交差する夜明け4
「────なぁ、どこから侵入するとかの予定ぐらいはあるんだろうな…?」
「正面から?」
「……」
唖然。この一言に限る。まさかホントにおかしくなったか?あの研究所に正面から……できないことはないが得意ジャンルではないし、お引き取り願いたいのだが。
「お前を連れてか?」
「んー…そうだね、二手に分かれようか」
一応考えはあるのか…?
いや、明らかに面倒な役を任されそうで素直に安心できないがとりあえず最後まで話を聞いた。
「グラディオ領域内部に行くためには、正面ゲートただ一つなのは知ってるよね?ゼノには正面ゲートを突破して研究所内を逃げ回ってほしいんだ」
ハァン、要約してこいつのオーダーは搖動だろう。
だが、前述したように結論からそう簡単ではないのだ。
グラディオ領域には研究所を囲むように二つの仕切りで隔たれている。外側を囲む鋼鉄製の第一隔壁、その次に特殊ガラス製の第二隔壁が間隔を空けて設けられ、二重の壁が研究内容の漏洩と不法侵入を防いでいる。
特に夜間は厳重で、第一隔壁は可動式で天井を作って覆い囲むようになる。これで外観はおろか、中の音も遮断される。
その中を逃げ回るってもな…
「────僕は西側の研究ブロックに行ってくるよ。ちょっとしたら連絡するからさ」
簡単な説明。
ごちゃごちゃした駄文よりかは割かしマシな気がするが、こいつの性格については半ば諦めている。
「西側だな」
「まぁー詳しい座標は送っとくよ、ミーナキ少尉ー」
『……送信しました、あと変な呼び方しないでくださいよ』
ミナキの無線でやり取り後、まもなくしてこちらの端末に〈専用回線から情報取得〉と、堅苦しい表示がされ、インストールする。
何するのかは知らんが、とりあえず最低限の準備はそろった。
「じゃ、ちょっと遊ぼうか」と呑気な佇まいのシグと目を合わせて、二手に別れる。
今日はやけに闇が濃い。見えるはずの夜空をまんべんなく覆いつくしている暗雲のお蔭で、シグの姿は程なくして暗がりに消える。
こっちとしては最高の晴天か。
天気は良いんだから、そのまま何とかなればいいんだが……
____グラディオ領域内 西側施設隔壁付近
「さ、僕も行こうかなー」
『大丈夫でしょうか…ゼノさん』
ゼノと別れて、タイミングを逃さないよう僕も作戦を始める。
「だーいじょぶだよ、ゼノなら。てゆーか、僕の心配はない感じ?」
『旅団長にはいつも細心の注意をしていますので大丈夫です』
「それって僕が全然頼りないことと意味変わんないよね」
『……プツッ』
え…ちょっとフォロー無し……?!
いやー自由すぎて人望までフリーだなんて、自由の底なし沼だね。
ま、気にしない気にしない。冗談はこの辺にして…と。
ゲート付近の警備は固いものの、側面の外周は一定間隔に建てられた警備塔と分厚ーい二重壁にそのほとんどを任せている。
つまり、ある程度の役者がいれば進入禁止の領域内も隔壁沿いにピッタリくっ付く事なら楽勝にできるって訳で。あとは侵入する術と隙が手に入ればいいんだけど。
『────あー邪魔だっ!』
『貴様ッ』
『退け』
『グァ!!』『くそ、追え!』『チッ、ARDを呼べ!不法侵入者め』『こちら正面ゲート……』
隙が手に入った…!
なんだか痛々しい声が随所聞こえてきたけど、ご了承で。
どうやらゼノが正面に向かい、警報こそ鳴らないもののスポットライトが騒がしくなる。
真夜中に警報はヤバいよねー、軍隊じゃないわけだし、問題が起これば後始末だし。
「僕らからしたら、やり易くて堪らないけど」
『────ゼノさんが正面入口を突破しました。隔壁領域内西に移動中です』
「はいよー?」
え、速っ。
ちょっと急がないと……
タイミングを逃すわけにはいかないよね。近くにはダムから流れる勢いの良い水音。足元に注意しながら暗闇の中を壁伝いに駆けていく。冬ほど寒くはないけど、風は冷たく闇の深さが際立つ。そんな季節に川に落ちたくはないから尚更注意。
大量の水の落下音を遠くから聞いてそんなことを思う。
「足跡…?隔壁の非常扉開いてるし。ミナキー」
『普通なら開いてませんよね…おそらく』
「だよねぇ」
『────ぃ、シグ!そっちは着いたのか?』
「え、あーもうすぐだよ」
『何体居るのか分からないが気色悪いのが追っかけてきてるぞ!お前…!』
『旅団長…』
ん…あれ、切れちゃった。あ、急がなきゃね。
相当マズそうだしっと。
開きっぱの非常扉をくぐり抜けて、二つ目の隔壁も同じように進む。
まさか二つとも開いてるとは思ってなかったけど、急がなきゃいけないみたいだからちょうどいいと都合よく考える。
段差の低い、段数が無駄に多く感じる階段を駆け上がる。
そして二つ壁を越えたその先は別世界になっていた。
夢の世界とか明るい世界なら大歓迎だけど、僕の前に現れたのは臭いと紅と黒が色とりどりに狂気を彩っている。汚いセカイだった。
直視しづらい光景は悪寒と共に、「手遅れ」というメッセージを転々と転がっている死体が虚ろに訴え続けていた。




