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王女ですが、可愛いウエイトレス目指します!  作者: 浦 かすみ


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8/27

働きます!

宜しくお願いします



 変なクシャミの主は、シュリーデ様だった。


 シュリーデ様がノックをして私の部屋に入って来ると、リサとナフラがとんでもなく慌てているように見えた。


 さっきシュリーデ様を下げていたものね。私もあなた達と一緒に心の中で下げに下げておいてあげるわ。


「おはようございます、ローズベルガ殿下」


「おはようございます、シュリーデ様」


 朝からモテ男ナンバーワンは違うわね、私と同じ種類の生物なのかな?キラキラと内側から発光しているような気がする。


「本日よりお出かけの際には護衛をつけさせて頂きます、殿下にご挨拶を」


 そう言ったシュリーデ様の後ろから護衛と思われる男性五人が次々と部屋に入って来て、私に礼をした。


 護衛の皆様はやたらと緊張していた。それもそのはず、護衛初日にララベルに言われるがまま護衛をしないで屋敷を離れた方々だった。皆、顔色を悪くされて跪いて只管に謝罪をされていた。


 本来なら、シュリーデ様やプレミオルテ公爵に直接お伺いをしなければならない事案だったのに、私という存在にピリピリしていた公爵家の主に詳しく聞くことを躊躇ってしまったそうだ。


 そりゃ、特例中の特例だものね。ゴリ押し降嫁してきた王女殿下なんてね。


「余計な心痛を与えてしまいましたね、申し訳ないわね。だから護衛は傍に付けて頂かなくても大丈夫よ?」


 そうだよね、昨日まで一人でぶらついていても特に危ないことなんてなかったし、身の危険を感じたのはぶっちゃけ、シュリーデ様の奇行?だけだし。


「でっ殿下!?」


「それはいけません!」


 私が護衛の方達に謝罪しながら告げると、一斉にメイド二人に怒られてしまった。


 どうしよう……と思って驚いて固まっているようなシュリーデ様以下、男性方をチラリと見てみた。


「ですが、昨日はシュリーデ様に追いかけられたぐらいで危ないことも無かったし」


「追いかけられたぁ!?」


「シュ、シュリーデ様にですかっ!?」


「な……なぁ」


 護衛のお兄様方が一斉に叫んで、シュリーデ様を見た。


 しまった。もしかしたら、私の言い方が悪かったのかもしれない。


「シュリーデ様っローズベルガ殿下の後を追いかけたのですかっ!」


「もしかして殿下を暗がりに誘い込もうとされたとか!?」


「シュリーデ様!」


「いや」


「見損ないました!」


「いやあぁ!?」


「あの」


「なんてことなさるんですか!」


「付け回しなんて犯罪じゃないですか!」


「きゃあ!」


「……」


 一応否定をしようとしているシュリーデ様の健闘虚しく、誰も彼もシュリーデ様の話を一ミリも聞いていなかった。


 もしかして公爵家の使用人って皆、思い込みが激しくて良くも悪くもちょっとズレてて、そんな感じなのだろうか。


「ち、違うっ違うからな!早朝に歩いておられる殿下と偶々遭遇したんだ!だから、お声かけをして送って差し上げようとしたら殿下に不審者と間違われたと……言うか、何と言うか」


 護衛のお兄様達とメイド二人は、モゴモゴと話すシュリーデ様の周りを取り囲んでいる。


「あっあの……私が勘違いして逃げ出してしまったので」


 私が思い切って声をかけると、皆が今度は私の側に一斉に近付いて来た!?なに?怖い!!


「殿下、怖い思いをしましたね」


「そうですよ~ちょっとモテるから……コホン、嫌ですねぇぇ」


 メイドのリサとナフラがそう言いながら、シュリーデ様の方を見ている。


 見られている方のシュリーデ様といえば、意外だ。不貞腐れたような顔をしてそっぽを向いている。


「シュリーデ様ってもっと……あ、ごめんなさい」


 シュリーデ様の蒼色の瞳が私に向いたので、反射的に謝ってしまった。


「もっと、何ですか?」


 シュリーデ様の声は落ち着いていて怒っている感じはなかったので、恐る恐る口を開いた。


「もっと口数が少なくて、その……」


「冷徹で寡黙な男……とか?」


 シュリーデ様の言葉にビクつきながらも頷き返した。


 シュリーデ様は私に手を差し出すと「朝食を頂きましょう」と、言って食堂へとエスコートしてくれた。


 私をエスコートしながらシュリーデ様は、苦笑いを浮かべながら話し出した。


「私はこの見た目だけで寡黙で、冷静沈着な口数の少ない男だと思われがちなのですが、自分で言うのもおかしいですが、思ったことを言い過ぎてしまうほど、割とよく喋る方です。それと時々、顔の表情が死んでいるとも言われます」


「そうですか……そうですね。私もシュリーデ様は自信に溢れて、いつも鋭利な眼差しで、近寄り難く見えました」


 シュリーデ様は体をビクッと震わせた。


「そうですか……いや、私もローズベルガ殿下をお噂だけで判断しておりました。それにつきましても大変に不敬で」


 シュリーデ様は私の目を覗き込むと、美麗な顔を曇らせていた。


ああ……ああ、そうか。この人もご自分の顔でそんなに良い思いをされていなかったのかもしれない。


 美形だから、綺麗だから、それを免罪符のようにしてシュリーデ様を良くも悪くも話題にあげる。


 私も心の中で下げに下げていたじゃないの、人の事は言えないよね


「シュリーデ様、私の方こそシュリーデ様に纏わる華々しいお話をお聞きして色眼鏡で見ておりました。申し訳ありません」


 シュリーデ様は立ち止まり、エスコートしていた私の手を取って少し力を入れて握り締めてきた。


「お食事の準備が整いまして御座います」


 シュリーデ様と見詰め合った瞬間、ルベスが声をかけてきた。


 何となく気まずいまま朝食の席へ移動した。


 そしてシュリーデ様は食事をしながら、護衛を付けて外出して帰宅は夕刻の五時までに戻ることとか、屋敷で必要な物はあるのかを尋ねたりとか、先程ご自分でも仰っていたように、饒舌に話しかけてくれた。


