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空色空想ネスト  作者: グレーミー
Chapter3「狼煙」
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異常なる日々の来客

──どうやら、この世界に平等やら均衡は存在しないらしい。……当たり前だが。


少しはマシなとこもあるだろうが、少なくとも俺の周りのセカイは不均等で不条理だ。

そうは言っても、全員が平凡な毎日を送れるとは限らないし、他とは違う、異常な生活をしなきゃならないヤツだっている。


だからと言って、後者の日常を優先的に送りたいとは思わないが……。



「はぁ……」



そうとは考えてみるものの、残念ながら俺は異常な毎日を送っている側だ。



「ぉお~すごいすごいっあはははっ」



訂正する。俺はじゃない、アレも含め俺達は、だ。

仕事が終わり、隠れ家に帰宅して早数分、家の中は仕事の疲れを無視する天真爛漫な雰囲気で充満していた。



「はぁ…………」

「ん、どうしたの?ゼノ?」


「最近、溜息で呼吸してる気がするな……」



ボーッとしていた所為か、思わず口に出てしまっていた。



「ぅーん」


「それはゼノがポンコツくんだからだぁっーー!!」

──ごッ

「ふぎゃっ!」



両手を上げて突っ込んでくるバカに迎撃すべく、手刀をタイミングよく振り下ろし撃沈させる。

同じ手法で仕事に出る前の朝にも食らわせた気がする。



「いったぁー…うぅ、ヒドイぃー」

「……」



突撃はあえなく失敗し、頭のてっぺんに直撃した部分を摩りながら鎮圧される。

まぁ、自業自得だ。


人間的には欠陥でも、少なくともこいつより頭はポンコツではない。



「ヒドイよー、いきなり叩くなんてぇ……」

「叩かれることするからだ」



はぁ……、それにしても

なんでこんな事だけで盛り上がれるんだ……?

