作意の目
────コーバス川周辺
『──すっみませーん!ちょっといいですかぁー?』
白衣姿でメガネをかけた特徴的な口調の若い男性。
手を振りながら歩いてきている姿と、次に目に入ったロゴマークでただの人ではないと認知する。
グラディオ……その職員が私に?辺りを見回すも他に探し人となる人影は見えない。
「(やっぱり私だよね?)」
向こうから来るまで落ち着かなかった私は、その場に立ち上がろうとすると相手側は頭をかきながら私に手を横に振り、そのままでいい趣旨を伝えてくる。
気が進まない自分もいたけど、ここはそのままで待機。
間もなくして、途中小走りで私の横に立つと私からは見上げる位置に。
地べたに着けた手を体育座りに戻し、相手の動きを待つ。
男性の目線は斜め上の空を見つめながら何か考えているように見えるが、どこか微笑んでいる。
「驚きましたぁ?」
「え、えぇと…こんにちは……」
身長が高い分威圧感のようなものを感じ、まとまりのない形の不安定で不規則なリズムと口調に不審と謎が深まる。
「いやぁーすみませんね~、急に声かけちゃったりして。しかもこんな役柄のニンゲンに話しかけられたんじゃぁ殊更驚きますよねぇ」
「えっ?えーまぁ…はは」
なんだか不信感が高まるなか、同時にこの人のキャラというか会話の流れに乗れないし掴めない……
受け身の反応しかできてないような。
「ところで珍しいですネェ~?こんなところ一人で。何かしに来たのかな?」
ぅあぁぁ…その質問私からしようとしたのに……なんか全部先読みされてる気分……
「ちょっと散歩でも、と……ここ、私の好きな場所なんです」
「へぇ~散歩ですかぁ。いいですねぇー自由でぇ」
そう言うと肩を落とし、「こんな仕事柄ですからねぇ~」と苦笑い。私も苦笑い。はは…
「ん?それ、アクセサリーかなぁ?」
「え?」
流石に見上げ続けるのも失礼だと思い、そろそろ立ち上がろうとするとポケットから首飾りが顔を出していた。
鳥かごの近くに落ちていたものだ。ソラのだと思うんだけど、渡しそびれていた。
「あ、たぶんそうです。羽の首飾り」
ポケットから引き抜き、紐をつまんで風に揺らすとどこか普通の羽とは違う淡い光を出していた。
気づくか気づかないか、それぐらい微細な光。明るいのに見えるのが不思議に思える。
「へぇ…」
「あの……」
「…おぉっと失礼ぃ、失礼。不躾でしたねぇ」
「いえっ!そんなことは…」
羽を見つめる男性の方に視線を移すと、先ほどとは違う尖った目つきで一点を睨みつけていた。
でもそれも一瞬で先ほどの雰囲気に戻り、視線を私に戻す。
私の反応に謝罪をすると風でたなびく白衣をおさえて腕時計を確認する。
「おやぁ、お帰りの時間ですか」
「は、はぁ」
「なんていうんですかねぇ。まぁ~『ヒト』がいたから話しかけてみたってところですよぉ、ご安心を」
男性は私に微笑んだ後、来た道をゆっくり歩き出す。結局何しに来たんだろう……
背を向けなら「まぁーまた会えたら会いましょうねぇ~」と手を振りながら歩いていく先にさっき来た時に乗っていたバンが現れ乗り込むと、そのままコーバスシティーの方へ行ってしまった。
「ほんとなんだったんだろ…」
私も家に帰るべく座っていた場所を一瞥すると名刺サイズの紙が草に紛れていた。
厚紙で裏返しになっていた紙を拾い上げると、『グラディオ研究員 キリヤマユキヤ』と記されていた。
────ユキヤ、さん?
この前に川で会った日のこととそこで拾った紙に記されていた名が浮かぶ。
ユキヤさん?の後に続いてもう一人、こちらは女性で教壇には上らずにドアのところで足を止め、腕組みをしている。
担任からの紹介が始まり、女の人はエミカさん、そして教壇中央でニコニコしているのがユキヤさんとはっきりわかった。
紹介は手短に終わり、先生は進行を任せて視聴者側に移ると「じゃぁ、始めますかねぇ」と、あの口調で悪夢のような授業が始まった。もちろんいまの口調のクセに反応した生徒は少なくない。
まず笑顔のままポケットに手を突っ込み取り出したるは半透明なチャック付きの袋。
中には生々しいピンク色の肉塊のようなものが液体と一緒にたっぷたっぷいってる……のが遠くからでも確認できてしまったので前列はかなりのインパクトだと、思う……。
「(ユキヤさん何するつもりなの…?!)」
『う……』『ぉぶ』
ここで最前列、二列目の一部がダウンし始め、他も視線はやや下がり硬直、先生の姿はすでにいない。
「あーとは~っと」
まだ出るみたい。
どうやら生物化学かなんかの実験を催してくれるようだけど、明らかに一般の人にはハードコアすぎる。
なによりまず説明を聞いてない!
ユキヤさんは笑顔で楽しそうに準備を進めるなか、生徒の浸食は半分ほどにまで拡大。
恐らくあのチャック付き袋が開けられる頃が全滅のピークになるのかも。
エミカさんは頭に手を当てて首を横に振りながらため息をついているところから、こうなることは予期していたのかもしれない。だったら止めてほしい気がした。
「(ユキヤさーん……)」
一人で半分目をそらしながら末路を推測する。
発想力と思考力が格段に成長した特別授業になった。




