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彫刻のような男は分割払い 捕食動物の甘い香り

固く目を瞑って数秒、ぎゃっというフロッガーが潰れたような声が聞こえた。


薄目を開くと、大きな、大きな背中。


あの貴族の子息風の男が何か喚き散らしている。どうやら目の前の男に腕を捻り上げられて痛いだの離せだの俺は貴族だぞなど言っているようだ。しょうもない。


眼前の男が何かを耳打ちすると、喚き散らすのをやめ恐怖で顔を青ざめさせた。そしてブルーメを涙目で睨むように一瞥すると、何度も転けそうになりながら小走りに逃げていった。



「すみません、助かり…」


改めて礼を言うために顔をあげたブルーメは、振り向いた男をしばし惚けたように見つめてしまった。


その広すぎるほど広い背中の男があまりにもイケメンだったからだ。


背は小柄なブルーメより頭1つ半ほど大きい。

綺麗に筋肉がついた体躯の肩は広く、腰は締まり、おまけに脚がすこぶる長い。

少し青みがかった濡れたような黒髪に、印象的な翡翠の双眸。

その美しさたるや、光の神バルデュール様の彫刻のようだった。





男がその綺麗な眉を少し寄せたのを見て、ハッとしたブルーメは慌てて頭を下げた。しまった、あまりに見つめ過ぎて不審がられたのか。

 

「あの、本当に助かりました。お礼をしたいんですけど今無職なのでたいしたことができなくて…」



すると、男はブルーメの荒れてゴツゴツとした手元をじっと眺めながら、それはそれはイケメンな神々しい顔をくしゃりとさせて笑った。




「じゃあ分割払いで」



  

そして意外なまでに硬い掌で、ブルーメの手をなぞるように、ゆっくりと握手した。




トクンと、心臓が大きく、大きく、跳ねる。




神々しく笑う前のほんの一瞬、気付くか気付かないかくらいわずかな時間、その瞳の奥に深い沼のような渇望の色をたたえていたように見えたのはきっと気のせいだ。



風に乗り、ふわりと甘い香りがした。

さっき鼻先を掠めたあの香り。

それは、もう一度嗅ぐと爽やかな甘さの底に捕食動物のような強い獣の匂いがした。



ライモンド・ヴァルツァーとの出会いはこんなふうだった。


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