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空色空想ネスト  作者: グレーミー
Chapter3「狼煙」
43/52

予期せぬ埋め合わせ

____ハイドラシティ 隠れ家

____AM 10:12

____ゼノ




「──それで、あのようになった、と」


「あははっ、悪運強いねーゼノ。でもラッキースケベ過ぎなァダッ!!」

「黙ってて下さい旅団長」


「はー……」



事故後、水浸しの事態は数十分で収まりを見せ、一同がリビングにて集った。



「あのーアマネちゃんの髪乾かし終わりましたよ」

「わーい楽ちん楽ちん〜♪」


「ルリ……廊下?拭いた」

「あ、うん。ありがとね」


「……ん」



ソラ……と、言うらしい不法侵入者(1)は、こちらに代わって濡れた床を拭いていた。

どういうマジックか、それとも逃げたのか。この不審者と入れ替わるように、部屋を飛び回っていたカラスは姿を消していた。

……浴槽に大量の羽を撒き散らしたまま、だ。



「ゼノさん、目薬とか大丈夫ですか?」


「いや、いい……」



濡れタオルで目を抑え、格段に賑やかになったリビングのソファーに一人沈む。ミナキは頼んでもいない家事やアマネの着替えを用意するなど、善意なのか癖なのか、テキパキと動き回っていた。


なぜ他人の家のタンスの配置や中身を把握しているのか謎だが……。



「ミナキ少尉は朝からキレがあるんだからなぁ〜」

「僕の靴は特別製なんだから、もっと大切にさぁ」


「なら普通にして下さい」

「あははっ、またそんなこと言う」


「シグーおっはー!」

「やぁアマネ、おっはー」



パタパタと忙しないミナキを余所に、携帯電話を片手にテーブルに腰掛ける不法侵入者(2)は、自分の部屋と変わらない素振りのまま、髪を乾かし終わったアマネとハイタッチ挨拶をかます。


