黒キ羽は地下暗礁に舞う3
地下の地下。
闇の中の闇とは一体何色だろう。
飛び交う戦火、轟音は、外も中もやってしまえば全て同じようなモノだ。
コイツを倒すことが、まずは依頼の完遂の一歩と信じて、こちらも少ない戦火を灯す。
揺らぐ照明の光がはっきりとその場を照らし、光量が落ち着きだす。
目が少しずつ慣れてきたからだ。
ワイヤーで下層へ降り、しっかりとその地表に着地する……事はなかった。
──ピシュンッ……
コンクリートの欠片がまた削れ落ち、白い粉末が息苦しさを増す。
階層を降りると、そこは戦火真っ只中であった。
降りきる前に体を揺らし、反動で柱が連なる影へと身を潜めて機をうかがっているところだ。
ドーム状になっているこの区画は広場として利用されている場だ。
中心部分は簡単な椅子や看板が立っているのみで、段差の無い床が広がる。周りはコンクリートの柱が円状に連なっている構造で、今は中心広場に奴がいる。
そのど真ん中に取り囲むように、連なる柱に傭兵達が身を隠しながら弾幕を張っている状態だ。
先ほどからコンクリートが削れているのは、殆どが反対側からの流れ弾だろう。
同士討ちも起きているに違いない。
だが、これが一番安全策なのだろう。
広場で高速で動く紅い化物に銃口が踊らされ、隙を見せた狭い通路に入り込まれた場所は一瞬にして飛沫をあげているこの惨状を見れば、とりあえず撃ち続けるほかない。
皆が訳も分からず乱射状態なのが現状だ。
「なっ!……ウァァァアッ!!!」
「くそっ来るな!バケモノがッ」
「入り込まれた!!」
まただ。
「どけぇぇッ!!」
そこへ一人が叫び、射線を開けさせると両手に携えたボウガンが放たれ、見事一発が命中する。
マルチショット改造で一度に4本が横に広がる特殊なボウガンは、両手撃ちで計8本の矢が広い範囲に曲線を描き、発光点が標的周辺に散らばる。
緑発光が赤く発光した瞬間、壁と標的が爆破され、黒煙と複数回の爆音が広場一帯を襲う。
「おい……余計視界を悪くしてどうする」
「し、仕方ねぇだろ!」
「それに見ろ、奴は消えた」
「とりあえずはな。上層に行ったらどうするんだか……」
壁に空いた穴から逃げたか。
だとしたらどうする……上層階に移動されれば厄介だが、隔壁で妨害するのは時間の問題だろう。
「さっさとこっちも弾を込めようぜ……どうせまた」
「……!伏せろ!!」
「おおう!?」
ボウガン男のこめかみにレーザーポインターが当てられている。とっさに男を突き飛ばすと、間一髪で何かが床に着弾した。
『命中せず。次弾着弾予測開始』
『さて……我らもひと暴れといこうか……ハハハッ』
『頭に乗せた手をどけて下さい……計算が狂います』
新手がいるのか……!
その場の銃声がピタリと止み、各々が爆発の反応を見せていると、低い笑い声がホールに響く。
層になった円状の踊場の頂に二つの影がある。
『シンフよ!仕掛けをやれ』
『……了解』
『電源類収束部位、ロックオン。切断します』
コートに身を包んだ男の方が飛び降り間際に相方へ合図を送る。
合図を受けたもう片方が、浮遊する攻撃兵器でレーザーポイントを壁に照射する。
──?……まさか電源を!!
「やつら……!」
「視界が?!」
区画の壁に張り巡らされた電源コードの束が次々と天井からの狙撃で切断され、短い光とスパーク音が壁の欠片と降り注ぎながら、明かりの大半を失わせた。
こちらも目で追っていた男の行方が半ばで見失い、目が慣れた頃には2、3階上層の方から悲鳴が騒ぎ立てる。
しかし、数分もしないうちに非常電源により、先ほどよりかは暗い光が灯され、1人はすぐに眼中に収めれた。
『ほう……野蛮な巣窟の割には確りとしたライフラインか……』
『ハッハッハ……だが、それでもどちらが有利か、お主ら理解はしとろう?』
「あの野郎……!!撃ち殺せ!」
「「──うぉおおおおお!!!」」
男の挑発に大多数がすぐに形相を変え、武器を構える。
かなりの人数がこの区画に流れてきたが、残りは三分の一ほどだろう。
俺もそろそろ動かねばいけないが……まだだ。
とっととしてくれ、婆さん。と半分の呆れと焦りに加えて、飛んでくる弾に当たらないことを願いながら、コンクリートの柱の影から静かな応戦をし続けていた。
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____BSF内部 区画??-??
「シグお兄ちゃん……?ど、どこですか〜……うぅ」
さっきまで隣にいたシグお兄ちゃんとはぐれてしまい、あたりをウロウロ……ウロウロ……。
わたし、じぶんは「リユ」。きっとこれが名前。どこで記憶が抜けてしまったのか、なんでここにいるのか、なんでお兄ちゃんなのか、わたしにはわからないのだけど。
それを探そう?ってシグお兄ちゃんに言われて、今はここにいます。
なんとなく頭に残っている大切なものを見つけるために。
「…………」
『さぁ、行こう?準備──始だ』
『おっ、──ならす──にでも一人前になれるぜリユ?へへっ』
「……なんの記憶?わか……らない」
思い出そうとすると遠ざかっていく記憶。
そうして忘れたころにまた、近くまでやってくる意地悪な思い出。
今にも消えちゃいそうな、雲のような白い記憶がわたしの歩みを止めさせる。
────ズガァッ!!!!
「ひゃっ!?」
足をふと、立ち止まるというのは大切なのかも。
急な大きな轟音に尻餅をつく。
今日で二回目?三回目?……ゆっくりと起き上がりながら、白い煙が立ち込めている瓦礫を作った穴を見る。
そこはちょうど、もし私が立ち止まらずに歩き続けた距離ぐらいの場所。
『……ク』
「……?」
煙は徐々に晴れ、穴の奥までは見えないけれど、なにか影のようなものが揺れて穴の前にいる。
すごく歪み尖った……変な空気が私の足を一歩後ずさりさせる。
『ゼェ……ゼェ……キ、シシ?』
また一歩。
「────」
『(──ちゃん)』
曖昧な霧の中から現れた姿がはっきりとしたとき、後ずさりを続けるわたしの足が止まる。
そして同時に何かがまた、別の記憶がわたしの頭の中をかすめる。
「──お」
『(──おねえちゃん……)』
それは──
「おねえ、ちゃん……?」




