転職とは 2
二日後の水の刻より半刻早く、俺はグリンベルク王立学院の会議室にいた。
初めて足を踏み入れた学院の重厚で格式高い佇まいに、場違い、という言葉が頭に浮かぶ。
ちらと会議室を見やると、広い室内のほとんど全ての机を埋めてしまうほどの数の受験者が緊張した面持ちで座っている。ざっと見て50人はいるだろうか。みな、小綺麗な格好をして頭が良さそうだ。大半が貴族なのだろうか。
さっさと試験を受けてまた労働ギルドで職を探そう。ライモンドには悪いけど受かる気が全くしない、ブルーメは試験が終わったあとのことをもう考えていた。
はたと受験者の一人と目が合った。べったりと整髪料で髪を撫でつけいかにも高そうな服装をしたヒョロヒョロの男。年齢は俺と同じくらいだろうか。人を見下したような目つきが嫌な感じだ。そいつは俺を見て鼻で笑うとツカツカと近づいてきた。
「この歴史あるグリンベルク王立学院の教員試験に随分場違いな方が座ってますね。清掃員の応募はここではないですよ?」
その瞬間、室内にどっと笑いが起こる。
自分の持っている服の中でも一等綺麗なものを着てきたつもりだったが、どうやら俺は相当浮いているらしい。笑っているのは貴族だろうか。平民らしき数名の受験者が同情したような目で遠巻きに見ている。
住む世界が違うやつら。もう絶対会うこともない。
ここ数日、色んなことがあり過ぎた。
我慢の容量が俺の小さな器の限界を超えてしまったらしい。
考えるより早く、普段の俺なら、絶対の、絶対にしない行動を取っていた。
「着てるものや持ってるもののお高さで筆記試験の点数が決まるんだったらアンタはたしかに満点かもしれないな。けど、もし俺が受かってアンタが落ちたらホント大笑いだ。いま笑ったやつもね。中身がお安いってバレちまう」
べったりヒョロ男と先ほどまでブルーメを笑っていた者たちが血相を変えた。生意気な貧民め、とブルーメの周りを取り囲む。ブルーメも自棄っぱちで睨み返し一触即発な重い空気が会議室に漂う。
その空気を打ち破るかのように会議室のドアががらりと開いた。
「君たちは何をやっているんだね?試験が始まるから席に着きなさい」
試験官の言葉に、驚くほどあっさりとブルーメを取り囲んでいた者たちが席に戻っていった。悪い印象を試験官に持たれたくなかったのだろう。
べったりヒョロ男もブルーメに憎々しげな視線を這わせたのち席に着いた。
本当に嫌なヤツだ。
ふつふつと怒りと、やる気の両方が湧き上がってきた。
試験官が筆記試験の時間や注意喚起をつらつらと読み上げる。
始めという合図とともに試験が始まった。




