交差する夜明け1
3月23日
___BSF拠点付近
「今日は何だっけか…」
いつも通り依頼を受ける為、BSFの拠点である廃ビル真下の地下施設に足を運ぶ最中のこと。
「ゼノ~ねむいよぉー…」
現在午後11時、あと小一時間で一日が終わろうかとしているがこの組織は違う。
昼は依頼を受けるヤツが多い為、施設内は人が少ない。
なら夜はどうかとなれば、夜の方が人気があるのは確かだ。
ただ、日が昇っているうちに帰ってくる単純なリズムではない。決して一日のうちに帰ってくるわけでは無く、日を跨いで早朝や昼間に仕事を終えた傭兵たちが戻ってくることもあっての話だ。
…ま、結局のところ、その日の傭兵たちの気まぐれになるが平均的に夜の方が盛り上がりを見せ、昼と夜が逆転している、そんな場所。
傭兵同士でライブみたいなことをしたり、思うがままに食事をしたり、踊ったりと命の賭けに見事勝った者達がやりたい放題を毎晩続ける中、俺達はあえて夜間の依頼を受けに行く。
「ゼーノー…大好きだから帰ろーよー…」
……メリットとしては比較的報酬が高額なのと自分が得意な暗殺系統の依頼が多いことだ。
デメリットは依頼内容が内容なだけに、当然の如く命の保証は無くハイリスクハイリターンなこと。
あとは夜の馬鹿げた宴に参加できない、そして────
「ぅーゼノー…ねーむーいーよぉー」
そしてなによりも睡眠を取ることができず、オールすることになることだ。
「明日寝かせてやるから我慢しろ」
「えぇー…そんな~…」
アマネからすればかなりの負担だろう。はっきり言って俺も寝ていたい。
だが、寝るわけにはいかない。
装備のメンテナンスや補充に予想以上にコストがかかってしまい、来月には財布の国家予算が底を付いてしまう。
これを回避する方法は働いて稼ぐ。これ以外の金銭の補充方法は無い。
世の中には奪って稼ぐ方法もあるが、表沙汰に目立ってしまうリスクがあるから俺は却下だ。
……かと言って、人を殺めることもあるこの仕事もどうかと思うが……
「クソ…カネが全てとはまさにこのことだな……」
何をやるにもカネがかかる。この仕事をしていて唯一ためになる教訓だ。
「うぇ~…わたしのカラダだったらなんでもしていいからぁー…ねさせてー……」
「何言ってやがる……」
とんでもないこと言うヤツだ……半分寝てるし。
「(お前の発展途上の身体で何ができんだか……)」
「ふぇー?う~、ゼノを満足させることならー…」
「(なんで聞こえてんだよ…!)」
だんだん自分でも何を言ってるのか分からなくなってきている所に爆弾発言を重ねてくる。
もう、相手しねぇ……。
賑やかな広いエントランスホールを抜けて、狭い通路に入る。途中で階段を登り少し行った所を右に曲がると、突き当りに光が漏れている部屋が一つある。
アマネはほぼ睡眠状態で、半目で一応ついて来ている。今まで無視していたが、ここまで来るまでに随所訳の分からないことを口にしていた。もはやわざとなのか寝言なのかサッパリ判断できない。
とりあえず、今にも倒れかかって来られては困る。さっさと部屋に入るべく、ドアノブを捻る。
「やぁ、ゼノ──と、眠そうなアマネ」
陽気な顔で俺達を出迎えるのはBSF旅団長(笑)シグと、
「ゼノさんにアマネさんでしたか。こんばんわ」
「あれ、なんか今カッコ笑とか思われたような……」
いつも堅苦しい敬語で喋るミナキも、そいつの横にいた。
俺達が入った部屋は旅団長室。
シグとその補佐、ミナキの二人の仕事場だ。
ちなみにシグが仕事場で仕事をしてるかというと、それは別案件となる。
「僕の扱いってどんどん酷くなってるよねー。それはそうと、また夜出るのかい?アマネは無理そうだけど……?」
「そいつが寝てなかったらそのつもりだった」
まさか本当に熟睡するとは思わなかった。
俺の側にアマネの姿は無く、部屋のソファーでスヤスヤと寝息をたてていた。
バカだが、こいつが居ないと明らかに依頼の難度が高くなる。
情報量が重要になるこの時代で、俺には電子戦を繰り広げる技術を持ち合わせていない。
外面上にできるだけ跡を残さないようにする以上、内面からのサポートが必須になる。
それが『アマネ』だ。
「いやー、アマネットミアってすごいよねぇ〜」
「お前、俺の心でも読んだか?」
「ふふふ……何のことかな?」
────アマネットミア。
通称アネミア。意味不明、正式名不明、適当に付けられた訳の分からない名前だがそれを上回る驚異のネットワーク力を持つ。
アマネが創り上げた電子世界、ソフトで起動するらしいが詳しいことは知りかねない。
ログイン出来るのは本人だけ。使うことも見ることも全て託されている。
実際見たことがない為、どんなものなのかサッパリだが必要なのは確かだ。
「……で、どうする?ゼノ」
「私も判断はお任せします」
「………」
今夜はやめておくべきか……。
どちらにしろ、アマネは使えないことは確かだ。
それに…寝てるうちに死んでもしたら、変な罪悪感をなすりつけかねないからな。
「ねぇゼノ」
「……何だ?」
頭の中で今後の経済状況を試算していると、オフィスチェアに胡坐をかいてニタニタ顔で提案する。
「僕が代わりに一緒に行くってのはどうかな?」
「あぁ………。は?」
「すぴー…」
……またとんでもない事を言うヤツが居たものだ。




