名前は、「ソラ」
──夢を見た。
小さい頃の家族の夢。
鳥を飼っていて、お父さんとお母さんと一緒に暮らしていた頃の普段の日常。
懐かしいな……
ずっと続けばいいのに。直感で分かってしまう虚ろにうんざりしてしまう。
そう、今見ているのは夢であって現実ではない。
夢ならそう長くは続かない。
長く続いて欲しいものほど簡単に崩れて消えてしまうものだから。
急に目の前が暗くなって、ドスン!と床に何か落ちた音が頭の奥に響いた。……床に?
……。
そこで目が覚めて現実へと意識が戻ってくる。
目を開けるのを拒む体は手探りで携帯を握り、渋々片目を開け時間を確認すると午前7時過ぎ。
「う~~ん……ぅぁ………」
太陽とはまた違う、異様に眩しい携帯画面からの光が目を刺激し、目の表面がチカチカ痛い。
背伸びをして上半身だけベットから起こす。
あれ…?
なぜか掛け布団の上に黒い羽がのっていた。
昨日の飛んで来た時のやつかな…?でも片付けたし……
鳥かごの方を見ると、底が取れている状態でかごが横に倒れている。
鳥が暴れたのかもしれない…けれど、肝心の鳥がいない。人みたいな子はいるのに……
「んんっ…!?」
覚醒しきってない頭を無理やり起こして、もう一度視点を戻す。目を擦る。まばたきをする。
しかし、どのように目を凝らそうと、そこに映るのは現実。見て得た情報は、加工される事なく脳に伝わる。
人だ……どう見ても人。人?
「(だ、だれっ?この子!?)」
「(えっ……ぇっ…ど、どうすればっ!?)」
ベットの上で一人沈黙の戦いしている横で、今もぐっすり眠っているのは男の子。上下黒いパーカーに黒いズボンを身につけ、白い包帯が一際目立っていた。
そういえばカラスにも包帯を巻いた……
──昨日の記憶がしっかりと思い出される。
まさか……ねぇ……
信じられない確率が脳裏をよぎった。
確率と呼ぶにはあまりにも低かったけど、ゼロとは言えない、僅かな確率が。
この子……
「────ん……」
……あ。
いろいろ思考を巡らせているうちに、その子の目が少し開いてゆっくり私の方を見てくる。
瞳は透き通るような青色。
カーテンの隙間からこぼれる朝日が照らし、その青の深さを際立たせる。
「きれい……」
つい言葉に出てしまう宝石のような色にしばらく見惚れつつも、私の脳は一刻も早く事態の収集を求めていた。
そのため、心の準備が整ったところでこちらから会話を投げかける結果に。
「ね、ねぇ…君、だれかな?」
「…………ハラ……」
「原?」
「はら……へった………」
…………。
謎の少年との最初の会話は、空腹によってかき消された。
名前不詳のまま、ひとまずリビングまで降りてもらい、パンを焼いてあげた。
ソファーで待っている時もおとなしくて、あのカラスと性格が似過ぎていた。
目は青、白っぽい肌に髪は黒色、服も黒。全体的に真っ黒で統一され、年齢は見た感じ私と同じかそれより上か。身長は私より少し大きい。
「──名前………」
「え…?」
さっきから驚いてばっかりで思うように言葉が出ない。
でもやっと会話ができそう。慎重に会話を進めていく。
「えっと、私の名前?」
うんうんと首を縦に振って肯定する。この会話を続けたらこの子の名前も聞けるかな…それに……
「私は、笠南 瑠璃っていうの。あなたは?」
「分からない、そもそも……無い」
「……カラスだったから?」
「(うん)」
……っ。さらっと聞いた質問の回答に息を呑み、確信する。仮定が現実になっていたのだから。
鳥が人間に……?
「……ルリ」
「んー?」
「名前、欲しい…つけて?」
「な、名前?」
いきなり名前をつけてと言われても……
そういえば、カラスの時につけようとしていたのがあったっけ。
青い空から降ってきた黒い影にちなんで思いついた名前。
「ソラ」
「ソ…ラ……?」
「そうだよ?あー、苗字もつけるとしたら黒影 ソラかな?」
「クロカゲ?」
「うん、黒い影で黒影っ!かっこいいよ?」
黒い影が空から来たから「黒影 ソラ」。
なんともそのまんまと言われても仕方ないぐらいそのまんまな名前だったけど、ソラは気に入ってくれたみたい。流石に苗字まではいらなかったかな……人だったらって意味で苗字も即席で考えてみたんだけど。そもそも苗字って代々からあるものだし、呼ぶときは普通に「ソラ」にしよう……
一人で勝手に苦笑する。
「ルリ…これ何?」
リビングにある家電を指差して見つめる。
「あーこれ?これはテレビだよ。見る?」
「ウンウン」
ソラは興味しんしんに頷き、ソファーに座って黒い画面をじっと見つめる。
「────ここをこうすると、チャンネルが変わるからね。あと分からなかったら聞いてね?私二階にいるから」
一通りリモコンの使い方を教えて、私は二階に向かう事にした。
あの物覚えの良さに驚いていたけど、そんな事より大変なのだ。
理由は簡単、金曜日はそのまま寝ちゃったし、昨日はあの出来事で、全く宿題が手付かずのまんまだったから。
だってまさかこんな事になるとは思わなかったし……
はは……は、うぅ……。
上にいることを伝え、重い足並みで自室へと向かった。




