変化の兆候
────ビルゴシティー駅構内
「おはよールリ―」
「あ、おはよー」
駅ホームで同じクラスメートといつも通りにあいさつを交わす。
電光掲示板には今日の列車のダイヤがずらりと表記されピカピカ点滅している。
時間が進むにつれてさっきまで余裕があった構内はスーツと制服に彩られ、平日らしさが増す。
最初に来る列車にはビジネスマンが一秒でも早くと、窮屈に体を詰めていき、時々入りきらなくて駅員さんにお世話になっているところを見たりもする。
私たちはまだ余裕がある方だから少し、人ごみから抜けて端っこの方で友達とおしゃべりをしながら往来する流れをわき見して登校時間の一部を過ごす。
何本か素通りしているとようやく人の流れが緩やかになり、次に来た電車に乗り込んだ。
車内のシステムは快適で、走行音や揺れは極力抑えられた利用者にやさしい設計。朝に弱い学生にしたら再び転寝の底に案内だってしてくれる。
これは一度体験済みで、友達がそばにいて起こしてくれたので大惨事にはならなかったからよかったものの、重度の眠気を背負ったままの乗車はお勧めできない。
休日に来た……いや、降ってきた?…飛んできたような。
──ソラ。
最初は鳥だったはずの鳥は、なぜか人になっていた、魔法のようなよく分からない現象。
その次には謎めいた研究者の人たち、グラディオ。
立て続けにハプニングに巻き込まれた結果、今日は珍しく眠気には苛まれていない。ただ、代わりの副産物として
「──ねぇルリ!こないだの数学の課題やった?やってたら見せてほしーなー。なんて」
「……ごめん、実は私もやってないんだ」
空白が目立ってしょうがないワークが今も行先を失いカバンに収納されている。まるで朝の窮屈な車内のような、一冊でかなりの存在感が感じられる。数学自体苦手なためあってか、このカバンはある意味重い…!
「へぇー!ルリにしては珍しいね……あれ、じゃウチはどうやってこの未曾有のピンチを切り抜けろと?」
「アンタ…バカだよ」
「あ、あはは……ごめんね見せれなくて」
ただ課題をやってないだけなら学校生活にはよくある出来事として、青春扱いして笑いあえるはずなのに……
──理由が理由で苦笑いしかできないよぉ!
野鳥が家に飛来するなんて、しかもカラス。…しかもなんかヒト。
変な噂話とかになって広まっちゃうのもなんだかなぁと悩んだ結果、無難に「寝過ごしちゃったー」と安全策で済ませて、休み時間は課題で潰れるだろうと、車窓を眺めながら覚悟した。
────コーバスシティー ラスター学園内
学校に着けばいつも通り、チャイムで始まり、休み時間を挟ん……課題を進めて、あとは授業が決められた時間枠で行われていく。
先生たちが予め決めてきたタイムスケジュールに沿って進行し、話を聞いてノートをとり、時折発表なんかの場を設けさせて終了の鐘が鳴ればそれで終わり。大抵はキリの良い所で終わる先生たちの授業は限りある時間の割り振りに感心する私と、何の変哲もないなと思っている、ちょっと飽きている私もいた。
でも、これが普通であって正しいって。数十年生きてきて今更変えてもらおうなんてことも思わなかった。
もう少し先の未来を迎えるまでは。そう、思っていた。
────学園内 5時限目前
「えー、今日は急遽だが特別授業としてグラディオの職員の方を招いての授業を行いたいと思う」
「あのグラディオが?」
「まじで!?」
「なんでまた…」
昼休みが終わり、みんなが席に着くころ。
まだ一部では会話が続き賑やかな場に、担任の先生がチャイムが鳴るより前に入ってきた早々発した一言。
みんなの会話の話題ががらりと切り替わり、各々反応を示し、全体のボリュームも少し大きくなる。
「これまた珍しいねールリ―」
「うん…」
「ウチ苦手なんだよねラザニア?グラタン?」
「グラディオよ…」
「おいおいー、静かにしろ」
先生の注意であらかた騒ぎは収まるも、依然と小規模に談話は続く。
それもそのはず、グラディオ職員が施設から出ることは珍しいことで、基本機密漏洩を防ぐために外出は少ない。
世間に公表が行われるときも施設の決められた場所で記者会見は開かれ、報道側には様々な制限がかけられるとか。ニュースの専門家とかジャーナリストが必死になって情報や批判を言い合う場でも、こうした質問や異議が飛び交うけれど、政府は手を付けれず、グラディオも黙殺している。
先生はある程度の話し声は無視して話を続けた。
「授業内容についてだが、職員の方に任せる形になっている。当然俺も知らんが、まぁ貴重な機会だ。しっかり話を聞くように」
そう言って先生は窓際の方に退場し、「職員の方、どうぞー!」と教室のドアに向かって呼びかけると、同時に生徒たちの視線も自然と扉に向く。
白衣に身をまとい、肩にはグラディオのロゴ。笑顔で入室したメガネをかけた男性。
あれ、この人……




