今日は本当に良い天気3
銀色が12基の樽電池を、その手で一つずつゆっくり優しく撫でた。
その姿がスローモーションのように揺らぎながら重なる。
「……赤アタマ、外の人にこの部屋の固定を外すように言ってきて」
レオンハルトはハッとして銀色―ブルーメと目を合わせると小さく頷き、外周に繋がる扉へと駆け出した。
ブルーメは、残ったライモンドの翡翠色の瞳を見据えた。
「…あんた、誰?こんな悪趣味なことして」
目の前の翡翠の瞳の男は、声を出して笑った。
ゆったり楽しそうに、支配的に。
「「―私は―」」
――ドクン
樽電池がさっきより大きく脈打った。
「あんたと話してる暇、なくなった」
「――ライモンド、手伝って」
そう言ってくるりと目の前の男に背を向けると、樽電池の前に座り込んだ。
「こんなにガチガチに固定して、わざと建物と繋いで。可哀想に。苦しくて息もできなかったろ。いま、息吸えるようにしてやるな」
樽電池を触り、指先でぱちんぱちんと側面を弾いていく。
「…赤アタマ、部屋の固定外してくれたみたいだな。ライモンド、王都の導線全部を道にしたいんだ。樽電池が息できるように。10分で」
「わかりました。あなたの頼みなら」
神々しいイケメンはニッコリ笑った。
「固定班へ伝達。学院固定式を第四層まで解除。王都導線を10分以内に全開放して下さい」
優雅に外周へと走ってきたライモンドの静かな指令に、境災班は慌てふためいた。
「なっ、そんなことをすれば王都全域へ……!」
「構いません。今すぐです」
柔らかな圧に、境災班の者たちは声なき返事をして、全速力で四方八方へ駆けて行く。
「――ライモンド試験監督長。あいつは何をしようとしてるんですか。同期を解除した反動をどうするつもりで――」
レオンハルトの問いに、ライモンドは目を細めた。
「道という道を使って、王都全体で分け合うそうです。もうすぐ、小さな奇跡が起こりますよ」
境災班の最後の一人が汗だくで駆け戻って来たところで、ライモンドは実験場に向かって手を上げた。
次の瞬間。
王都の全ての魔気灯が夜明けの暁紅のように赤く点灯し、魔工具という魔工具は楽しそうに鈴の音のような笑い声をあげ共鳴した。水路に流れ出したまばゆい光は街路を駆け抜け、ドクン、城壁が心臓のように脈打った。仕上げに、王都の空が柔らかい飴のようにぐにゃりと口角を上げ曲がった。
その現象に、ほんのわずかな時間、驚きと、人によっては立ちくらみを感じた者もいたが、すぐに元の喧騒に戻っていった。
「良かったな」
ブルーメは優しく呟いた。




