窓から覗く不審者
宜しくお願い致します
誤字のご報告ありがとうございます
「昨日も会ったではないか?」
長兄のベリオリーガお兄様がシュリーデ様をジトリと睨んだが
「そうでしたか?」
と言って笑顔で返すシュリーデ様、メンタル強い…
そしてそのまま、お兄様達に両サイドを挟まれて私とシュリーデ様は貴賓室に入って行った。
貴賓室では既に国王陛下と国王妃…私のお父様とお母様が待っていた。
そして、人払いをされて…両親と私とシュリーデ様だけになった。
上手く話せるだろうか、緊張する…
そしてお父様は以前、シュリーデ様からお聞きした“白銀の王と白薔薇の姫”の話をして、しょんぼりしながら私に頭を下げた。
「若い二人に意に沿わない婚姻を結ばせてしまったことを…申し訳ないことをした。二人が望むなら離縁も致し方なく思う」
離縁…やっぱりそうなるのね。
自分の手が緊張で少し震えているのが分かる。そんな手を見詰めていると隣に座ったシュリーデ様の手が私の手に重ねられた。
「陛下…結論を出すのは今しばらくお待ち頂けますか?私とローズベルガ殿下はまだお互いに歩み寄り気持ちを確かめ合っている最中に御座います」
「!」
シュリーデ様の言葉にビクッと体を強張らせると、重ねていた手がトントン…と軽く叩かれたことに気が付いた。
は…始まったのね。息を何度か吸い込んでから、唖然とするお父様とお母様の顔を見て頷いた。
「そ…それは、このまま婚姻を続けていくつもりだということか?ローズベルガ、どうなんだ?」
お父様に見られて、内心アワアワしながらも事前に練習したとおりに笑みを浮かべて
「シュリーデ様とお気持ちは一緒です」
と答えた。
お父様はぐぬぬ…と唸りながら目を瞑った。
シュリーデ様は更に追い打ちをかけた。
「ローズベルガ殿下と二人で決めたことです。これから先、共に支え合いそして慈しみ合い手を取り合っていきたいと考えております」
んん?まるで結婚式のスピーチみたいになってきたけど……そんな宣言、必要かな?
確認の為にシュリーデ様の顔を見たら……蕩けそうな笑顔を向けて私を見ていた。
………驚いて腰が抜けた。
シュリーデ様の蕩けるような笑顔…愛おしい人を見詰めるという演技、ですよね?演技だからと分かっているから腰が抜けただけで済んだけど、何も知らずにまともに見てしまったら卒倒してしまうところだった。
「あ…ゴホン…ではこのまま婚姻を続けていくということで良いのか?」
うっかりとシュリーデ様と見詰め合う二人♡のような感じになってしまっていたので、慌ててお父様とお母様の方に顔を向けると、お母様は頬を染めてうっとりとしていた。
シュリーデ様の微笑みにやられたんだね…流石、モテ男ナンバーワン
「二人がそう決めたのなら…分かった何も言うまい」
「はい、しかと賜りまして御座います」
私は、無言で頷いて頭を下げた。
そう言えば…私の手をずっとシュリーデ様が握ったままなんだけど…どうしよう。
お父様達が退室しようとされたので、立ち上がろうとしたけれど…そうだった、私ってば腰が抜けて立てないんだった。
私が座ったまま固まっているので、シュリーデ様が膝をついて私の顔を覗き込んできた。
「どうされましたか?」
「こ…腰が抜けました…」
「…」
一瞬、美麗なシュリーデ様の顔が歪み…俯いて何かを堪えている素振りをしていたけれど、笑うのを堪えている気がした。そして数秒後、顔を上げたシュリーデ様はいつもの無表情に戻っていた。
シュリーデ様は少し微笑まれると私の膝裏に手を差し入れた。
フワッ…と体が浮きあがった。
「ひゃ…」
私、お姫様抱っこされてる!本物のお姫様だけど、お姫様抱っこだ!
興奮してしまって頭の中がお姫様という単語でゲシュタルト崩壊している。
「…」
シュリーデ様に抱き上げられた状態で、驚いた顔の両親と目が合った。
急に目が覚めた。私、このお姫様抱っこのまま廊下に出てしまうの!?えっ…ちょっと待てちょっと待て!!!
ジタバタと暴れていたが廊下に出てしまった。近衛や侍従、役人も見ている…気がする。
「暴れない」
耳元でシュリーデ様に囁かれて私の耳が死んだ。
ついでなので、お姫様抱っこのまま体も死んだふりをしていた……
生きる屍のフリをしたまま、お兄様達の待つ、客間に連れて行かれた。
「ローズ!?ど、どうしたんだ!?倒れたのか?」
いいえ、ベリオリーガお兄様、私は生きる屍でございます…話しかけないで下さいませ
「意識がないの?え?ローズッ!ローズ?」
ルコルデードお兄様…返事は出来ません、生きる屍ですから…
「大丈夫ですよ、殿下。恥ずかしいので寝たふりをされてるだけですし…」
「!」
シュリーデ様がズバッと暴露してきた。うそぉ…どうして生きる屍のフリしているのバレたの?
