そしてまた、朝は来る。
あれから数分くらい。
流れと水量は川幅が広がるにつれて緩やかになり、なんとか川岸に漂着。現在、残った体力と相談中のとこ。
「なんとか…助かった……かな」
何とも最悪なウォータースライダーは、流されていただけでも体力を消耗させられ、体は冷える。ゆっくりと深呼吸で逆に肺が痛む感覚も。
あーさむさむ……リユーは、だーいじょう────あれ、リユ?ちょっと、顔青くない?あれ……
気を失い、すぐそばで寝かせる形で休ませているのだが、どうも様子がおかしいことにすぐ気付く。
救出劇は終わってなかった。
「ぅ…ぅ……」
「リユ…って、息してない!?」
グッタリとして血の気が引いて明らかに症状は芳しくない。
助けた当初は息してたはずなのに…何分前からこうなったんだろ?
5分とか経っていたらシャレにならない。確か10分とか経ってたら深刻なレべルを越えていたようなする。脳に備え付けの知識は曖昧で、それよりもよく悠長にこんな思考をしていられると、自分の非常識さに呆れる。
……少々気は進まないっていうか、申し訳ない気持ちでいっぱいだけど緊急事態である。
あとで謝ろ……
「────はぁっ…」
まさかここまで来てご臨終とかないよねーとか不謹慎なことを払いのけながら、うろ覚えの応急措置をそのまま実践する。
ミナキ少尉に嫌々教えられて半分耳からすり抜けていった知識だけど、大丈夫だろうか。
ただ、素早くやらなければ死んでしまうことくらいわかる。詳しい経過時間がわからないのだから、これに限る。幸い、脈はあったのだから望みはある。
「────すー……すー……」
「…げほっ!げぇっ……」
「ふー…だいじょぶかい?」
咳き込んで仰向けだった体勢が横になり体内に入った水を吐き出す。
なんとかなった…よかった……
当然息づかいは荒く乱れているけど、呼吸を再びしているのだから心配ないはず。
落ち着くまで傍にいながら、僕もようやく休憩する。
「けほぉっ…んん……?」
「落ち着くまで横になったら?君、息止まってたんだからさ」
「…へぇ?…ん」
口元に手を当てながら僕を見つめてくる。自分の状態を少しづつ理解したようで、あぁー、と。
「あのさ…ごめんね?まぁ、一応謝っとくよ。でも、死んじゃっても困るからさ……」
「ぅー…ん、ん……あ、あり、がと…気にしてない、から」
あぁ、なんて心の広い寛大な子なんだ!と、感謝と安心に浸る。
これが少尉ならどうなっていただろうことか。無差別攻撃を食らい吹っ飛ばされるのも夢じゃない。査定基準が少尉の時点で脳みそにあの攻撃力が刻まれているのがよくわかる。あれは脅威だ。
「うわっさむっ!」
まだ肌寒い日が時折あるこの季節、ダムから直送の川にダイブして上着をリユに着せていれば当然そうなる。
濡れているけど無いよりは、と思い羽織わせておいたのだけど。
「さむい…の?」
「あ、いやいや。気にしないで、ね?」
小さい体でカタカタ震えていながらも僕を気遣って上着をちらちらと気にする。
この子は天使だろうか…いや、天使に見えてきたよ。あまりの優しさに涙が出そう。
これが「差」というやつなんだねと、しみじみ痛感する。これを言ったら二人くらいから殴られるであろう。
二人が誰かは伏せておくとして……短い会話の後、互いの体力は底を尽き口数には恵まれず、ゆっくり時間が過ぎていった。
「あ、そろそろどう?落ち着いたかな。体冷えて死んじゃう前に拠点に戻ろうと思うんだけど…」
「ん……おんぶ」
「え」
「……おんぶ」
「あはは…お安い御用で」
しばらくの沈黙の後、こちらから冗談も交えて声をかける。意外に長く居座っていると気づき、時として時間の流れは一定じゃないのかと錯覚する。
そこで、そろそろ帰ろうかと思った…が、ミニクエスト発生。うん、おんぶね。ま、動けない天使さんなら喜んで受諾だけどね。
両者びしょ濡れでおんぶなんてしたらさぞ気持ちが悪いだろう。
それでもこの子が望むのならそうしてあげたかったし、安心させたかったのもある。
────さて、通信機は流されてしまったことだし、文明の利器たちに頼ることは難しい。
久しぶりにピクニックも兼ねて歩いて帰ろうかー。
背後を見ながら、忘れ物はないかチラッと確認。あるとすれば僕たちの足跡と座っていたところにできた水浸しの模様くらい。他はちゃんと持った。
一人の女の子と二人の銃をしっかり抱えて、とりあえず道を決めて適当に歩き出す。
あと数時間で朝が来る。




