なんとか食いつなぐ話 2 ツノブーブの煮込み 美味っ
「美味い」
目の前に並ぶ料理を一口食べ思わず言葉が漏れた。
女将さんが大盤振る舞いで作ってくれた料理はどれも美味しかった。
特にこの店、銀の突き匙亭の名物料理だというツノブーブの腸詰めとヒレ肉の煮込みは絶品だった。
酸味のあるトマや炒めた甘いオニーンと一緒に煮込んであるたっぷりのマーメ。
そのまろやかな食感とツノブーブの肉の旨味が絶妙に合い、もう一口もう一口と食べたくなってしまうクセになる味わいだ。
コーメと一緒にモーモのチーズをこれでもかってほどのせて魔火オーブンで焼いても美味しそうだ。
すっかり腹も膨れ、食事のお礼に他の魔工具も簡単にメンテすると言うと女将さんはなんとも上機嫌になった。
「それでアンタはいま無職で食べるものに困ってるのかい?なら、しばらくうちの食堂を手伝いな。まかないとほんの少しだけど日銭も出せるよ。移民?目も鼻も口も同じ数ついてるのにアタシらと何が違うさね。バカバカしい。それにアンタ少しだけ似てるんだよ」
「…あの子に」
そう言って、女将さんは流行り病で旦那さんと息子を亡くしたこと、女手一つで切り盛りするこの食堂が最初はとても馬鹿にされていたこと、亡くなった息子と俺が同じ年であることを話してくれた。
ブルーメは、心の広い女将さんに一生懸命働くからと深々頭を下げた。
本当にありがたい。これで何とか食いつなげる。
次の日から、さっそく銀の突き匙亭で働き始めた。
仕事は主に皿洗いと料理のお運びだが、そこそこ人気がある店なのに俺以外に店員がいない。
「ああ。前まで手伝ってくれてた人が腰を悪くしちまってねえ。魔火オーブンやコンロの掃除もお願いしてたから一人で大変なんさね」
だからか。魔工具のメンテが行き届いてない。
店をまわすので精一杯なんだろう。
オーブンもコンロも定期的にメンテすれば、もっと料理が美味しくなるのに――
俺は煤けた魔火オーブンをじっと眺めた。
女将さんは俺が来て楽になったと喜んでくれているけど、俺がいなくなったらまた一人で切り盛りするつもりなのか?
夜の営業時間になると仕事が終わった客で店が賑わい始めた。慣れない料理運びに足がもたもたする。
そんなざわめきの中でも良く通る、低い美声が俺を呼び止めた。
「こんな所で、何をしてるんですか」
ゆっくりと顔をあげた先には、一度見たら忘れられないだろう神々しいイケメン。
そして爽やかで、息が詰まるほど濃く甘い、あの、匂い。




