王女のドヤリ
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玄関ホールで義母、義父、偽?旦那との遭遇……息を詰めていると、いきなり公爵夫妻が腰を落として、私に頭を下げられた。
おまけにシュリーデ=プレミオルテ令息も膝をつかれている。
ああこれ、私が許すを言わないと頭を上げてくれない、アレだね。
「顔を上げて下さい」
声が震えてしまった。ああ、プレミオルテ公爵家の皆さんの顔が強張っている。
皆で無言のまま客間へと入った。
すると客間にはジョナ以外のメイドがいて、給仕をしていた。あれ?いつの間にか使用人が増えている。
「ローズベルガ殿下、この度のことはプレミオルテ公爵家の者として、殿下のお気持ちを察することもせず、恥ずべき行いであったと猛省しております。私共は殿下からどのような叱責、処罰も受ける所存であります。そして、ララベル=ミューデ子爵令嬢が息子の指示に従って、殿下に不敬極まりない扱いを指示したと聞き及んでおります。その点につきましても……」
「え?」
「え?」
私とシュリーデ様の声が重なった。
俯きかけていた顔を上げて、シュリーデ様を見るとシュリーデ様は顔を強張らせていた。
「私の指示って何ですか?」
シュリーデ様の言葉に公爵夫妻は怪訝な顔をして、シュリーデ様を見返している。
「何を言うんだ?お前がララベルに指示を出して、ローズベルガ殿下のお世話を命じていたメイドや近衛を引き払ってしまったんだろう?既にそれについても聞き及んでいるぞ?ララベルがお前に指示されたと言って、メイドや近衛を本邸に戻していたんだろう」
シュリーデ様は顔色を変えた後、私を見たり公爵閣下を見た。
「ちょっと待って下さい!私は父上と話し合いをした以上のことは何も指示していませんよ?現にあの時にローズベルガ殿下のお側にメイドと侍従と共に、ルベスとジョナ夫妻をつけるということで落ち着いたではありませんか?」
プレミオルテ公爵閣下は顔色を変えた。
「なんだと?じゃあどういうことなんだ、ルベス!確かにララベルがこの屋敷に来て、シュリーデの指示でと言っていたんだな?」
公爵閣下が唸るようにルベスを呼ぶと、ルベスは慌てて近付いて来られて何度も頷いている。
どういうことなんだろう?
シュリーデ様は顔を強張らせたまま、私を凝視している。
いやあの、瞳孔をガッと見開いたままこちらを見てくるのは何故ですか?
「そんな指示は出していません!」
シュリーデ様の言葉を信じるならば彼は無実だ。でも、あれれ?
「今すぐ、ララベル=ミューデ子爵令嬢を呼び出せ!私が至急に来いと言っていると伝えろ!」
シュリーデ様がそう侍従に指示を出している。
やっぱりララベル様の暴走?そうなんですか?
シュリーデ様は再び私を見て少し目を泳がせた後、座っている私の前に腰を落とした状態で素早くやって来て、小声で話しかけてきた。
「ローズベルガ殿下、昨日の早朝に本邸の前でお会いしたのを憶えていらっしゃいますか?」
ひぃぃ!?今、その話題!?
私が頷くと、シュリーデ様は小声で囁いた。
「その……おひとりで歩かれていたので、危険ではないかと思って、目的地まで送らせて頂こうかと思ってお声をかけようと思ったのです。怖がらせてしまって申し訳ありませんでした」
昨日の早朝のアレの説明をしてくれた。
え~?あれ、私を捕まえようとしたんじゃなかったの?
「あ……そ、うだったのですね。こちらこそ走って逃げたりして」
「あ……いえ、逃げられるのは賢明な判断です。私が不審者だと思ったのですよね」
そう言ってシュリーデ様は少し微笑まれた。
うわーっシュリーデ様は笑うと破壊力満点ね!さすが、モテ男ナンバーワン!
とか何とか思っていて、周りを見るといつの間にかシュリーデ様とふたりきりになっていた。
シュリーデ様は私と対面のソファに座り直して、黙っている。
勿論、陰キャ、コミュ障気味の私は自分から口を開いたりなんて出来ない。
「殿下はご存じだったでしょうか?」
不意のシュリーデ様の声に顔を上げると、シュリーデ様は真っ直ぐに私を見詰めていた。
「国王陛下が、ローズベルガ殿下の愛読書の“白銀の王と白薔薇の姫”の書籍の登場人物の白銀の王に、私の外見が似ているので、殿下と私の婚姻を薦めれば殿下が喜んで下さると思っておられたようです」
「白銀の王?あっ!」
シュリーデ様の蒼色の瞳……王の白銀色の髪が神々しく輝き、その美麗な眼差しでこちらを見詰めている。その覗く瞳の色は紺碧色、シュリーデ様と同じ色彩だ!
お父様ってばっ!!それでシュリーデ様との婚姻をやけに推していたんだ。
「私との婚姻を殿下に伝えた時、喜んでくれると思っていた殿下が暗い顔をされたのを見て、陛下は気が付かれたそうです。私の両親もこの度の婚姻の件の謝罪を受けたそうです」
謝罪……お父様は私とシュリーデ様の婚姻は失敗した、間違ったと思ったということね。
そりゃそうよね。私とシュリーデ様じゃ月とスッポン……陽キャと陰キャで真逆の性質同士だものね。
私を見詰めるシュリーデ様の表情は硬い、これは……
「そうですか……シュリーデ様には申し訳ないことを致しました。つきましては離縁についてお話を」
「離縁っ!?」
びっくりした……シュリーデ様はどうしてそんな大声を出したの?