シュリーデ様は私をソファに下ろすと…生きる屍のフリの私の隣に座った気配を感じる。
しまった…いつ目を開ければいいのだろうか、タイミングが…
しかもシュリーデ様は横に座った私の体をご自分の体の方へ引き寄せて、凭れかけさせてくれた。生きる屍のフリもそろそろ限界かも…
「それで…どうなったんだ?」
ベリオリーガお兄様の声がする。凭れているシュリーデ様の呼吸と共に私の頭も一緒に動いてる。あ…シュリーデ様の声が体を通って響いてくる。
「このまま婚姻を続けさせて頂けるようになりました」
「シュリーデ…お前…」
次兄のルコルデードお兄様が親し気にシュリーデ様の名前を呼んでいる。ああ、そうだった。二人は同い年で仲が良かったはず…
シュリーデ様の肩が揺れた。笑ったのかな…?
「私は着飾ったローズベルガ殿下しか拝見したことはありませんでした。素の…飾り気のない殿下と話してみて勝手な思い込みで殿下の内面に目を向けていなかった、自分自身を恥ずかしく思っています。私がローズベルガ殿下の助けになれるように精進致します」
屍のフリは止めて、起き上がると私の隣に座るシュリーデ様を見た。
色々と誤解があったが、一つ分かったことがある。シュリーデ様は無表情の仮面の下に沢山の感情を隠しているということだ。美形だからと懸想をされ、ララベル様のような思い込みの激しい子女に言い寄られたことも一度や二度ではないはずだ。
私も逃げてばかりでシュリーデ様の内面に目を向けることをしていなかった。
今更だが、構わないのだろうか?無表情で私を見詰めているシュリーデ様に恐る恐る問い掛けた。
「あの…私もシュリーデ様の助けになれるように、頑張りますから……ダメですか?」
シュリーデ様が目を大きく見開いた。何故だかお兄様達が悲鳴を上げている。
暫く目を見開いたまま固まっていたシュリーデ様だったが、ルコルデードお兄様の「今日は泊まって行くか?」の言葉に反応して
「いえ、帰ります」
と答えて腰の治った私を連れて、帰ってしまった。
結局、シュリーデ様が長い間固まっていたのは何だったんだろうか?あの後はいつもの飄々としたシュリーデ様に戻ってしまった為に、聞けないままだった。
それからの日々は穏やかに過ぎていた。シュリーデ様とは夕食時と朝など時間が合えば顔を合わせ、会話をした。私は頷き専門だが、それでもコミュ障気味の私にしては頑張って会話をしている…と思う。
週に二日のマリリカの夢でのウエイトレスもなんとか続いている。最近はお客が少し増えてきたように思う。
マリリカの夢の奥さん…名前はウエラさんが
「よーしぃよーしぃ!ローズちゃんの威力がじわじわと効いてきたわ!」
と叫んでいる事が多くなったけど、威力?なんだろう…
そしてもう一つ気になるのが窓から覗くアレだ…
「……」
一日一回はやって来ている。最近じゃ目が合っても隠れる素振りも見せないふてぶてしさだ。
私は裏口からゴミを出したついでに回り込んで、窓の外に居るアレ…シュリーデ様の所へ向かった。私が近付くとシュリーデ様は立ち上がっていて、私が来るのを待っていた。
やっぱり私が気が付いてるのを知っているみたいね…私はシュリーデ様の横にいる大柄な軍人を見た。先日ご紹介頂いたこの方は、シュリーデ様の同僚のグロリー=クスラ大尉で、第一警邏隊の隊長をしているそうだ。因みにシュリーデ様は副隊長だ。
道理でシュリーデ様がマリリカの夢が茶菓子店だと知っている訳だ、警邏なら商店街の店舗の情報を隅々まで熟知していておかしくないからだ。
「ローズベルガ殿下…」
私が声を掛ける前に、シュリーデ様が先に声をかけてきた。むう?何か圧を感じないか?
「先日から気になっていたのですが…」
「?」
シュリーデ様は眉間に皺を寄せていて、今日は心情が分かりやすいかも?怒ってるのかな?
「その制服……丈が短すぎやしませんか?足が…見え過ぎです」
「…はぁ」
気の抜けた返事しか返せなかった。
隣に立つクスラ大尉なんて、物凄く驚いた顔をして仰け反っている。
私が気の抜けた返事を返したからだろうか、シュリーデ様は益々眉間に皺を寄せている。
「制服の身丈が不必要に短いように感じま…」
「すみませんっ大丈夫です、えっと…こういう長さが良いのではと決めた長さですので…」
つい、シュリーデ様の言葉をぶった切った上に謝罪から入ってしまって、しかもシュリーデ様の鋭い眼光に見られている間に、段々と語尾が小声になってしまった。
私が踏ん張って否定をすると、シュリーデ様は殺し屋みたいな目で私を睨んできた。
あのぅ……陰キャですが、これでも王女なんですが…不敬かも、ですよ?
「破廉恥ですね」
でたーっ!言うと思った。そんな不機嫌なシュリーデ様の発言の後、クスラ大尉が口を開いた。
「お前~破廉恥とか言うけどさ…知ってるの?今、マリリカの夢の給仕の可愛いぃぃローズちゃんが巷で大人気だとよ?うちの若い隊員達が噂してっけど?」
「なぁ!?」
「えぇ!?」
巷で大人気!?この私が?確かに最近お客が増えてきたし、ウエラさんがそんなこと叫んでいたけど、本当なの?
う~ん、いくら考えても人気になる原因が分からない…
「何が人気になる原因なんですかねぇ?」
警邏の隊長と副隊長が、とんでもない驚愕の表情で私を見てきた。そんなに見ないで下さい…異性にジロジロ見られるのは慣れていないんです…