──もういい……それよりもだ。



「それで。一体何の用なんだ」


「んん?あぁ、そうだったそうだった。はい、これ」



……。

…………。





____コーバスシティ GRDIO領域内 某区画





「──まずは、ようこそ。グラディオへ」

「……」


「依頼完遂とはならなかったけれど、瑠璃さんの保護はお疲れ様」


「……嫌味か?」


「そういうわけではないわよ。ただの結果よ」


「それに、これを言ったらだけど、最初から両方をこなすなんてことは期待してなかったもの」


「それは、どういう事だ? 」



空調機で整えられた均一な空気。

地下とは比べ物にならない環境の良さ。今では肌に合わないと感じながら、この落ち着かないオフィスの中に招かれ早数十分。

小さな一室にテーブルとイス、そして手つかずのコーヒーが湯気を出し終わっている。


こちらは椅子に座り、テーブルを挟んで悠々と背を向け立っている一人。何を隠そう今回の呼び出し人だが、初手から挑発的な言葉を投げかけられる。



「寧ろ片方がクリア出来ただけで、私から言わせれば合格よ」


「試した。とでも」


「簡潔に言うならそうね。テストね」


「それで?」


「そう気を悪くしないで欲しいわ。言っておくけど、『アレ』に勝てるわけ無いの。仮に勝ったとしたら、貴方こそ化け物よ」



白く統一された空間で、会うはずのない人物と会話をしている。

それもこれも、朝方受け取ったメモのお陰なのだ──




____ハイドラシティ 隠れ家




「これは?」


「依頼ではないんだけど、なんて言うの?呼び出し的な?」


「どういう吹きまわしだ……?」



渡された紙切れの内容。

それは単純明快、先日(くじ)いた依頼の依頼主からの直接の呼び出しだった。


通常、原則としてクライアントと傭兵が直接出会うなんてことは有り得ない。

会ったところで、デメリットしか無いからだ。

それはどちらが望んでも同じ事。依頼者の匿名性と傭兵の無駄なリスクを考えれば、当たり前なのだが……。



「断る。説教ならメールにでもしてくれ」


「そうは言ってもさー、原則そりゃ有り得ないよ?でも、特殊な場合もあるじゃん?」


「意味が不明だろ。よりにもよってこの指定場所は何だ?グラディオ?」

「説教通り越して殺されに行きたくはない」


「そうだけどさ、最近グラディオ発の依頼もちょくちょくあるんだよね〜。変にパイプは切りたくないし……相手も内々にするそうだし、頼むよ〜」


「…………」




____コーバスシティ GRDIO領域内




とんだ災難だ。

ここまで後追いを仕掛ける依頼主も珍しい。

素性を晒し、安全性も匿名性も無い対面に誘ったのは、若い女研究員だった。

あまりこちらのルールを知らないのであれば、今後ご利用を遠慮してもらいたいところだ。


逆に、この機会を利用して聞きたいことが聞けるのであれば耳に入れておきたい。せめてものの土産であり、唯一の足を出向いた理由だ。



「あの化け物のことを知っているのか?」


「ええ。もちろん」



あの化け物……奴の正体がここ(グラディオ)絡みなら、是非追及しておきたい。そうなれば、はめられたようなものなのだからな。


しかしながら、返された返答は一筋縄なものではないことを示唆する、曖昧なものだった。



「まさかとは思うが……」


「あぁ勘違いしないで。アレは私の所有ではないの。……彼の、いえ、もう一人が作ったもの」


「作った?」

「……」


「答えないならいい」

「……というと自分のものもある。ってことでも受け取れるが?」


「そうね。一人くらいは既に会ってるんじゃないかしら?」



おそらくアイツだろう。シグの車に居合わせ、何事か消えたヤツだ。

あれもまた、現れては一瞬の謎の概念だ。

シグも後の詳細を知らないらしいのだから、ここで聞くしかない。



「傭兵さん達のリーダーに付かせてた子がいるのだけど」


「ああ……。いや、そうは言ってもすれ違ったようなものだ」


「そう……ならあまりお話できなかったのね」

「あの子は『ルルト』。きっと名前を教えてくれなかったでしょうし、覚えといてあげて」



ルルト……。名前を知ったところで、ここにいるわけでもなく、その正体を語るわけでもない。

こちらの知りたい証明については、口を開く気はないようだ。

ただ、記憶に残っているうちに再び会うことがあったなら覚えておくことにした。



「──さて、本題に入りましょう」


「要件は二つ。引き続き、瑠璃さんの保護、そして……」



自らは座ることなく、テーブル周辺を右往左往しながらコーヒーを啜り話していた女は、俺の正面で立ち止まった。

間を置き、一つトーンを落ち着かせた声で目を合わせた。



「私は今まである種の脅威、その破壊の種をなくすために研究してきたわ。その手伝いをしてもらいたいの」


「アンタの研究と目的を邪魔する訳じゃないが。──なぜあいつ、瑠璃を守る?ただの一般人だろ」


「それはもう過去よ。自覚はないでしょうけど、彼女はもう日常から剥離する。……あの子が鍵だから。あの子の側にいる鳥は、絶対に失くしてはいけない」



鳥……?

いままで単調に話す口調に、感情がこもる。

人との会話術を完璧に備えているわけではないが、一般の感情の変化くらいは読み取れる。



「手伝いと言ってもいろいろあるだろ。それこそ、まずは何をやるんだ」


「それは依頼を受諾した後の話よ、傭兵さん」


「ふん……しっかりしてるようで何よりだよ」


「それで、どうするかしら?」



根元はしっかりしているようで、なにより。

だが、ここで簡単に依頼は()めない。

この対面からも、会話の概要にも、明らかなものがある。



「素直に答えるなら、メリットは少ない。……というより無い。何故俺に固執する?他にこの依頼を蒔くことも簡単だろう」


「単純よ。貴方に頼みたいからよ」


「何のためにいろいろ似たような依頼を、お仲間さんたちに試したと思ってるのかしら?それにね……貴方は既に首を突っ込んでいる」


「瑠璃さんに出会ってしまったこと。それに紅い子も一度知った味は忘れないわよ?」


「……貴方を必ず殺しにくるわ」


「もちろん報酬は約束するし、貴方を巻き込んでいるこちら側の情報も必要でしょう?」


「断ってもデメリットが残る……と?」


「その差がどちらが大きいか。優秀な傭兵さんなら簡単なことだと思うけれど?」



…………。


つまりこいつは、「失敗」へわざと俺をはめ、本当の依頼を確実に受けさせようとした訳か。

聞いた限り、俺以外にも同業者のいくらかは同じ釣り餌を掴まされたみたいだ。……災難な。



「あぁ、そうだわ。もう一つ条件……」


「私がもしかしたら。もし……死んでもしたら、依頼を受けていたのなら途中で破棄してもらって構わないから」


「……どっちにしろこっちには損なことだ」


「それに変わりはないかもしれない。けれど、破棄をしてこの街から出て行きなさい……もしもの死者の言葉は従っておくべきよ」


「これは最悪の結末になった時の手順(マニュアル)よ」


「最悪、ね」

「──最後にいいか?」


「なにかしら」


「その最悪なバットエンドとやらは、具体的にはどうなるんだ?」


「さあ?どうなるんでしょうね。人の考えた最悪の事態のスケールなんて、当てになる?」


「変な言い方だけど、貴方に掛かってるの。よくある勝手なことでしょう?」


「残念だが、気が乗らない」


「そう……じゃあ」


「乗らないが……こっちも条件だ」


「十分な資金と情報、グラディオの進入許可だ」


「ふふ、それなら傭兵さん?依頼はしぶしぶ受諾と見ていいのかしら?」


「準備できるのか?」


「私だって計画準備をしてきてるのよ。グラディオの進入許可は予想してなかったけど……珍しいものを欲しがるわね」


「こっちにも一応ってのがあるんだ」


「まぁ、どんな形であれ準備してあげるわ。安心して」


「いい?次に紅い子が貴方の前に現れるなら、早くて明日。あの子の再生時間を稼いでくれた子の働きを無駄にしないようにね」



静かに笑い、手元のクリップボードに何やら書き込み、トン……とペンをボードに立てて鳴らす。



「……それじゃあ、宜しくね。傭兵さん」


「あぁ、そうそう。私はエミカ、これから宜しくね」


「早めに終わらせたい」



空にしたマグカップ。覚めたコーヒーはただ苦い。

席を立ち上がり、去ろうとするところを、エミカという研究者は最後に付け加えた。



「えぇ。お互い、嫌な終わり方にならないようにしましょう?」



いやに人気(ひとけ)の無い区画の一室にて、望んでもなければ拒むこともできない。

運命に付けられたような依頼が静かに交わされた。


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