転職とは 3 試験、控え目に言って楽しすぎでしょ
試験は計算と論述だった。
計算は、魔気制御・魔気回路についての問題や、魔気関数の基礎知識を問うものなどだった。
これがなかなかにクセモノの引っ掛けで、つい先日まで現場にいた自分でも一瞬頭をひねってしまった。問題文に書かれていない前提条件。――これが肝だろう。作問者はなかなか巧妙に罠を張っている。面白い。
そう思いながらサラサラと解答していく手が、「その問題」に来た途端、ぴたりと止まる。
――問7。これは。
こんなの……固定がはずれちまうだろ。
ダメだ。――怖い。
ただの問題なのに、背筋がゾッとして血の気が引いた。
手が動かない。
凍りついたように動かなくなった手を何とか動かすと、一度書こうとした答えに大きくバツを打ち、しばらく考えたのち一文だけ短く書き残した。
そしてまた次の問題からは、こんなの現場ではあり得ないよな、俺ならこうする。なんて声が出そうになりながら問題を解いていった。
母さんの魔工具の設計の計算に比べたら、ずっとずっと簡単だ、なんて思いながら。
論述は、一般的な魔工具の一つを選んで設計式を組み、自分の設計理由を解答せよというものが一つ。
俺は家の魔冷庫について書いた。
魔石の消費量は一般のものの半分以下。冷凍機能もつけてある。ま、その分めんどうくさい回路だけどな。
無駄な魔気なんて使ったら、母さんのゲンコツが飛んでくる。
魔気無駄にする馬鹿、大馬鹿者って口癖みたいに言ってたもんな。
最新の最高級魔冷庫でも、魔石消費の削減は従来の一割程度が限界だ。
その設計式を、試験監督が革命的だと何度も見返していることなど露知らず、ブルーメは楽しげに図面を引いていた。
もう一つは、現在の魔工技術の問題点と解決法について記せというもの。
魔石依存の問題や伝統魔工具の後継者不足の問題など、それはもう、ずっと前からこうすればいいんじゃないか、こうすればもっと良くなるって思っていたこと。そういうの、人に言っていいんだって思いが湧き上がって感激して、試験中に不謹慎かもしれないがワクワクしながら解答してしまった。
追加で解答用紙も貰ってしまった。少し書きすぎたかもしれない。
他の受験生は今回の試験の難易度の高さに、開始直後から首を振った。
計算問題で苦戦した受験生も、魔工具の設計問題についてはカリカリとペンを走らせた。べったりヒョロ男など、得意満面で。
よくある魔工具の設計式を。
最後の問題になると、また受験生は渋い表情をした。
ペンを走らせては止まり、また短く走らせては長く止まり。
ありきたりな一般論を。
そんななか、試験監督はブルーメの横を通り過ぎるたびに、しばし立ち止まりぎょっとしたようにその解答を眺めた。
別の試験監督も次々と解答を見に不自然に通り過ぎる。
会場の隅で試験監督達がざわついた。
「とんでもない奴が混じってる」
「あの魔冷庫の回路は成り立つのか?」
「わからん。あんな奇抜な設計は初めて見た」
「理論上は可能だが…」
問題を解くことに集中していたブルーメはさっぱりそのことに気づいていなかったのだが。
自分の解答を見直し、ふうっと息をついたところで終了の合図があった。
楽しかった。
半ば強引に受けることになってしまったような試験だけれど、妙な達成感に俺は身震いした。
母に張り倒されながら学んだことの答え、自分と魔法工学、それがいま、繋がった気がした。
結果は一週間後に、この会議室に貼り出されるらしい。
喧嘩を売ってきたアイツらに会うのは嫌だけど、計算問題の解答も出るそうだから答え合わせに来てみるか。