 私が自分から話しかけるタイプじゃないので、シュリーデ様のように会話を導いてくれる話し手の方が相槌を入れるだけで済むので、気負わず楽にしていられる。


 そしてシュリーデ様の言葉をじっくりと聞いていると、気が付いたことがある。


 護衛の方の一人一人の名前を呼んで、今日の私の護衛を細かに指示を出しているし、私に食の好み等を聞くとすぐにメイドに献立の指示を出している。しかも優雅に食事を取りながら、だ。


 そうか、シュリーデ様は無駄な会話をしないタイプなんだね、あ~それでクールキャラだと思われているのかも?上から目線で話している訳じゃないけれど、顔の筋肉が動いて見えないから感情が読み辛い。確かに表情が死んでいるね。


 人の事は言えない、私も常に不機嫌に見えるタイプのきつめの顔立ちだからね。


 そしてシュリーデ様との食事を終えてマリリカの夢に行こうとして、リサとナフラと護衛のお兄様達に待った!をかけられた。


「市井の茶菓子店ですか?それは」


「大丈夫なのでしょうか」


 危ないお店でもないし、働くとまだ決まってはないけれど、乗り掛かった船状態になっているのは確かだ。


 シュリーデ様に面と向かって宣言してみて、ウエイトレスやってみようかなという気持ちになっている。


 身支度を整えて、護衛とリサとナフラと玄関先に移動するとシュリーデ様が居た。


 あら?お仕事は?


「マリリカの夢に行かれるので?」


「は、はい」


 フム……とシュリーデ様一度唸ってから


「殿下に危険が無いか、現地調査をしておきましょう」


 と、言い出した。


 危険なんて無い無い!


「普通の茶菓子店ですが」


「……」


 何だかシュリーデ様が圧?を発している。暫く睨み合いを続けていたが、シュリーデ様は分かりましたと頷いた。


「頼んだ、では」


 そう言ってシュリーデ様は護衛に声をかけてから、ご本人も称していた死んだ表情のまま会釈をして、先に出勤されて行った。


 シュリーデ様の表情筋、仕事をしろ!と思った。


 さて……今日からは大手を振って市井に出かけられる。護衛達がいるけれど、マリリカの夢の外からの護衛をお願いしている。


 店内で何かあった時に困ると、リサとナフラは今もまだ反対しているけれど。


「店内に入る客の目視確認を致しますので、ご心配なく!」


「不審者は決して入店させませんので!」


 そう言っているのが、とんでもなく不安なんだけど……まさかお店の入口で、ボディチェックとかしないよね?


 今回は馬車で商店街まで送ってもらったのだが、その車中でリサとナフラとは少しだけ打ち解けて話すことが出来たように思う。


 主に頷いて微笑んでいるだけだったが、それでもリサもナフラも楽しそうに話しかけてくれた。


 護衛のお兄様達も朗らかに話しかけてきてくれたし、皆さん良い使用人よね。


 いまのところ、シュリーデ様との心の距離が一番遠い気がするけどね。


 咳払いで有耶無耶にされたけど、いずれは離縁して頂くつもりだし仲良くならなくったって問題無い!


 私は意気揚々とマリリカの夢のオーナー夫妻に、働かせてくださいと頭を下げた。


 さて……正式採用されたバイト初日である。


 奥さんからウエイトレスの制服を頂いて着替えた。ちょっと裾のフリルがロリータファッションみたいだ。


 自分にウエイトレスが出来るだろうか?いや、やると決めたのだ。転生して王族に生まれて、いままで自分なりに何とか頑張ってきたつもりだった。苦手だからと避けていられない社交も参加してきた。


 でも何年たっても、しっくりこない。場違いだという感覚が抜けきらない。こんなことではダメだと思ってみても、威厳や気品なんてどうすれば出るのか分からない。


 またウジウジと考え込んじゃった……


 私は鏡の前で制服を確認してから店内へ戻った。


「まずはケーキの種類を説明しようか!」


 パティシエのバードさんにケーキの種類の説明を聞いて、メモを取って行く。


 ケーキに使われている材料、味などお客様に聞かれた時に説明出来ないと困ると思い、バードさんに細かく聞いていく。


 そして次は奥さんの担当、飲み物の説明だ。


「果実水は五種類と黒茶と花茶と黄茶ね、お茶はうちは三種類を置いているの」


 ふむふむ……フルーツジュースを五種類と黒茶、珈琲っぽい丸い豆のお茶、紅茶と緑茶の間みたいな風味の黄茶、そしてフレーバーティーか。


 お茶に関しては他にも数種類あるが、全て外国からの輸入品で高価なお茶になる。私は少し飲んだことがあるが、ココアに似ているのもあった。あれがもう少し安価なら絶対に流行ると思うのだけどね~


 マリリカの夢の店の扉が開いた。


「いらっしゃいませ!」


 何とか笑顔を作ってお客様の顔を見た時に、気が付いた。


 外に面した窓からこちらを覗き込む男達二人が見えた。一人は知らないが、もう一人は知っている。


 窓から覗いているのは、表情筋の死んでる私の旦那のシュリーデ様じゃないか!!





毎度毎度誤字お知らせありがとうございます。非常に助かります!

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