シュリーデ様は腰を浮かせた状態で、固まっている。そこへ……
「ララベル=ミューデ子爵令嬢、来られました」
侍従の方の声がしたと同時に、バーンと扉が開いて噂の?ララベル様が満面の笑顔を浮かべて部屋に入ってきたが、私を見るなり物凄く不機嫌な顔になった。
「シュ……シュリーデ様?これはどういうことなのです?」
はあぁ?こっちこそどういう事だと聞き返したいわ。あなた貴族子女でしょう?ご挨拶は?
「ララベル=ミューデ子爵令嬢、殿下の御前だ。ご挨拶を」
「!」
シュリーデ様の声のトーンが低っ!?こわっ!?
ララベル様はハッとしたような顔をした後、カーテシーをした。
「ララベル=ミューデ子爵令嬢、聞きたいことがある。ルベスとジョナ夫妻と他の侍従や護衛にまで、ローズベルガ殿下を追い出せと指示を出していたそうだな?しかも私からの指示だと命じていたそうだな」
シュリーデ様の言葉に、ララベル様はポカンとしていた。
「っな……それは、だってシュリーデ様はローズベルガ殿下に出て行って欲しいと言って」
「ほう?私がそんなことを発言したか?私が言ったのは、ローズベルガ殿下が痺れを切らしてくるはずだから、それまで待ってみよう、これだけだぞ?」
シュリーデ様、まるで罠にかけた獲物を待つ狩人みたいな発言だね。
なるほど、言葉に出して出て行けと言ってないものね。
あ、そうか……シュリーデ様的には、白銀の王の小説の件を知る前だし、“私がシュリーデ様を一方的に好き”だと私に対して誤解していたということよね?
強引に婚姻を結んできた王族の我儘王女殿下だと思ってるから、シュリーデ様が近付いて来なければ、怒ったりして癇癪を起して王城に逃げたり、勝手に離縁してくれるのを狙うのも分かるけどね。
私としては、王城の外に出るチャンスを得られたから渡りに船で、放置なんて最高じゃない!状態だったけど。
「私はローズベルガ殿下を追い出せなどとは絶対に言ってないが?という事は、ララベル=ミューデ子爵令嬢は独断でローズベルガ殿下に不敬極まりない行いを指示し、私に濡れ衣を着せたと言う訳だな」
「っひ!!」
畳み掛けるように、威圧発言をするシュリーデ様。
あれ?私、今気が付いたぞ?このキラキラ~としたTHE王子様な外見をお持ちのシュリーデ様って、怒らせると怖い人なの?
「申し開きがあるなら言え」
ララベル様は既に号泣している。
泣くくらいなら、そんなことしなきゃいいのに。
シュリーデ様は溜め息をついてから、背筋も凍りそうなほどに冷たい目でララベル様を見ている。
そうか……これは完全にララベル様の勘違いからの暴走になるよね。
プレミオルテ公爵家の人達は、私に失礼のない程度の使用人を配置したつもりだったのに、ララベル様がシュリーデ様の言葉に勝手に置き換えて伝えたのだ。
「ララベル=ミューデ子爵令嬢は今後一切、公爵家への立ち入りを禁ずる。殿下、王族に対して不敬な行いをした令嬢と共に殿下のお気持ちを考えもせずに不遜な物言いをした私にも罰をお与え下さい」
ばっ、罰ぅ!?そんなの何をどうすればいいの!?
陰キャがもっとも苦手とするオラオラしながらドヤること私にしろと仰いますのか!?
罰……罰……あっ、そうだ!
「あ……の、じゃあそういうことで、早速、私とシュリーデ様の離縁につい……」
「ゲホッゴホッゴホン!」
シュリーデ様がわざとらしい咳払いをしてきた。シュリーデ様の蒼色の瞳を見た。
目が……怖いぃぃぃ!“離縁”というワードは言葉にしてはいけないような気がする!
「……」
「……っひ」
綺麗な顔の人の真顔って怖いのね、初めて知ったよ。
美形から発せられる何かで威圧負け?をしてしまいそうだ。それでも暫くは頑張って目に力を入れてシュリーデ様を見ていたが、諦めて頷いた。
何を納得して頷いたのかは自分でも分からないが、陽キャからの陽キャ光線?を向けられて、降参した。
私が項垂れている間に、ララベル=ミューデ子爵令嬢は泣き叫びながら、侍従の方々に連れて行かれていた。
ララベル様と入れ替わりに、プレミオルテ公爵夫妻が客間に戻って来られた。
「話はまとまったかな?」
公爵閣下がシュリーデ様に聞いているが、シュリーデ様はまだ私を威圧?しているような目を向けてくる。
「ええ、問題ありません」
嘘つけ!まだ問題ありだよ!
「あの、離え……」
「ゲホン!」
「離縁……」
「ゴホッ!」
どういうつもりですか!?シュリーデ様!
また咳払いで“離縁”という言葉を遮ってくる。
よーしこうなったら……
「罰の与えない代わりに認めて欲しいことがあります!」
「な……」
「外で働きたいんですぅ!」
「ゲホン!!ゴホゴホゴホッ!!」
私の渾身の叫びは、シュリーデ様の咳払いの音に掻き消されてしまった。
どこまでも邪魔をするのかっ陽キャめ!
「今……何と言いましたか?」
自分から咳払いで遮っておきながら、流石に気になる言葉を発していたことに気が付いたのか、怪訝な顔をしてシュリーデ様が聞いてきた。
私は陰キャながらも、精一杯ドヤりながら
「マリリカの夢で働きたいんですぅ!」
と、叫んだ。
「マリリカの夢ぇ!?」
プレミオルテ公爵夫妻とシュリーデ様の声が見事なハーモニーを奏でた。
シュリーデは中々にゲスイ男です、今の所良い所は顔くらいしかありません。タグにツンデレを入れようか迷っています