ここまでくると羨ましいと思える程にも見えてくる。



「ゼノは一緒に遊ばないの?」



こいつの頭ん中どうなってるんだろうか。



「なんでだよ…」

「楽しいよ?」

「ここは、幼稚園か?」



くそ……。

仕事で帰ってきたらこれだ。

ある意味、仕事より疲れる残業に値する。



「はぁ……」



休める気がしない。無視していた関節痛や、疲労が徐々に重く振り返してくる。



「もぉー、たまには息抜きも必要だよ?」



訳がわからない。

なんで息抜きがそれなのか。

他にないからなんだろうが、少なくとも俺ならこうはならないに違いない。



「俺はこうして家でソファーに座ってる方が休めるんだよ」



仕事から解放され、何もせずにしてられることがどんなに良いことか。

ただでさえ、今回の支出はまず利益では埋められない。……失敗したようなものだからな。


ハイウェイの一件から最終的には無事、拠点である地下へと辿り着くことができたが、本来の目的……ルリの確保と例の紅色を倒す内容に完遂はされていない。

ヤツを始末したのか確認ができずに中途半端、二つに分けるなら当然失敗に振り分けられる契約だったわけだ。


シグと同乗していたアイツもあの後の行方は分からず仕舞い、途中完遂の報酬は半分に減額されている。

半分でも支払われただけでも幸運だが、この依頼は今後のキャリアに傷がつく散々な始末となった。


失敗であろうと成功であろうと、その差はあれど体は疲弊する。今に限ってはいつも以上の疲労感だ。

ベットに突っ伏し睡眠してもいいだろう。たとえ寝れなくとも、仕事を忘れていい時間が俺の生きてる時間とも言える。



「えぇー、つまんないジンセェー」

「うるせーよ」



こいつ……。



「いいもんっ、私とこの子だけで遊んでるもーん。後で一緒にマゼテーなんて言っても聞かないんだからねっ」


「保育園かよ……」



つーか、この子って。そいつ……


『鳥』だぞ。





__ビルゴシティー

__隠れ家




過去の反省は区切り、現実の話をしよう。

まず今、部屋にいる者をわざわざ紙に書けと言われればこうなる。

残念にも普通の生活から欠落した俺と、バカみたいなことしかしないバカと、何故か鳥がいる。


そう、鳥だ。


それもその辺で飛んでる『カラス』だ。


器用にリビングの天井をグルグルと旋回し、地上ではそれを追いかけドタドタと駆け回る無邪気な子供の光景。

子供といってもかれこれ十数年生きているはずなのだが、精神の方は数年置いて行かれた模様。時すでに遅し、度重なる重度の手遅れだ。


──もういい……。休む。

あまり感じたことがない倦怠感に、止めようとする活力も野鳥が何故入り込んでいるのか理由を問うことも怠い。

ソファーにだらしなく腰を掛け、テレビをつける。



『おはようございます、朝のニュースはまずこちらから』


『……昨夜未明、機甲化師団ARDの部隊が襲撃を受けたこの事件。現場から中継です』


『──はい、こちら現場には早朝から物々しい雰囲気が漂い、武装したARD隊員たちによって厳重に警備され、区域一帯の警戒レベルが上げられています』


『また、ご覧のようにですね、あちこちに銃撃戦が繰り広げられたような弾痕が各所に見受けられます』


『──情報によりますと、通報を受けた部隊がパトロール中に何者かに襲撃を受け、数十名の死傷者が出ている状況です。被疑者は依然と捜索中、決死の捜査が進められています』



…………。

おはよう、か。はっ……笑わせてくれる。

夜はとっくに更け、新たな一日に早速置いていかれる。



「どはははははっ」

『カアッ』


「あはははははっ」

『カァッカアッ』


「(はー………くそ)」



破れたカーテンの隙間から淡く差し込む光と()けっぱなしの部屋の灯り。天井を見つめながら異様にまぶしく感じる光を手で遮る。


喉の渇きを潤そうとテーブルに置かれたマグカップに手を伸ばす。

アマネに頼んでおいたが、明らかに手が加えられた色をしているコーヒーが湯気を出し待っていた。


要求を大きく無視するミルクと砂糖の大躍進で黄土色に変化し、無加工ではないことは見れば一目瞭然。

度を越えていなければ加工されることも視野には入れてはいたが、ブラックで頼んでいたはずだ。



『──カアッ』

「……あ」



アマネの必死の追いかけに、器用に勢いよくターンでかわし反転宙返り。

その瞬間、役目を終えた黒い羽根が主から離れ、別軌道で宙に舞う。

その数二本。しっかりと目で追える速度で左右に揺れながら定まらない速度で降下する。

しかし、目で追えたのはここまでだった。



「──ふーーーっ」

「……」



アマネが何を思ったか、二つのうち一つに力強く息を真下から吹きかけ、降下進路は大きく変更される。

羽は縦に落ち始め、急降下を果たし視界から消えたのだ。

そして…………。



────ちゃぷ。



………………。

………。

──着水。



「…………」

「ゼ、ゼノの方に行かないようにしたんだよ……?」


「……じゃんっ、お髭!」


「はぁーー……」



一つはアマネに回収され、つまんで鼻の下につけて「お髭」と紹介される。

しかし、もう一つはどうだろう。

黄土色のまだ一口もつけていない、湯気立つ水面へと吸い込まれるように着水したのだ。

ある意味「ブラックコーヒー」と化した泥の飲み物には、羽の付け根が茶柱のようにそそり立っている。立てば縁起の良いなどという俗信も、これでは逆効果に違いない。



「ねーねー、おひげー。ゼーノ~」

「いい加減に……」


「おひげアタック」

「しろ!!!」


「──ぐにゃ?!……あ!」

「?!」



鼻に羽を添えながら「ひげ突進」なるものを繰り出し、接近するところを丸まった新聞紙を拾い上げ脳天へ。

叩かれた衝撃で手から解放された羽がヒラリと落ちる。

羽はすでに触られまくり、滑らかな質感は失われボサボサになっていた。

おかげでほとんど浮遊することもなく、さらにはそれが功をなしたか、運命的な着水を再び果たした。



「……おーダブル茶柱」

「もう、だまれ……」



このときの俺はまだ知らない。

突飛に入り込んでいた「鳥」がさらなる物事を作り上げること。

いや、薄々は感じていただろうか?

だとしても、確信を持つ頃には先にも言ったよう、手遅れだ。


……いつだってそうだったのだから。

新しく入れなおしたコーヒーを(すす)りながら、テレビを流し見ていた。




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