黒キ羽は地下暗礁に舞う2
普通なら考えられない大きな問題。
紅い少女の最大の理由は、その生命力だった。
様々な手段を模索するも、当ての無い範囲での効果的な結論を導き出すことは、困難そのものだった
店を後にし、当てを探しに数歩歩みを進める……。
そのすぐのことだ。
『……連絡、地下階層ブロック10-2。傭兵居住区画で異常発生中』
『……各今月の警備係を担当する傭兵は、該当区域に急行して下さい』
『……繰り返します、各今月の──』
────ゴゴッ……!!!
地下に響く業務連絡の途中、断ち切るように大きな振動が人の足場、建物の軋みを生み出す。
『……一体……何?各傭兵、だれでも構いません。直ちに急行して下さい──って旅団長?!』
『あーもしもし?みんな聞こえてるかな。さっき伝えられた区画に侵入者がいるみたいなんだ』
『報酬内容を今ここで提示することはできないけど、臨時でもそれなりの額を用意するから、みんな!頼んだよ!』
『旅団長!!……あぁもう、この通りです。上部階層は警戒して下さい。以上です』
〈通達:情報受信を確認、マップデータ更新〉
先ほどの知らせと同様のものが端末にも送られた。
ツッ……っと放送は切れ、先ほどまでの喧騒は著しく静かになっていた。
いつもなら周りの音でかき消される放送内容に皆が耳を傾けたのだ。
当然のことだ。こんなことは滅多に起きないのだから。
皆が皆、久しく起きた地下でのアクシデントに、互いの顔色を伺い始める。
「……どうする?」
「さあ?」
「珍しいなぁ」
「何が起きたんだか……」
そして、懐を確認する者、通信機器で連絡を取り始める者、早々に身を潜める者らが現れ始め、再び先ほどとは雰囲気の異なる雑踏の渦が動き出した。
〈通信受信中……〉
端末が再び反応し、個人の回線で連絡が入る。
『──あー、あー』
「はー、今度はなんだ?」
『あ、ゼノ?悪いんだけど問題の階層に向かってもらえる?』
「ことわ……」
『ところがギッチョ、ちょっとタンマだってゼノ!』
『実は発見情報では例の紅い子らしいんだよ』
「なんだと……?」
『つーまり、あっちから向かってきたってことだよ。僕も向かうからさ、チャンスだよ』
「……」
「簡単に言ってくれる」
それは等しく与えられた生と死のチャンス。
どこにも有益なチャンスとは明記されない曖昧なものに吸い込まれていく。
通信機器でメールを送信し、ハンドガンをホルスターから引き抜き地下へ向かった。
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____BSF 地下10階 傭兵居住区画
「これのどこがチャンスなんだ」
そこは悪臭に満ちた異空間。
所々にできた水溜りは赤く濁り、臓物の欠片が沈んでいる箇所も見られる。
壁という壁に弾痕が生々しく残り、照明は各所破損し、明かりが疎らに照らす様は照明というより寧ろ恐怖を助長するものだった。
フラッシュライトで薄暗闇の中を慎重に進んでいく。
「(どこにいる……)」
まさか俺だけではあるまい。
他に報酬につられてやって来る傭兵が見当たらないのは、明らかに不審点だ。
「誰かいるか!」
ほどなくして、他の傭兵の声がフラッシュライトを照らす先から聞こえてくる。どうやら別の場所から下に向かってきたようだ。
「そっちは?」
「いいや、だめだ。どこも死体だらけだ……かなりやられている」
「……それにこっちの人数も知らぬ間に減ってる」
闇討ちか?
シュッ……──
「……?後ろだ!!!」
『──キヒヒヒヒ…………ククッ』
『……アハッハハハッ……!!!』
紅い軌跡が左右に揺れ、フラッシュライトに照らされた人影の一つが床に落ちる。
「くぉっ……???」
付近にいた残りの数人たちが、動かなくなった一人を見つめていると、再び影から軌跡が延びる。
数本に伸びた鋭い爪の様なものが、高速でエモノを仕留める。
「なんだこいつは!!」
「…………ぅあ?」
そして、もう一人が同じように二つに崩れ落ちる。
目の前で直視した女の一人が悲鳴をあげる。
「ヒイッ……!」
「このッ」
すかさず女の方に標的を変え、巨大なクローで引き裂こうとしたところを、ワイヤーショットで捉える。
ワイヤーはクローに絡まり、不意に勢いよく引っ張られ体制を大きく崩す。
ワイヤーを巻き戻しながら転びかける襲撃者の間をダッシュで詰め、大きく蹴りかぶる。
『グッ』
蹴り飛ばしたと同時にワイヤーを外し、相手が転がり落ちる地面に範囲限定爆弾を投げつける。
「……ッ」
『グェッ……クックク??』
「沈め」
錯乱しながら狂気を振りまく襲撃者は紅い粒子を両手に纏い始め、それは銃を形成した。
AK47、アサルトライフル。あの時と同じ武装だ。
『クハハッ』
相手が両手を振りかぶり、粒子を振り払うと、曖昧だった形が堅実な実体となってこちらに銃口を構える。
──ピピッ。
────バシュッッ
遮蔽物のないこの場で乱射されればまず助からない。
手元のスイッチを押すと高音のシステム音が発せられた後、襲撃者の立つ地面に何かが打ち込まれた。
『────ッッッ』
高速で地面に刺さる杭が一瞬の間を置き、爆発する。
限定的に爆破する特殊な爆薬で、爆風も縦方向に舞い上がる。
煙が失せると綺麗な円形の穴が襲撃者の姿を消すとともに、ポッカリと深い闇を作り上げていた。
この下はちょっとした広場となっている区画だ。
相手の弾幕を考えれば、まずは狭いこの場を変えるべきだ。
ただ、被弾率を抑えれたとして、相手の行動範囲は逆に広がることなる。
今度はあの速度について来れるかという問題になるのだが……。
「やったのか?」
「いや……どうせまだ無理だろうさ」
「あ、おいっ」
ワイヤーショットを穴の直上。天井に打ち込んで深い闇を覗き込む。闇と言えど、僅かな光が淡く滲んでいる。すぐ下階層の明かりだ。
まだ埃が薄く立ち込める穴の中へ飛び込み、ワイヤーを調整しながら徐々に下層へ潜っていく……。




