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空色空想ネスト  作者: グレーミー
Chapter4「剥離」
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黒キ羽は地下暗礁に舞う4



____BSF内部 区画??-??



『…………ア??』

「…………」



なぜ、お姉ちゃん?

わたしの口は確かにそう発した。

問いかけた自分自身が理解できず混乱する。

それは相手も同じで、ギロリとした目つきのまま、お互い少しの時間が流れた。



『──ッキヒ』

「!!」

「いっ……」



わたしは一瞬の静寂にも耐えられなかった。

一歩。またわたしの足が後ろへ下がろうとしたとき、とてつもないスピードで胸倉を掴まれ、そのまま床に押し倒される。

そうして、目の前で赤黒い瞳が品定めをする様に睨みながら、首元が徐々に締まる。



『……オマエハ……誰ダ?』


「っ……くるし…………ぃ」


『……ダ、レ、ダ……!!!』


「くっ……ぁ、リ、ュ……」


『──リ』

『────ユ?』



少しずつ目の前が暗くなる。

紅い瞳がグニャグニャと揺れ始め、視界全体がぼやけてくる。

でも不思議とそうなるまで、わたしは首元を掴む手を剥がそうとはしていなかった。

(かな)わないと分かっていたからか、「お姉ちゃん」だからか。

どこにもそんな確信なんてないのに。


わたしは弱々しく自分の名前を吐くと、紅い子は僅かに首をかしげながら鼻先まで顔を近づけて「あぁ、やっぱり知らない奴だ」と言わんばかりにキヒッと笑った。



────プシュュュュ!!!



暗がかった視界が今度は真っ白になる。

キーンと耳鳴りを覚えながら。


意識と視界が遠くなっていく空間に、缶の様なものが転がる音が何処からか聞こえてパン!

