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空色空想ネスト  作者: グレーミー
Chapter3「狼煙」
37/52

眩む紅、駆け抜ける夜

自分から罠に入る奴はいない。

その先に檻があるのを承知なら、尚更だ。

しかし、その檻にはいつか何者かが掛かってしまう。


現実はそうなのだ。

掛からない檻は敷かれない。

敷かれた式の先には、答えがある。


なら、その檻の中の何者かが自分では無いことを祈るしかない。

そうでなければ自分にならないようにすればいい。


──だが。

そうはしない奴が世の中にはいる。

わざわざ危険と知りながら足を踏み入れる、めでたい存在が俺には理解できない。


俺もそんな奴として生きていたら、少しは考え方が違うのだろうが。

────ここにいるのは檻に飛び込み続ける、哀れな輩達だ。





____コーバスシティ郊外 沿岸居住区304道路

____PM 08:48



突風を背に、得物のバイポット(支持装置)を展開し車に固定する。

高倍率に設定された可変スコープを覗き込み、標的を素早く捉え再調整をしていく。


暗闇が火花で照らされ、すぐに辺りをかすめるか車体を抉る破壊へと姿を変える。

光源はおおよそ同位置から放たれ続けているが、実際は二つの火種が絶え間なく乱れ撃たれている。



「両手撃ちで乱射か。大層な腕の持ちなんだろうな」

「それ、褒めてんのか?がははっ」

「まぁー俺ならぁ、あぁはナンねぇなぁ……」


「……だろうな」



車内の運転手と他愛ない通信を独り言混じりに交わす。

その豪腕で銃一つ持てないはずがない。

一つも二つも関係の無いようなものだろう。

皮肉混じりに会話を切り、先に見える標的に神経を集中させる。


──それにしても。

スコープに映る脅威を中央に捉えながら、静かに驚く。



「『ヒト』じゃないな。最悪なのが人の形をしているとこか」

「こういうのは素直にバケモンなら、やりやすいんだがなぁ」

「純粋なバケモノはしばらく御免だ……。いいさ、少しイカれた人殺しで済めば」



少し前に思い当たる節が頭を痛める。

実戦してみれば中途半端なバケモノも素のバケモノも大して変わらない。


あれっきりで済めばまだ笑い話だったが……。



「──チッ」



数発の弾丸が(くう)をかすめた後、直後に一発が目の前に着弾し破砕と衝撃が照準をずらす。

体力に底は無いのか、この長時間の追跡に相手側の疲労や動きの乱れは感じられない。

(むし)ろこちらの照準をずらそうと、時折左右に移動する余裕があるようだ。


──もういいだろうか。


ある程度の観察に区切りがつき、銃を握る手に少し力が入る。



「おいニィチャンよ!もうすぐまたどデカく曲がるぜ」

「……あぁ」



《警告:残EN残り僅か。Systemスリープモード、待機準備》

こっちも時間切れか。

音源だった携帯機器。またバッテリー交換の怠りで早めのご臨終を迎えられる。

今日中には無くなると予想は立てていたが、自分で軽いメンテができるようになっておいたほうがいいと悟った。

……たいして使ってないはずなんだがな。



「…………」



アレがバケモノの(たぐい)なら、倒せるのか、殺せるのかは不鮮明だ。ましてや弾丸なんかを弾かれた暁には、お手上げだ。

探りも含めた意味合いで、わざと下半身に狙いを決めてトリガーを引く。

強烈なリコイルと同時に、相手側とは比にならない閃光と発砲音が感覚を震わせる。


音速を超える物体。

そんな物に撃たれる対象は、被弾すればほぼ確実な致命傷を負う。

こいつなら四肢がくっ付いたまま死ねるかも怪しいところだ。

──まぁ、条件にも左右されるだろうが。


着弾を確認しながら悠長な詮索に耽る。

スコープには片足に被弾し、体勢を大きく崩して空中を蛇行していく瞬間の映像。そして地面に叩きつけられるまでがスローモーションに描かれた。


排莢(はいきょう)された(から)薬莢がクルマの上を短く跳ね、目の前に広がる闇夜に吸われていく。

火薬の匂いもすぐさまにかき消され、短い金属音が耳に残った。


何もかも一瞬だ。

ただその瞬間が一つ一つ遅く感じるこの感覚は、スコープの中だけだ。

ゆっくりと、スコープから視界を外しそのままの肉眼で暗闇を見渡す。

先ほどまであ見えていた影も形も、そこには無い。



「片付いたな」

「──にしても随分とヤワに当てたな?」

「さぁ、な……」



運転しながらもヤツが倒れるまでを見ていたのか、確実なショットを決めていないことに疑問があるようだ。

車内に戻り、俯いたままのそれを脇目見る。

視線に気づいたのかゆっくりと顔を上げ、問われた。



「殺したんですか……?」

「…………さあな」



俺が不確定な場所を狙った理由。


単にバケモノに対しての興味だったか、それともどこかで足止め程度でいいと思ったか。

──それもあるだろう。


もしかしたら。

今こうしてこの女に、はっきりと「殺した」とは言わずに、誤魔化すためだったのも含まれていたかもしれない。



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