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空色空想ネスト  作者: グレーミー
Chapter3「狼煙」
36/52

闇夜に眩む人紛い

────。

──。

…………?

唐突な闇の中で、私の不確かな意識が目を覚ます。


薄暗い目の前に、赤色の子が急に現れニタニタと笑っている。

異常に乾いた視界に一度瞬きをすると……。


────ッ!


先ほどまで少しだけ私とその子との空間は、無くなっている。

至近距離で私の右腕を小さな手で握りしめられていた。

その手は真っ赤に汚れて、ドロドロの液体がボトボトと落ちて黒い地面に模様をつけている。

視線を向き直そうとすると、目の前が暗転し突如赤黒く変化した。

目もいつの間にか開けられない、暗闇だ。


瞼を開けようにも開かない、そして足が地面から離れる感覚が盲目の脳内でグルグルと廻る。

体が一瞬軽くなり……真っ黒い世界のまま、地に落ちた────。




____現在地不明 道路上



「イタッ!!──ぅ……あれ」



あまり質のよくない潰れた固いシート。

荒い運転に揺られながら現実へと戻り、夢と自覚する。

重い(まぶた)をゆっくり開け、曖昧になった記憶を辿る。



「起きたかい嬢さんよ」

「あの、ここ……っついたた……」



姿勢を戻そうと首を動かした瞬間にツキッと痛む。

「……寝違え……た」

右腕を枕にして寝ていたのか、少し赤くなっている。

似たような感じを夢で見ていたような気がするけど、はっきりと覚えていない。

……ひどい夢だった気がする。


……それにしても、もう少し静かに走れないのだろうか。

頭がぼんやりとしたまま要望を申し出ようと、後部座席に座り直そうとした瞬間に頭を押し付けられる。



「──ィッ!ったい!!たい!たい!!!」

「……何するんですか!」

「あのなぁ……」



私の寝違えた首に再び悲鳴を上げさせたのは、ゼノさん。

自滅しないよう、再度少しだけ顔をあげて不満を表明する。

横に座っていた何故か呆れ口調のゼノさんも、座席にはしっかりとは座らずに窓より低い位置にポジションを取っている。

外は薄暗く、街灯はあるもののあまり光量はない。少し遠くに光の集まった居住区思しき建物群が目に入り、見覚えはある。たぶん、海に近いところを走ってると思うけど。



「あの……!私いっ──」



────ビシッ。


唐突に亀裂の走るガラス。

ゼノさん側の車の窓が、数センチの穴を開けてヒビ割れている。



「やってきやがった……!飛ばせ!!」

「面白くなってきやがったぜ、嬢ちゃん気をつけな!」

「えっ?!ま、フゥムッ!!!?」



ガラスに続けて乱暴に金属を叩きつける音が車内に伝わり、少しだけ後ろを見ようと体勢を再び変える。

(うな)るエンジン音が振動と揺れを一層強くし、ジェットコースターのような急加速で背もたれに押し付けられる。

加えて上下の揺れに硬い背もたれに再び顔が沈み、鼻が潰れる。

……埃臭い。


ひび割れた車窓からは、高速で横に流れていく街灯が亀裂によって歪に歪んで点滅している。



「一体どうなってこうなってるですかぁっ……!!」

「はぁ?!聞こえねぇ!いいから伏せてろ」



割れたガラスから細く高速で吹き込む風に声がかき消され、ゼノさんの声も少し聞こえづらい。

もう一度、声量をあげて叫ぼうとしながら覗き込むように後方を確認する。




「────っ!!」



息を呑む。

闇夜に光る火花と、紅色の影。

人とは思えないスピード、いや。

──人じゃない。

私には理解させられた。

両手から放たれる火花の数々の内、幾つかが金属を叩きつけていたのだ。

撒き散らすように放たれるは銃弾。

その恐怖は今、完璧とは言えない金属の装甲で守られている。


紛れも無い。

車両と同スピードで追いかけてくる『それ』は、私を襲った紅い子だ。

ありえない事象が、幻から現実に昇華する。



「ど、どどっどうするんですか!!!──きゃあっ!!」

「だから、伏せていろ!これでもお前は長生きしてるんだ、死にたきゃ降りろ!!」

「助けてくれたんじゃないんですか!?」

「こうなってなきゃ助けていたんだよ!!」



「──アラァァよっとォ!!!!」



シートにしがみつきながら急カーブをやり過ごす。

タイヤを甲高く鳴らしながら、90度の重力が車内を襲う。

吹き込み続ける突風が耳を煽り、ひどい雑音に耳が痛い。



「……よし!!直線コースに入った、やるならやれ!」

「……あぁ、さっさと帰るぞ」

「帰るって、こんな状態じゃ……!!」


「ふん……文字通り帰るさ。……アイツには『(かえ)って』もらう」

「あの……それって…………」



全てを聞かずにゼノさんは助手席の方に体を乗り出して、長い金属製の物を引っ張り出す。

すぐさまに姿勢を戻し、足元の小さなダンボール箱から細く黒いパーツを取り出して先ほどの物に差し込む。

とてつもなく大きな銃だ。




「ま、まさか!撃つ気ですか?!」

「……だったら何だ」

「でも……!撃ったら」

「このまま追いかけっこを続けるか?……俺は断る、倒せば済む話だ」

「だからって!だめですよッ!!」

「くっ、お、おい!離せ!!」



両手でゼノさんの腕を掴み叫ぶ。

目の前で殺しをしようとしているこの状況を、止めないはずはない。

もっと違う手はないかと考えても、こんなことを体験したこともない私には思い浮かぶはずがない。

それでも、目前にした私は止めた。けれど……



「離せ!今は黙ってろ……」

「っ……」


「死にたくなかったら尚更だ」

「……命のゴタゴタは後で聞いてやる」



しかし、その抵抗もすぐに押しつぶされてしまう。

敵に向ける恐ろしい目つきのまま、私を睨んだゼノさん。

心が締め付けられるように苦しく身が凍った。


尖った目つきはすぐに溜息で戻り、銃口の先で車の上部を勢いよく突く。

その部分は元から開くようになっているようで、人一人通れるサイズだ。

私は外からの脅威と目の前の殺意を垣間見て、縮こまっていた。


今は獲物を狙い澄ます目。

でも私が一瞬見たモノは、また違う恐ろしく冷酷なものだった。



「…………」

「お前には関係の無いことだ。関わりたくなきゃ、見なければいい」

「……だからって、そんな他人事に」

「他人なんだよ」


「……他人であるべきだ」



今の私は睨んでるのだろうか、恐怖に怯えているのか。

見つめ続けていた私に、顔を近づけ目を合わせて吐き捨てるように言った。



大きく開いた車両の天井から冷たい突風が吹き込む。

言葉が聞こえづらい状況のなか、私と面と向かって放たれた言葉。

顔と顔の距離は近いのに、思うより随分遠くに感じた距離だった。



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