と、弾け飛ぶ大きな音で耳が酷く痛くなる。

それは「お姉ちゃん」も一緒だったみたい。

不安定な意識が途切れる間際に、締め上げていていた手が離されるのを感じた。



『……!』


「かはっ……けほっけほっ」

「──掴まって」



聞こえてきた声に聞き覚えはあった。今度は「お兄ちゃん」。

手に力が入っているのかは分からなかったけど、精一杯お兄ちゃんの体にしがみつく。



「……けほっ……お兄ちゃん?」

「まぁ……あはは、それでいいや。逃げるよ!」


「──リユ……リ……ュ…………?」


「…………ぅん」



きっと今、わたしはだっこされている。

離れない様に感覚的に薄くなった手を掴み続けながら、安心感という淡い温もりの中で「わたし」は途切れていた。

……遠く消えかけた記憶と寄り添いながら。



________________________________________________________________________________



____BSF 地下11-1 集会用ホール




「ぐ……あぁ!!」


「ちっ……そろそろマズイか」


「おい!柱だ!!柱!!!」

「クソ!」



レーザーポインタが次に照らしたのは傭兵たちが身を隠す広場の階層を支える支柱。

逃げ出したときにはもう遅い。

高出力の鋭いレーザーが支柱を砕き、支えを失った天井が瓦礫となって崩れ出す。

こちらの身を潜めていた柱も大きな落石物と成り果て、頭上の天井が広く抜け落ちる。



「──ウオオオオオ!!!さっさと逃げれぃ!!」

「ッ……場所を移すぞ!」



〈シールド減衰:86%〉

〈警告:当該区域の倒壊率上昇中。退避ルートの検索……〉

〈エラー:ジャマーノイズを確認。広範囲でのエリアマップの解析不可〉


幾つかの瓦礫が自身の周りに張られた透明の球体状被膜に当たり、独特の反射音と共に大小の石屑が飛び散る。

同時に携帯機器に被膜のエネルギー消費の通知と警告が流れる。

ジャマーは初耳だ。大方レーザーを放ちまくってる奴のお陰か、それ以外は考えたくない。



「ずりぃぞ!!」


「準備がいいからな」

「お、俺も入れろぃ!」


「バカ言え!エネルギーの消費が激しいんだ。無駄に効果範囲を広げれるか」

「無駄じゃねえ!頭に石ころ当たったらどうすんでぃ!!」


「そしたら盾代わりにでも使ってやるよ」

「あぁ、盾かってウオィ!!」


「右だ」

「うお!」



落石の続くホール全体が大きく振動し、各所で小さな倒壊が起こり始める。

区画の限界に気づいた残りの傭兵たちも、迎撃を繰り返しながら各々で退避ルートの確保を始め、人集りの分布に偏りが起きる。

落下物をかいくぐりながら円周を駆け、脱出口へ向かう。


……しかし、奴らはその瞬間を待っていた。



『害虫スイッチ……作動します。ホイホイです』


「ホイホイ……?」



____ピーーーー。



『害虫というのは一つ見つけると、複数はいるというが』

『……いやはや、行動原理は基本変わりない。人は虫より頭は効くとは言えど、条件や制限で全てを縛っていけば、虫とさして変わりない動きをするものよ』


『至極簡単なこと。複雑なものは簡単に、分かりやすく明快に』



____ピピーーーーーー……ピ。

…………ピ。

……ピ。



「まさか出入り口を……離れろ!!!」

「は!?崩れるぞ!!」

「分かった、最悪シールドの範囲を広げてやるから止まれ!」



全員が全員出口に集まっているわけではないだろうが……視界不良で全体は把握できないが、多くはこの状況では逃げることだろう。

こちらも脱出を予定していた出口には、既に複数人が退避の準備をしていた。



『害虫、焼却……』

『虫よ、群れよう。火の粉を散らして……ハッハッ』



ピ。



「こっちに寄って伏せ___」



充満した煙が赤く色付く。

それは円状のホールに複数設けられた出入り口の枠組みが、赤く点滅発光し乱反射したものだった。

思えばこの煙。落下物の副産物として舞ったものと、銃器の発砲時のものが混じっているだろう。

それにしても微粒子かつ大量だ。そして頭をよぎった……自然発生とは別に、粒子を散布している可能性に。


体勢を伏せ、目を覆う。

シールドの効果範囲を少し広げ、まだ僅かに残った柱の陰からホールを見る。


__炎が踊っていた。


扉枠が発光時に激しく爆破、燃焼し、微粒子を伝い炎がホール全体を覆った。

……巨大な粉塵爆発。炎は周りの傭兵を瞬く間に包み込み、倒れ、焼けていく。奴らはこの火力を最大限に出るように調整していた。躍らせるように撹乱し、粉塵の密度や酸素量を、このフロアを実験フラスコに変え火種を放った。

装備していた爆発類、薬莢が火災に紛れて二次爆発がその勢いを助長する。

急激な酸素の低下と熱く焼ける空気が、幸いにも爆破から逃れた傭兵たちを次に襲う。



…………。

……。

……二つの黒い影はもう見当たらない。

残っているのは焼けた人の匂いと、熱風に舞った黒い羽。


シールドは物理的なものしか防ぐことができない。

それでも展開しておいたのは、爆破の際の破砕物を防ぐためだ。

風や炎、粒子の類は効果が薄く、はっきり言えばこの状況下での防御は期待できない。が、こうして生きている。……辛うじて。

俺に覆いかぶさった半焼けの男をゆっくり退ける。



「…………」


「庇い損、守り損だぞ」


「……でもお陰で……無傷だろ……ぅ?こうして一応、二人生きてる」


「俺ならしない」


「そうだろうさ。……俺はアンタじゃ……ないからな」


「おぃ…………まだ行くのか?俺なら逃げるぞ」


「あぁ?俺はお前じゃない、そっちが言ったことだろ」


「そう……だな」


「じゃ……俺はここで突っ伏してるよ。これくらいなら死にはしないだろうからな」


「……そうかい」



埃を払って立ち上がる。

見る影もない凄惨なホールを後にし、再び階層を移動する。

行先は目星がついている。

消えた二つが移動する気なら、先に消えた紅色を追えばいい。あれが独りでに帰る脳を持ち合わせているとは考えにくい。倒すなら……合流する前に片方を潰さないとならない。



『──こちら、8-3ブロック!ッ旅団長!!』

『いいい!!待って!待って!!閉じないで!!!』


「……8階層まで上がったのか!おい」


『****……ッ』


「……」



5階層まで上がられると厄介だ。

ワイヤーショットを駆使し、最短経路で目的地へと急行する──。


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