになりましたので、亀更新ではありますが随時UPして行きたいと思います。誤字報告もありがとうございます。

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