なんとか食いつなぐ話 3 キンキンに冷えたエールをどうぞ 食堂魔工具その1
「おや、ライモンドじゃないか。久しぶりに顔を見たよ。ブルーメとは顔見知りかい?」
どうやらライモンドは銀の突き匙亭の常連らしく女将さんが顔を見るなり声を掛けた。
「ええ、先日友人になりまして。まさか女将さんの店にいるとは思わなくて驚きました。ねえ、ブルーメ」
そう言ってライモンドはそのとても涼やかな、思わず見惚れてしまうような目元を細めてブルーメを見た。
ブルーメはたった一度しか会っていないのに自分を呼び捨てにするライモンドに戸惑いながらも、そのイケメン過ぎる目線が自分に流れて来たことにドキリとした。
「その節はお世話になりまして」
思わず頬が赤くなるのを隠すようにペコリと頭を下げた。
ライモンドはそんなブルーメの顔をじっと見つめたかと思うと、手をぎゅっと掴んで自分の方に引き寄せた。
そしてブルーメの耳に、彫刻のような美しい顔の、これまた見惚れるくらいにスッと通った鼻梁を近づけ、低音の美声で囁いた。
「大事な手に、知らないところで怪我、しないでくださいね」
つっと硬い指先を手の骨に沿って這わせる。
ブルーメの心の臓はドクンと大きくはね、頬は熱を持った。
そんなブルーメの上気した頬と骨ばった長い指先を美しい翡翠の双眸に映し、ライモンドは満足気にその形の良い口の端を上げた。
「それにしても今日のエールは氷のように冷えていてとても美味しいですね」
煮込み料理とエールを頼んだライモンドが一口エールを飲んで綺麗な形の眉を少し上げてそう漏らす。
「ああ、ブルーメがグラスを冷やしてくれる道具を作ってくれたんだよ!いつもと同じエールが今日は何倍も美味しいって、来た客はみんな言ってくれるんさね」
嬉しそうに話す女将さんに、ほう、とライモンドは興味深そうにうなずき、同時にブルーメに涼やかな視線をやった。
遡ること昼の中休みの時間、ブルーメはズボンのポケットにある銅貨をごそごそと1枚取り出した。
そうして店のゴミ箱から使い終わった冷魔石を一つ拾うと、包丁の柄で砕き始めた。
砕いた魔石の粉を銅貨に満遍なくかけ、そこら辺にあった鉄串の先でちょいちょいと設計式を描き、今度は熱魔石のクズの粉を一つまみ。
パチン、銅貨から小さな火花がはぜるのを横目にエール用のグラスをそれにのせる。
するとグラスがどんどん冷えていき、しまいには霜がつくほど冷たくなった。
熱伝導率の高い銅貨でグラスの熱を吸収し、空気中に放出するという仕組みを即興で作った。
廃棄魔石の微量な魔気と熱力学を利用した簡易冷却装置だ。
「これはすごい。身の回りにあるものと捨てるしかないようなものを使ってこれほどのものが…素晴らしい魔工具だ」
ライモンドは簡易冷却装置を見て感心したように唸った。さらにそれを即興で作ったというブルーメに驚きを隠せないという顔をした。
上機嫌な女将さんとライモンドの賛辞に、ブルーメは少しだけ得意げな気分で意気揚々とその後の仕事に取り組んだ。
次はもっと驚かせてやる。
そんなブルーメを翡翠に捕えてライモンドは一人呟いた。
……今年は楽しい年になりそうだ。
私の、銀の蕾。銀の花。
咲き誇る姿は、どんなにか美しい。
その貌には惚れ惚れするほど美しく獰猛な笑みを湛えていた。




