交差する夜明け5
「プラントX…」
まさかねぇ…?公には知らされることのない、知らない方が幸せだったりする単語が頭のどこかで過ぎる。
今勝手に考えた憶測に全部の責任を押し付けるなら、軽く二桁はやられているだろうか。もう少し状況を見れないか、近くの警備塔に目を向ける。
扉が壊されてる……ラッキーなのかアンラッキーなのかいまいち区別がつかない。
警備塔の中が真っ赤じゃなきゃ断然ラッキーな部類に旗が上がるんだけどね。
塔内も外と変わらず、襲撃の惨事がそのまま狭い空間に押し込められただけで、酷い臭いだけ撒き散らしていた。
上まで移動し暗闇を見渡すと、ハッキリとは見えないけど小さく光が点滅しながら上下に動く光源が見えた。
たぶん、銃から発してるマズルフラッシュ。光の後に続く発砲音で確信する。
『……シグ!こいつらなんなんだ?!』
「あぁ、ゼノおひさー。追加注文できる?」
『モノに…っ、よるがな!』
「人を探してほしんだ。生きてる人を」
『人探しだな。ぁークソ…────』
「…ってあれーまた切れちゃったよ」
電波が繋がっているはずなのに、声が聞こえなくなる……
特殊回線まで妨害するなんて、一体……
『────グラディオにシティー警備隊が向かってます。さすがに限度が…』
うーん、困ったな…ここで「ARD」が来るなんて予想外だな。
さすがに武装の揃った集団は勝てっこないよなぁー……
どうする…?思考が回らない。あれを見たから?いや、死体は見慣れた。罪悪感もない。でも、ここぞの判断で僕はミスを犯した。
「このミスに、僕は罪を抱いた」
探そう。塔を降りようとした時、先ほどより近くで発砲音が響く。
ん……?
「人?」
地上は血の海、空は壁に遮られ闇。そんな空間の中から小さな存在が浮かび、壁に向かい走っていく。
「生き残り…!」
『見つけましたか?!』
「大人には見えなかった。だったら…」
塔を駆け下り、影が消えた方向へ足を走らせる。
しかし、かなり急いでいる様子だった。いや、逃げようと急ぐのは当然だろうけど。待って……、走ってたのってまさか!
やっぱりただ逃げて来たわけじゃないらしい。
追手が数体…それも人外というおまけつき。思考判断の遅れに頭をかく。
そのうち何体かが方向を変えてこっちに標的を変えてきた。
ヒュルルルルルルル……
「おわっ!??」
後ろから身も気もよだつ不気味な声、振動?
全部あの影を追ってきたってところかな…?
じゃあ、尚更急がないとヤバい。絶対囲まれるよね?!
先ほどより足を動かし速度を速めるも着実に距離は縮められている感覚がこれもまた不気味に感じる。予想を超える移動速度に驚かせられる。
「なんでそんな速いのっ!!?」
うわっ!どんどん寄ってきてない?!
『シグさん!!スタングレードを!』
その手があった!ポッケに手を突っ込んでピンを抜く。
走るスピードは緩めずに腕の力だけで後方に投げ飛ばすと二、三回地面を跳ねた後、数秒の遅延で高周波が炸裂し、一瞬白く発光した。
人外の物体は狂ったように暴れ動き、音の発生源に向きを変えた。
「音か…ナイス少尉~!」
『シグ…旅団長!今のうちに!』
そうだった。
おもわず歓喜に満ちて満足してしまうところだった。
前を向き直すとガラスの砕け散る音がしたような気がして、再び急ぎ急行する。
ようやく隔壁の形が見えてきた…!
それと同時に無線機に手を付け手短に用件を伝える。
「あ、ゼノ?用事は済んだから、そっちの方の後処理は任せたよ!あと、撤退も適当に!」
『は?おい…!』
「ミナキ少尉!ゼノを任せるよ!」
急げ急げ……!
これ以上見失ったら探せなくなりそうだ。
近道…するかな?
今度は腰ベルトに引っ掛けておいたセムテックスを一番近い壁に設置する。
この爆弾は粘土みたいに簡単に形を変形させることができて、さらに爆発のコントロールもできる優れもの。
すばやく信管をセットして起爆する。
周囲に影響を与えないように調整された爆弾は設置した部分とそのわずかな周囲のみを吹き飛ばす。
それでも流石に特殊ガラスは伊達ではなく、完璧に破壊しきることは防がれた。
なら、あとは手動で。
人一人は通れる程度には亀裂が入ったから蹴るなり体当たりするなりで……
────よし。
外に出るとダムからの激流の後、川となる始発点の近くだった。施設の近くであることもあり、氾濫に備え川幅は人工的に作られており、川というより大きな用水路の様。
見渡すも近くに人はいない。空は少しずつ黒から薄暗い水色、あと数時間経てば日も出るだろうか。
見晴らしは良くなっても見つからないってことになると……
「あははー、はは…」
川を見下ろすとなかなかの流れ。わーすごい。────だけならさして問題は無かったんだけど……。
地面に見たことがある機器、無線機。
「間に合ってよ、ホントっ!」
意を決し、激流下りのスタート。
流れに乗り、さらにスピードは加速する。
ざっぱざっぱと水しぶきが邪魔で視界不良に逆戻りするが目を凝らす。
「(あれ…!)」
前方10m。急流に呑まれながらフードを被った子がもがいている。ビンゴだろうか。
(よっと……)
一気に距離を詰め、下からその子を抱きかかえる。
「リユ……」
気を失っているようだったけど、探し人に間違いはない。この子だ。
顔が水面に沈まないよう注意しながら状態を維持するのは難儀だった。
流れに加え、この勢いで当たったら痛いであろうゴツゴツした岩を見つけあわてて回避したり、枯れ木がグサッと回避…出来ずに刺さったりと散々な障害物に見舞われ、途中誰でもいいから応援でもしてほしいとこだった。
ま、下流辺りまで抜け出すのは難しいだろうから、応援はともかく、あきらめて耐える。
ただ今は細心の注意を。と、気を配りながらひと時の川下りに身をゆだねた。




