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空色空想ネスト  作者: グレーミー
Chapter1「傭兵」
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舵を失った沈没者3

「う………」

「リユ、我慢できる?」

「…見ないようにする」

「そうした方がいい…まさかここまで酷いとは……」


見ないようにしていても臭いがその場の場景を浮かび上がらせる。

いきなりこんな光景を見せられて気持ちが悪くなったけど、フユタが傍にいてくれたからガマンできた。もし一人ならその場から動けなくなってたと思う。

目に飛び込んできたのは、四肢が無い死体や血の海に沈んだ肉の塊。明らかに人外からの攻撃で見るも無残な姿に成り果てて力尽きている人達だった。


「……とりあえず散開しよう。カイ、一人で行けるか?」

「おう、任せろ。リユはフユタと一緒にいな?」

「うん……」

「よし、分かれるぞ」


暗闇の中、フユタの合図で二組に分かれて戦闘の中心部に向かう。フユタのフラッシュライトで所々照らしながら小走りで進むと、実験棟のような小さな四角い施設が規則正しく並んでいる怪しげな区域に入った。




___グラディオ領域 西ブロック研究棟エリア 



『────おいおい!そっちはどうなってる?!』


耳に付けた通信機からカイの声が聞こえ、声色から驚きと焦りが感じられる。

あのカイがこんな焦るなんてよっぽどなのかも。入り口の時点であんな感じになってるし……

そんなことを思いながらも、カイの声を聞いてホッと安心していた。


「あぁ…こっちももうすぐだ!」

『そうか!……こっちはヤバい感じだぜ!…一体どんなペットを飼ってるんだ?!』

「ペット?」

『行けば分かる』


息を潜めながら状況を伝えるカイ。そして最後の言葉には重みがあった。まるで不可能な問題に直面したかのように……

解答用紙の答えを見ても理解できず、むしろ謎が深まるとしたら。もしかしたらその問題は触れてはいけないモノだったのかもしれない。答えと解説を読んでも分からないのであれば、自分の技量が足りないか、見るべき観点を間違えているか、それこそ神のみぞ知るという領域になってしまうこともある。

じゃあ、これはどうすればいいの?わたしたちに解くことはできるの────?



「ペットと呼ぶにはちょっと抵抗があるぞ…カイ……」

「なに…あれ……」


研究棟が立ち並ぶ区域を進み、銃声と悲鳴の聞こえる方へ向かうと、急に辺り一帯に霧が立ち込めたように視界が悪くなり、肌がさっきまでなかった空気の湿っぽさを感じ取る。

そして向こうで(うごめ)くモノは化け物そのものだった。

体は植物のツルのようなもので全身が構成され、人の2,3倍はあるだろう背丈に、体から伸びる無数のツルが横に数メートル伸びて不規則な動きを見せている。ツルの先端には植物にはありえない刃物と似た鋭利な形状をした部分があって、さらに目を凝らせば幾つかのそのツルの先端にはすでに多くの魂を刈り取った跡が生々しく記されている。


「────っ!リユ、危ない!!」「…きゃっ!」


化け物の姿からは想像できないスピードに呆気を取られる。植物の塊のくせに異様に移動スピードが速い。

怪物の全貌が明らかになり、理解不能なこの現象を必死に脳が理解しようと無理矢理解釈をしていると、フユタが突如私を抱きかかえて急に体がその場から横たわるように弾かれて地面に転げる。


「……ケガ無い?」

「ううん、だいじょうぶ…」


フユタが私の下敷きになるように抱きかかえてくれたおかげで体はどこも痛くなかった。

何が起きたのか?さっきまでいた数メートル先の地面を見ると深く抉れていた。周りのモノより一回り小さい怪物がわたしたちの方を睨みつけるように刃先を向ける。

放たれる不気味な空気は、サイズが小さくても私たちを仕留めるには十分な力と恐怖が身体中を蝕み、これは大きさの問題ではない。

「(捕まったら、やられる……)」

正確な強襲。

しかし目と思しきものが見当たらず、視覚がないのにこちらに向かって再び動き始め、狂気を放つ。

化け物は最初緩やかに右左を交互に揺れながら移動し、ある程度の間合いを詰めた後触手を大きく振りかざしてきた。


「この……っ!」


フユタが攻撃を繰り出そうとしている怪物に威嚇射撃をしながら建物の壁に沿って移動するが、刃物になっている部分に弾丸は弾かれ、本体には貫通はするがほとんど手ごたえがなく平然と追跡を止めずに距離を縮めていく。

どうしよう…このままじゃ……。うまく視界を確保できない中、必死に弱点になりそうな所を探す。

ガードされずに、それでいて比較的肉質の柔らかいどこか効きそうな場所……!


「フユタ!先端より少し手前……────刃物と触手のつなぎ目!!」

「ここか!!」


その部分を撃ってと、直接言わなくてもフユタはすぐに意図を理解し行動に移す。

走りながら、今度はサイトを使って標的をエイムし、伝えた通りのポイントに向けセミオートでトリガーを連続で引く。

不規則に動く触手に的確に狙いをつけ、弾丸は堅い装甲の僅かなウィークポイントを貫き、本体と凶器を切り離して緑の液体を散らす。

怪物は追跡を一時中断して怯み、体をくねらせてバタバタと切り離された触手を暴れさせる。


「助かったよ、リユ」

「うん……これくらいしかできないから」

「そんなことないよ。リユはちゃんと周りを見ることができる子だ。だから俺も助かったでしょ?」

「そうかな…リユは見てることしかできないのかも……」


『ググググググ……!』


先ほどまでバタつかせていた触手の出血が止まり、再び動きが活性化して怒りの咆哮が空気を振動させて深く響く。これもどこから出している音なのか分からない。

他の触手を一斉に高く上げ、本体を形成しているツルがメキメキとうねりを上げる。


「来るよ!」

「う、うん!」


怒りに任せて特攻を仕掛ける化け物の周りに、先ほどの音で更なる殺気に呼び寄せられたのか、複数体が暗闇から次々に湧いて出てくる。

数が多すぎる…!囲まれないように次々に進路を右往左往に変化させて敵を撒いていく。

自分でも方向感覚が狂い、位置を見失いかけながら、徐々に研究所の本体がある中心地にまで進んでいた。



___同領域内 中央ブロック付近


「通れない…ね」

「そう簡単にはいかないか……」

研究所本体と今いる西側の研究棟は別々に隔壁で区切られており、直接本体には行くことができなかった。

被害はかなりの範囲に広がっており、視界の脇には施設外に脱出を図ろうと非常扉付近に辿り着くも願い叶わずに力尽きた研究員もいた。


こんなのが外にでも出たら大変なことに……。

おかしい…何かおかしい。本当にあの化け物は脱走したの・・・?故意に誰かがやった……?

この付近の研究員は装備が貧弱すぎる。精々携帯できるハンドガン、もしくは何も持たない無防備な状態でやられてしまっている。

いくら極秘依頼でもここまでくればバレてしまうはず。

どこかが狂ってしまっている……やっぱりこれ………


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