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空色空想ネスト  作者: グレーミー
Chapter3「狼煙」
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地上の鳥と地下の人

「……はぁ」



落ち着く。

……と、言っても先程があまりにも騒々しかっただけに、少し余分に感じてるだけだが。


ゴミ箱にはコーヒーが浸った羽が、萎びて沈黙している。

アマネには風呂に入るよう半ば無理やり促してやると、何故か鳥を捕まえ一緒に浴室へと連行されていった。悪く思うな、鳥類。こうすることで俺には平穏が一時的にでもやってきたのだから。

入れと強要しなければ永遠に入らない可能性がなければ、こちらから促すこともないのだが……。



『──本日も昨日に続きコーバス、ビルゴ、ハイドラ、ともに全域で晴天で、青い空が見れそうです』


『──ですが速報でお伝えしたとおり、コーバスの一部地域、区画は警戒態勢が依然としかれています。場合によっては警戒態勢の延長、区域の拡大もあり得ますので、市民の方々はお気を付けください』


『また不審な点に気が付いたり、不審人物を見かけた際には落ち着いて、近くの警備やARDにご相談ください。……それでは今日も良い一日を』



ただ垂れ流していたテレビに一区切りがつき、CMに移る。

これも見たところで、日常品は基本的に地下で補充するため、何がお得だろうとあまり関わりが無い。



『──今日の食卓を彩る隠し味! 味の楽園のお塩はやっぱり』


「ゼノーーーーーー!!!!!」

「俺は塩じゃねぇ!!」



タイミングの良すぎる大声に、反射的につっこむ。

アマネ以外にあり得はしない。

CMの入りあたりから勢いよく扉が開けられる音が響き、リビングに走りこむ肌色……肌色?!



「なっ……!裸で来る奴がどこにいる!!」



これまたとっさにその辺に落ちていたタオルケットをつかみ上げ、アマネに投げ込む。



「ほっ!くるくる……しゅん!」


「……」

「……セーフ!」



すでにいろいろ見えてから隠したところでセーフもガードもセーフティもない。

舞い上がるタオルケットをひらりと受け取り、勢いよく回転し巣巻きタオルに変化すると、謎の効果音とともにうまく顔だけ出た状態でこちらを向く。

……床は回転時のスプリンクラー効果で水浸しだ。



「たいへんだよ、ゼノ」

「後始末が大変なのはこっちだ」


「そ、そうじゃなくて! 鳥さんがっ!!」


「ああ……?」



まさか鳥も一緒に湯船につっこみ茹で上げでもしたのか?

風呂のある洗面所を指さしながらその場を駆け足する。……そのたびに足元にさらに水滴で水面(みなも)が広がっていく。


──ベチャッ……。



「……?」



その洗面所のある方から、水に濡れたものが動く音が聞こえる。

当然するはずのない音だ。明らかな生き物、物が落ちたとかそういったものではない。

ハンドガンをホルスターから引き抜きアマネの前に出る。



「そこにいろ」

「あ、まってよ」



──ベチャッ。



「誰だ」



呼びかけには反応がないが、確実に何かがいる。

銃のセーフティ(安全装置)を外し、いつでも発砲可能にし距離を縮めていく。

そして洗面所の入り口付近まで歩み寄り、覗き込もうとした瞬間だ。



「──ゼノー!撃っちゃだめぇうぇっ??!」

「……!来るなって言っ──!!」



思えばアマネが水浸しにしたのはリビングだけではない。

当然リビングに辿りつくにはこの廊下を通っているのだから、部分的に大小の水溜まりができていた。一体どうやってこんなに水を撒いた?


アマネが走り駆け寄った瞬間、自らが撒いた水面(みなも)ロードは微妙に石鹸を含んでいたらしく、豪快にスリップする。

両手があれば十分体勢を立て直すのも受け身をとることもできたはずだ。しかし、巣巻きには成すすべなく復帰不可能な状態にまで体勢を崩す。



「──へへん、ピッキング成功~。お邪魔するよ、ゼノ」


「だめですよ、旅団長……勝手に入るなんて!」


「……おじゃまします」



──ガチャっ……。


今度は玄関が開かれる音。

この声は……!


あの、やろう……ッ!!!


状況を把握し続けるのはここまでだった。



「いいんだって、ゼーノー……」


「なんでいつもそうインターホンを無視するんですか……もう」



「ふぎゃ」

「グ」



世界と時間が止まり、凍りつく。

巣巻きは小されど、慣性の働いた物体は予想より重かった。



「ゼー…………、ノ」


「ゼノさん、すみま……」


「………………」



衝突寸前、玄関に目をやった直後。

巣巻きにタックルを食らい、即席ワックス廊下にへばる。

濡れた身体がジャケットを湿らせていくと同時に、タオル思しきものが顔面に付着する。



──ベチャッ、ベチャッ。



「ぬ……くそ」



顔を横に振りタオルをずらすと、洗面所から現れた黒い影。

しかしはっきりと視認ができない。

タオルケットに滲みた洗剤を含んだ水滴が目に入り、涙でぼやけ目が開け続けられない。


だが、その見続ける必要もなくなった。

この廊下の先は玄関。

本当の危機ならば、扉を開けた者たちがいち早く反応する筈だ。



「……なる、ほど。これはお楽しみ中だったね。ごめん」


「はぁ。やっぱりここの人たちおかしい人ばっかり……」


「だから勝手に入っては……あ、アマネさん!!ゼノさん!?な、なな、何やってんですかーーっ!!!」



待て……。

口の中も苦い。



「……うええ、にがー」



こっちのセリフだ。

……早くどいてくれ。



──ベチャ。



「はー……シグさん私……って、ソラ!?」

「……?ルリだ」



この声はやはり瑠璃か。

いったい今どんな惨劇になっているのか、アマネが半裸状態で既に平和な状態の基礎は壊されている。



「なんでソラが……?」


「……遊んで、た」


「いやぁー、それにしても朝からラブいね~ゼァァァァァアアッッ!!???」


「何呑気なこと言ってるんですか!!アマネさんっ、もうほら」


「うぇー……ミナキ助けてー」


「なぜ巣巻きに……、ゼノさんも大丈夫ですか?」


「(……いっそ殺せ)」



……最悪な朝の風が、開きかけた玄関から漂う。

着実に夏へと進む暖かい風は、やはりまだ一歩手前。水滴を帯びた服や肌を撫でるには、まだ肌寒く感じた。


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